あのひとの本棚。
     
第6回 堺雅人さんの本棚。
   
  テーマ 「酩酊状態で読む5冊」  
ゲストの近況はこちら
 

酩酊状態っていうのは、
要するにお酒に酔っているということですね(笑)。
最近は飲みながら読むことが多いんですよ、
「酩酊読書」なんて自分では言っています。
ある意味、ただの時間つぶし。
でも、時間つぶしの時間ってけっこう好きなんです。
一杯やりながら、ぽーっとして読む5冊を紹介します。

   
 
           
           
 
 
 
 
『オンリー・ミー』 三谷幸喜 幻冬舎/600円

これはもう、文句なしにおもしろいんですよ。
かなり酔ってても、泥酔状態でも、たのしめると思います。
三谷幸喜さんが昔、「とらばーゆ」でなさっていた
連載を中心にまとめられたエッセーなんですけど、
若い頃の三谷さんがグシャッと1個になってる感じがして。
くだけた文章で、ユーモアにあふれてて、
でも何かをごまかしたりはしていなくて、
しっかりと、その時の息吹が感じられるんです。
‥‥って言ってしまうと、
「そんなたいそうな本じゃないよ」
と三谷さんには言われそうな気がするんですけどね(笑)。
とても読みやすい本です。
読んでらっしゃらないかたは、ぜひ。

気軽に活字を追う楽しみというか、
おしゃべりを聞いているような、
その楽しみのためだけに本を読むというのも
ぼくは別に間違ってないなと思うんですよね。
気軽に読むために、ぼくの場合は一杯やるわけで。
気軽に読んで、
「そうだよねー」「うんうん、わかるわかる」
と「共感」するだけの読書も、全然いいと思う。
それは同時代じゃないと味わえないものだから。
こんなにおもしろい人と同時代でよかったなぁって、
ほんとに思いますよ。
この人のナマの言葉を、いま味わうことができる。
そういう幸せを、
話しかけるような言葉でわかりやすく伝えるっていうのが
エッセーの妙技なんじゃないかなと、
エッセーのよさは結局そこなのかな、という気がしますね。

最後に、ごめんなさい。
「5冊紹介」という約束はわかっているんですが‥‥
同時代のエッセー系ということで、もう一冊。

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『今、何してる?』 角田光代 朝日新聞社/525円

すごく共感することが多かった一冊です。
角田さんの人となりが文章からにじみ出ていて、
それが自分にとても似ているような気がして‥‥。
こちらも、ぜひ読んでみてください。

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『すべてがFになる』 森 博嗣 講談社/770円

最近ぼくは、小説をほとんど読まないんです。
ひとつの小説を噛み砕いて自分の滋養にしていくのに、
ものすごく労力がかかるようになっちゃって‥‥。
仕事で原作を知る必要がある場合はちゃんと読みますよ、
でもそれ以外では、この歳になると、なんていうか‥‥
いろんな男に身を任せるみたいに
いろんな物語に身を任せられなくなっちゃったんです。
昔はそれこそ、男から男へ、みたいな感じで
いろんなフィクションに抱かれてたんですけど、
ここまで歳を取ってくると、
おいそれと自分の操は許せないっていうか(笑)。
ただね、ミステリーは別なんです。
小説の中でも、ぼくにとっては敷居が低くて
入りやすいんですよ、ミステリーは。
さらに、一杯加減だと物語に対して無責任になれるし。
「もう殺すなら殺せ」とか「やっつけちゃえ」って(笑)。
犯人が殺人に至るまでの悩みとか葛藤とか、
鼻歌まじりで読み飛ばして、伏線なんかも気にしないで、
なんなら5ページ飛ばしてもいいや、くらいで(笑)。
でも、ミステリーなら何でもいいわけじゃないんですよ。
安心できる探偵が必要なんです。
この『すべてがFになる』でいうと、
犀川創平という工学部の助教授がそうですね。
この人の言うことを聞いておけば間違いないだろう、
というところで読んでいくんです。酔いながらね。
つじつまとかトリックとか、細かいこともあるけどさ、
ま、それはそれとして、探偵さんの名言を楽しもうよ!
そんな感じで(笑)。
著者にはほんとに失礼な読み方なんですけど、
酩酊して読むミステリー、
ちょっとおすすめしたい読書方法ですね。

   
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『新 折々のうた(8)』 大岡信 岩波書店/735円

ぼくは、自分がすごく散文的な人間だと思ってるので、
どうしても、詩人とか歌人とかに憧れがあるんですね。
詩をつむぎたがる人とか、
歌を歌いたがる人たちに、憧れがある。
彼らの詩に接したいという気持ちが、すごく強いんです。
でも、短歌とか詩って、ほら、
一行に凝縮した命のきらめきみたいなものでしょう?
それが1ページに5つも6つも並んでいると、
きらめきに、めまいがするんですよ。
ぼくの体温では、なかなか
その結晶をぜんぶ溶かしきれないというか‥‥。
この本の、なにがいいかと言うと、
1ページにふたつしか載ってないということなんです。
どのページから開いてもいいし、
わかんなかったら二首、飛ばし読みしても構わない。
こっちは酩酊読書で酔っぱらってますから、
それでもけっこうわかった気になるんですけど(笑)。
芭蕉、一茶から平成の名句、名歌と、新旧織りまぜて
いろんな詩が並んでいるのもおもしろいです。
あとは、一首ずつに添えられた解説ですね。
こんな見方があるんだよ、っていう
ソムリエの目があるというか。
この解説のおかげで、詩をたのしめているんだと思います。
もしかしたら解説が読みたいだけなのかもしれない。
酩酊状態のときには、ほんとにいい本ですよ。
‥‥でも欲をいえば、1ページに一首がいいんですよねぇ。
糸井さんの『小さいことばを歌う場所』みたいに。
1ページにひとつ。あれはとてもありがたかったです。

   
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『街道をゆく(1)』 司馬遼太郎 朝日新聞社/525円(税込)

司馬遼太郎さんの紀行文です。
ぜんぶで43巻あるんですけど、
ほんとにね、どの巻から読んでもおもしろいんです。
教科書に載っていない歴史の人物に触れたり、
ちょっとマイナーな話になっていったり‥‥。
で、この本がなぜ酩酊読書にいいのかというと、
微妙に似たことを、ときどき繰り返して書いてるんです。
43巻あるなかで、「ん? これ読んだことあるぞ」
っていうのが適度に出てきて、そういう感じが、なんとも、
ぽーっと読んでるときにイイんですよ。
お酒に酔ってではなく、風呂のなかで読んだりもしました。
それもまた、ぽーっとする酩酊読書かな。
旅というもの自体も、ぽーっとするものですよね。
でも、ぼくは旅行に行きたいと思ったことが
あんまりないんです。
俳優の仕事が、代償行為になってるのかもしれませんね。
自分じゃない誰かになってそこに入り込むっていうのは、
ちょっと旅に似ている気がします。
このシリーズは司馬さんがお亡くなりになって、
未完のままで終わっているんです。
残念ですね、ずっと書き続けてほしかった。
ぼくは宮崎出身なんですけど、このシリーズには
宮崎のことが書かれていないんですよ。
来てほしかったです、宮崎にも。
司馬さんに宮崎のマイナーな街道を歩いてもらいたかった、
というような気持ちが、ほんとうにあるんですよねぇ‥‥。

   
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『エセー〈1〉人間とはなにか』 モンテーニュ 中央公論新社/1628円(税込)

哲学者の本っていうと、もう、この佇まいからして、
背筋が伸びて緊張しちゃうじゃないですか。
だけど、お酒を飲んでいると、
こういうのにも怖いものなしで入っていけるんです。
内容が理解できなくても「いまは酔ってるからだ」とか、
「所詮この人は400年前のフランス人なんだよなー」とか、
いろいろ言い訳もできるし(笑)。
難解そうな古典って酩酊読書にすごく向いてますね。
『徒然草』もそうかな、同じようにして読んでいます。
‥‥なんていうか、
ぼくとあなたがわかりあうために、この本があるんでしょ?
だったら、ぼくがわかんなかったら意味ないからね?
っていう、偉そうな目線になれるんです、酔ってると。
『エセー』っていうのは「エッセー(随筆)」という言葉の
語源になっているくらいなので、内容としては
ほんとにいろんなことが書かれています、徒然なるままに。
意外と下ネタが多かったりして(笑)。
延々と書いて結局それかよ?! って思う文章もあるし。
そんなときは「なんだそりゃ?!」って読み飛ばしちゃう。
「徒然なるままにも、ほどがあるだろ!」って(笑)。
で、そうやって飲みながら読んでると、たまにね、
スーッと著者に近づく瞬間が訪れるんです。
「あ、これわかる」って。
400年前のフランス人の言ってることが、わかる。
それはやっぱり感動なんですよ。
酔ってないと、そうはならないのかもしれない。
酩酊読書の醍醐味ですよね。

 
 
堺雅人さんの近況

「ほぼ日」には、こちらや、こちらなどで、
すでにご登場いただいている堺雅人さん。
映画やテレビでのご活躍はみなさんご存知のことでしょう。

お知らせしたいことが、みっつあります。
まずは堺さん主演の映画から。

『壁男』

9月15日(土)レイトショー
テアトル新宿他にて

堺さんは、仁科光という名のカメラマンを演じられます。
「壁男」って‥‥?
堺さんに、映画の観どころをうかがってみました。

「ぼくの役どころは順風満帆に生きてきたカメラマンです。
 そんな男がある日、壁男の都市伝説に取り憑かれていく。
 壁が気になって、壁の写真ばかり撮るようになるんです。
 ‥‥その先は劇場でのおたのしみといたしまして、
 ホラー映画なんですけれど、ホラーが苦手な人にも
 十分たのしんでいただける作品だと思います。
 ぜひ、ごらんになってください」

上映スケジュールなど、
詳しくはこちらの公式サイトでどうぞ。

続きまして、舞台のインフォメーションを。

『恐れを知らぬ川上音二郎一座』

作・演出/三谷幸喜
2007年11月10日より シアタークリエにて

ことしの11月、東京日比谷にできる新しい劇場、
「シアタークリエ」の
こけらおとし(劇場ができて初めて行う興行のこと)に、
三谷幸喜さんの書き下ろし新作が上演されます。
このおめでたい舞台に、堺雅人さんがご出演。
明治の破天荒な演劇人、
川上音二郎(ユースケ・サンタマリアさん)率いる劇団の
文芸部・伊藤実役を演じられます。
公演についての詳細はこちらでどうぞ。

最後にもうひとつ、映画のお知らせを。

『スキヤキ・ウエスタン・ジャンゴ』

9月15日(土)渋谷東急ほか全国一斉ロードショー

スキヤキ・ウエスタンとは、
日本の時代劇とウエスタンの融合なのだそうです!
画期的な試みのこの映画で、
堺さんが演じるのは、ギャングのボスを守り
忠義に生きる闘将・平重盛。
撮影は全編英語で行われたとか。
詳しくは、公式サイトをチェックしてくださいね。

堺雅人さんの公式HPは、こちら

 
2007-09-20-THU
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