ほぼ日刊イトイ新聞

60歳になって、ようやくわかった。「わたしが服をつくる意味」

「FLY、FLY、FLY」HOUSE 島地保武 PH:上原勇(サン・アド) 協力:市原湖畔美術館 2018年

ひびのこづえさんの、60歳の創作論。

第1回いつも「年齢」に怯えていた。

──
今度の展覧会に寄せたひびのさんの文章を
何気なく読みはじめたら、
ぐんぐん、惹き込まれてしまいました。
ひびの
えっ、どの部分ですか。
──
いや、なんかもう全体的に。冒頭から。

2018年4月に「還暦」と呼ばれる年齢を
迎えることになった。
30代直前でこの仕事をスタートしたときから、
クリエイターとして
常に年齢の限界に怯えながらいた。
30代の私なら60代の私を
「時代遅れ」と馬鹿にしていただろう。
でも私は60代直前でやりたいことを見つけた。
それは人に本当の服を着せる事だった。

ひびの
ああ、本当ですか。ありがとうございます。
──
たとえば
「常に年齢の限界に怯えながらいた」
という気持ちって、
多くのクリエイターが抱くものでしょうし、
インタビューや雑談のなかでは、
ぽっと出てきたりもするかもしれませんが、
展覧会のステートメント的な文章の冒頭が
そういう言葉ではじまると、「えっ」って。
ひびの
30代のときのわたしは、
毎年のように
「今年仕事をやめる、今年やめる」って、
言い続けていたんです。

いつも、自分のクリエイションの限界が
いつ来るのか、
不安を抱きながら生活してきたんですけど、
40歳になったとき、
ようやく「続けよう」って思えたんです。
──
へぇー‥‥。
ひびの
それで、40代に入ってすぐに、
「つづく」という展覧会を企画しました。
──
それは「やめずに続ける」という意味の。
ひびの
はい。つづく、です。
──
今の感覚で言ったら、
30代は「まだまだ修行中」というふうにも
思えるんですけど、
きっと、ひびのさんたちの若いころって、
そうではなかったんでしょうね。
ひびの
そうですね、わたしには、
20代が自分探しで、
30代になったら「これで勝負する」
という気持ちが強かったです。

わたしは、20代でさんざん悩んで、
今につながる仕事をはじめられたのは、
28とか、29なんです。
──
それまでは‥‥。
ひびの
本当に、いろいろなことを半端にやってきて、
それくらいの年齢で、ようやく、
自分の仕事を
「コスチュームアーティスト」というふうに、
決めることができたんです。

でも、そのときには、
もって4年が限界かなあって思っていました。
──
4年‥‥短い。
ひびの
当時は、すごくイヤなやつだったと思う。
──
イヤな‥‥というのは、どういう?(笑)
ひびの
いつも、ピリピリしてた。
──
4年で才能を出し切っちゃうんじゃないか、
と、思ってらっしゃったんですか?
ひびの
出し切らないとロクなものができないって、
そう思って、焦っていたんです。

だから、35にもなったらもうダメで、
やることなんか、残っていないはずだって。
──
そういうふうに
年齢で限界を設定してらっしゃったのって、
やっていることが、
ファッションとかコスチュームだったから、
ということも関係しますか?
ひびの
うーん‥‥どうだろう‥‥。

なんかね、わたし、
大人が嫌いだったんですよ、子どものとき。
──
大人が、嫌い?
ひびの
偉そうにしてる大人に、なりたくなかった。
──
ああ、なるほど。
ひびの
もちろん、自分が、
将来、大御所みたいな人になれるなんて
思ってはいなかったけど、
とにかく、いちばんみずみずしいものを
出せるときに出して、
パッと散っていきたいって思ってました。
──
ロックの人みたいです(笑)。
ひびの
そう、そうなんですよ(笑)。

でも、結局こうして60歳までやってきて、
還暦と呼ばれる歳になったらなったで、
やめないつもりでいるんです、今はもう。
──
続けようと決心した40歳って、
世間では「不惑」とかって言いますけど、
当時のひびのさんも、
そんな気持ちだったんでしょうか。

もう迷わない‥‥みたいな。
ひびの
結局、40歳になったときに、
「わたしの人生って、仕事なんだな」
って、気づいたんです。

きっと別の人生を探してたんでしょうね、
30代のころには、まだ。
──
これが本来の道じゃない‥‥と?
ひびの
わたしは、ふつうに母親になりたいって
考えていたんだけど、
そのことが叶えられなかったというのも、
大きいかもしれないです。

それで、40歳になったとき、
わたしの人生は、
もう、ここにしか残されていないんだと、
思ったんだと思います。
──
そういうふうに思われた時点で、
つくるものも、変わったりしましたか?
ひびの
んー、変わったとしたら「自分自身」で、
しかも、それは本当に最近‥‥
少なくとも、50歳になってからですね。

40代くらいまでは、
自分自身も、つくっているものも、
たいして変わらなかったと思うんですが、
今、60歳を目の前にして、
本当にやりたいことを、見つけたから。
──
それが‥‥。
ひびの
コスチュームを着てダンサーに
踊ってもらうこと‥‥
ダンスパフォーマンスの公演、なんです。

<つづきます>

2018-04-10 TUE