ほぼ日刊イトイ新聞

60歳になって、ようやくわかった。「わたしが服をつくる意味」

「FLY、FLY、FLY」HOUSE 島地保武 PH:上原勇(サン・アド) 協力:市原湖畔美術館 2018年

ひびのこづえさんの、60歳の創作論。

コスチュームアーティストの第一人者として
活躍するひびのこづえさんが、
「60」というタイトルの展覧会を開催しています。
ご自身の年齢を、そのまま冠したのです。
「若いころの自分だったら、
そんな恥ずかしいタイトル、ありえなかった」
では、なぜ今、その名をつけたのか?
60歳を前に出会った、本当にやりたいこと。
ようやくわかった、服をつくる意味。
多くの人が憧れ、目標にするひびのさんが、
ここまで貪欲に「つくりたい!」と
渇望してらっしゃることに、感動しました。
担当は、ほぼ日の奥野です。

第4回わたしが服をつくる意味。

──
ひびのさんは、60歳で、
本当に新しい挑戦をされてますが‥‥。
ひびの
ねぇ(笑)。
──
売り込みなんかも、ご自身で?
ひびの
売り込み、売り込み、売り込み、です。
自分で行くほうが「伝わる」から。

最終的には、
劇場で上演ができたらいいと思ってます。
シンプルなセットひとつで、
午前やって、午後やって、夜やって‥‥
というふうに3本立てでやれば、
経費も節約できて、
みんなも、たのしめると思うんです。
──
運営のところまで考えて。
ひびの
もちろんです。
──
大変そうだけど、たのしそうです(笑)。
ひびの
たのしいですねえ、大変ですけど(笑)。

大きな劇場へ営業に行ったら
「‥‥で、プロデューサーは誰なの?」
とか聞かれたりしながら(笑)。
──
あらためてですけど、
ダンスのパフォーマンス公演というのは、
そこまでして、やりたいことだった。
ひびの
とにかく、みんなに、見てほしいんです。
素晴らしいから、なるべく近いところで。

今の劇場のありかたもどうかなって、
思うところがあって。
だって、1万円とかするじゃないですか、
演劇の公演は。
──
そうですね。
ひびの
チケット買って、よく行きます?
──
なかなか。
ひびの
行けないですよ、そんなに高くちゃ。

わたしは、劇場って、
もっとみんなが気軽に行ける場所に
なってほしいんです。
子どもでも、おじいちゃんでも、誰でも、
気軽に芸術作品に出会える場所に。
──
ひびのさんの、今度の公演は‥‥。
ひびの
1200円です。

でも、安いからと言って、
素人のお遊戯会のような、
観客を、子ども扱いするようなものとは、
ちがいます。

「サーカス」森山開次 新国立劇場小劇場 提供:新国立劇場   2015年

──
ひびのさんがやることですから、
そこは、絶対妥協しないところですよね。
ひびの
自分がそれを、見たくないから。
──
料金を安く設定しているのには、
何か、工夫をされてるんですか?
ひびの
わたしの公演の場合、ほぼ稽古がないです。

もちろん、きちんと準備します。
音は、テーマに合わせオリジナルでつくり、
ダンサーはふだんから鍛えているし、
わたしも動きを考えながら衣装をつくるし、
つまり全員がプロですから、
たとえダンサーが即興でやっても対応できる。
──
わあ。
ひびの
そうすると、目の前で踊るという
ライブのおもしろさが、増幅されます。
──
むしろ、スリリングな公演になる。
ひびの
そしていろんなところで上演したいし、
とくに遠い場所に行くときは、
出来るだけ
ダンサーの体力と相談しながらですが、
上演数を増やしたりしています。
──
なるほど。
ひびの
ひとりでも多くの人に見てもらえるし、
ダンサーさんにも、そのぶん、
きちんとギャランティを払えますから。
──
これは、とっても勝手な感想なんですが、
ひびのこづえさんという
第一線で活躍しているクリエイターが、
自分で売り込みの営業をして、
料金のことまで考えて、
やりたいことをやってらっしゃる姿が、
何というか、すごいことだと思いました。
ひびの
石川県の珠洲の奥能登国際芸術祭で上演した後、
会う人会う人、みんなが
「見ましたよー」って声をかけてくれて‥‥。

最初はダンスなんて関心がなさそうだったのに、
その日から
みんなの感覚がはっきり変化したように感じて。
──
わ、うれしいですね。
ひびの
そう、そんなことがあると、
ほんのちょっと、ほんのちょっとだけど、
町の生活に、
アートが入り込んだ気がして。
──
ええ、ええ。
ひびの
そのストレートな反応の楽しさに、
ようやく気がついたんです、60で(笑)。
──
あの、60歳という年齢は、
自分にとっては19年後なんですけど、
どうなるんだろうと、
いまから、ちょっと想像つかなくて。
ひびの
ですよねー。わたしも、おんなじでした。

赤いちゃんちゃんこなんか、
ぜったいに着たくないと思ってるでしょ?
──
そうですね、今のところは。
ひびの
わたしもぜったいに嫌だって思っていて、
だから、自分の展覧会に
こんなタイトルをつけるだなんて、
若いころのわたしなら、ありえなかった。
──
でも、つけたのは‥‥?
ひびの
今、自分が立っている60歳という地点に、
きちんと向き合わないと、
先に進めないなあって、思ったんです。
──
今日は、ずーっとおんなじことを
聞いている気もしますが、
ひびのさんは、
服って、どういうものだと思っていますか。
ひびの
何だろう‥‥‥‥‥‥動く絵、かなあ。
──
今回の展覧会の文章に、
「60代直前で、やりたいことを見つけた。
 それは人に本当の服を着せる事だった」
とあるんですけど、
この「本当の服」というのは、何ですか?
ひびの
わたしは、これまで、
雑誌だとかコマーシャルのお仕事で、
モデルさんを、
きれいに、きれいに、飾ってきたんです。
──
ええ。
ひびの
もちろん、それだって、たいせつな仕事です。

でも、もっと、自分の服を通して、
人と人とがつながったり‥‥
地域の人たちとコミュニケーションできたり、
実際に着てくれる人と、
寝食を共にするような感覚を共有したり‥‥
服をつくるって、
そういうことだったんだって気づいたんです。
──
なるほど。
ひびの
わたしが服をつくる意味が、
今ようやく、わかったような気がしています。

「FLY、FLY、FLY」STAND LIGHT 島地 保武  PH:上原勇(サン・アド)  協力:市原湖畔美術館  2018年

<終わります>

2018-04-13 FRI

みずうみのほとりから広がっていく、ひびのこづえさんのアート。 糸井重里

ひびのさんのつくる演劇の衣装って、
アート作品ですから、
お芝居そのものを変えてしまうくらいの
パワーやインパクトがあります。
それでいて、「ああ、この衣装でよかった」って、
観客にも、仲間たちにも思われています。
ひびのさんの衣装を身につけた役者たちさんが
舞台を飛びまわっていることは、
美術通ではない、ぼくらふつうの人にたいする
アートの方法として、
とっても素晴らしいことだと思っていました。
アートって、どうしても、「展示される」ことで、
わかっている人たちだけの間に、
閉じこもってしまうところがありますから。
でも、ひびのさんがつくる衣装というアートは、
そうじゃないところに、
破裂して、ばらまかれていく感じがあるんです。
そう思っていたところに、こんどの展覧会です。
ひびのさんの衣装から、
ダンスパフォーマンスを組み立てていくそうです。
これまで、演劇のなかでいきいきと輝いていた
ひびのさんのアートが、
こんどは美術館で爆発するんだって、思いました。
いきものにくっつくことで、
とおくまで運ばれていく植物の種がありますけど、
ああいうことが起こるんじゃないかなあ。
ひびのさんの衣装からばらまかれるイメージが、
みずうみのほとりの美術館から、
どこまで広がっていくだろうと、わくわくします。
赤ちゃんが見に来てもいいって言うし、
美術に詳しくない人にこそ見てほしいと思います。
美術館に「作品」を見に来たはずの人にも、
別の何かを、くっつけてくれるんじゃないかなあ。
ぼくも今から、見に行く日を楽しみにしています。


市原湖畔美術館で個展「60」開催中。 合計で10回開かれる ダンスのパフォーマンスは必見です!

千葉県市原市・高滝湖のほとりに建つ
市原湖畔美術館で、
ひびのこづえさんの展覧会を開催中です。
ご自身の年齢「60」を冠した本展は
新作含めた作品約50点が展示されます。
また、ひびのさんの衣装をまとった
ダンサーがパフォーマンスする公演も
会期中に合計10回、開催されます。
還暦を迎えたひびのさんが
「やっと、やりたいことをみつけた」
という公演、ぜひ見ていただきたいです。
会期は、6月24日(日)まで。
とくに、これからの気持ちいい季節は、
水と緑のすばらしさも、堪能できますよ。
ぜひ、足をお運びください。

60 (rokujuu) ひびのこづえ展

会場:
市原湖畔美術館
住所:
千葉県市原市不入75-1
時間:
平日: 10:00~17:00
土・休前日: 9:30~19:00
日・祝: 9:30~18:00
休館:
月曜日(祝日の場合は翌火曜日)

パフォーマンス公演について

ひびのさんの衣装を身にまとったダンサーが、
展示室内のステージで、
音楽に合わせて、パフォーマンスを行います。
演目は、3つ。日程によって変わります。

「FLY、FLY、FLY」

島地保武×川瀬浩介
4月21日(土)22日(日) 15時~
5月12日(土)13日(日) 15時~

「WONDER WATER」

ホワイトアスパラガス×川瀬浩介
5月5日(土)6日(日) 13時~

「Humanoid LADY 市原湖畔美術館ver.」

引間文佳×川瀬浩介
5月5日(土)6日(日) 15時~
6月2日(土)3日(日) 15時~

チケット料金:一律 1,200円 peatixにて販売中。
もしくは、美術館までお電話( 0436-98-1525)で
お問い合わせください。

詳細情報は以下の特設サイトからどうぞ。
https://hibinokodue60.tumblr.com