最終回 それはある種の恋の成就。

糸井 吉本さん、
ドキュメンタリーはお好きですか。
吉本 好きです。

吉本 ドキュメンタリーは、ぜひ
『地球大進化』を観てくださいよ。
もうね、泣きますよ。
『地球大進化』は泣きます。
『プラネットアース』もいいし、
『ブルー・プラネット』もみんないいですけど、
『地球大進化』はね、観終わってから
何日も何日も嬉しいですよ。
吉本 メモしておきます。
糸井 ボックスセットが2つ出ているので、
長いんですけれど、
ぜひ最初から順番に見てください。
吉本 自分の興味のあるとこだけ
ピックアップするんじゃなくて、
順番が大事なんですね。
糸井 できるならば。
だって地球はそうやってきたんだもん。
吉本 そうですよね。
糸井 地球が氷の球だったときの話とか、
もしかしたら退屈かもしれませんけど、
退屈しないように
山崎努さんが進行役をしてくれますから。
それを経ていまの自分がいて、
こういう時代なんだっていうことを思うとね、
いいですよ。
逃げて逃げてここまできたのが人類なんですよ。
ぼくら、行き場のないものたちの集まりなんです。
吉本 そしていまやほんとに
行き詰まってるわけですよね。
糸井 そうですよ。
でもそういうのもう慣れてますから、人間は。
こういうかたちじゃなくなっても生きますよ。
ハダカデバネズミみたいになってもね。

吉本 あの子たちおかしいですよね。
糸井 ハダカデバネズミいいですよね。
やっぱりお好きですか。
吉本 私は取材に行きました。
「クウネル」で。
糸井 「クウネル」でやったんですか!
吉本 はい。
糸井 僕はね、人類がああなっちゃっても
生きるんだ、っていうところまで、
人間は考えなきゃだめだと思うんですよ。
あれで知能が発達してるやつみたいになる、
っていう手もありますよね。
吉本 いやー、でもあの人たちのつくってる
住まいシステムを見ると
きちんとしてて、すごいなと思うんですよね。
ちゃんと寝室は寝室、トイレはトイレ、
ご飯を食べるとこは食べるとこ。
ちゃんとお部屋をつくってて、
それで清潔度を保ってるわけですよ。
だからベッドルームに糞尿は絶対ないわけ。
糸井 はあ、だてに裸じゃないですね。
吉本 裸だから清潔じゃなきゃ、
あぶないのかもしれないですね。
糸井 かもしれないですね。
吉本 おもしろい。
糸井 「ハダカデバネズミに、俺はなれるのか?」
っていう問題ですよね、この先。
このかたちじゃない人間というのまで、
一旦、諦めたら、
もうちょっと希望があると思うんですよね。
あと百万年後くらいの話だけれど。
いまの時代に生きてる限りは、
ちょっとバカになるっていうことを、
知的にやらなきゃならないですね。
「お前そんなことしなくていいじゃないか」
っていうほうに、どれだけ分量割けるか、
っていうことになると思うんです。
「食物繊維を摂る」ということだって、
昔は自然に摂っていたわけで、
そのバランスで人体があった。
いまは買ってきて摂らなきゃならないわけだから。
しばらくは「原点は何だったろう」というところで、
遊ぶしかないですね。
で『初恋のきた道』だけど、
その原点に近いんですよ。
この女の子が好きだ、っていう。
吉本 ですよね。
ただただ伝えたいんですよね、
何の衒いもなく。
私、これを見たときに、
「ああ、もう私もこんなにひねくれないで、
 素直に生きよう」と思ったもの。

糸井 そうですね。いま見てもなりますよ。
あとさ、餃子、食べに行きたいね。
吉本 もう私はこれを見たときから
餃子好きになって、
それで一昨年は
西安に餃子ツアーをしたんですよ。
糸井 そう! おいしかった?
吉本 全部で二百何個食べたんですけど、
もう毎日餃子なんだけど飽きない。
いろんな餃子があるの。
糸井 あれはよく言われるように、
皮を食べるものなんですか。
吉本 うん、でも中身もすごいですよ。
いろんなお宅で、そのお家の餃子を
食べさせてもらったんだけど、
やっぱり少しずつそのお家の伝統があるんで
味が違うんです。
毎日食べてるんだけど、
全部違っておいしい。
糸井 おおむね水餃子ですか。
吉本 西安というか北部は、ほとんど水餃子です。
北京のほうに行くと、
ちょっと焼いたり蒸したりするんですけど、
糸井 そうですか。ぐんぐん食べたくなりますね。
吉本 田舎の家に取材に行ったら、
戸板みたいな上にバーンと広げて、
麺棒でのして、それを、瓶のキャップで、
こうやって(インスタントコーヒーの瓶の
口くらいの大きさ)、
丸くしていくんですね。
ほんとに瓶のキャップなんですよ。
糸井 抜き型になる丸いもの、ほかにないもんね。
そのときの家の食器って、
いまの中国はどんな感じなの?
吉本 ほとんど『初恋のきた道』の感じ。
糸井 あ、そうなんですか!
吉本 町なかはまた違うんですけど。
糸井 プラスティック化してない?
吉本 農村部は、もう全部違う茶碗で、
割れてても客に出しますね。
「飲め飲め飲め、食え食え食え」って感じでね。
楽しいですよ。
ヒツジがメエ〜、ってきちゃうしね。
糸井 それはどういうツアーなの。
取材?
吉本 餃子の取材なんですけれど、
私の個人的な趣味でやってしまったような。
糸井 雑誌ですか。
吉本 「クウネル」です。
そんなことやらせてくれるのは
「クウネル」しかない。

糸井 「クウネル」は素晴らしいね。
そんなふざけたことをいちいちさせてね。
吉本 ほんとによかったと思います。
糸井 いろんな餃子って、
たとえば豚肉以外は何ですか。
吉本 ヒツジもあるし、トリもあるし、
魚もあります。
映画はキノコ餃子でしたよね。
糸井 そう! キノコが入ったのが好きだって、
言ってた、言ってた。
あのときに初めて遠慮なく言うんだよね。
あれはある種の恋の成就なんですよね。
吉本 うん、もう受け止めたぞって。
糸井 受け止めたぞなんだよね、そうそう。
だってあんなことしちゃだめだもんね、
公務員ね。
吉本 うん(笑)、公務員だし。
糸井 あのときになんか、おお、やったと思ったもの。
キノコが好きだなって言ったときにね。
ちきしょー(笑)。
餃子で! いや、餃子もそうだし、
なんか思い出すんだよ、映画のなかをね。
他人の恋なんだけど、
よかったと思ったよね。
で、おばあさんはおばあさんで心配でね、
階級の違う人同士が、恋なんかやめろ。
うわーっ、あそこんちのお父さん、
どうしてたんだろう。死んだんだろうなあ。
吉本 亡くなってる設定ですよ。
おばあさんが目が見えなくなったのは、
お父さんが死んだとき泣きすぎたからだって。
糸井 そうだ。その台詞あった、あった!
目が見えなくなったっていうの。
糸井 あと先生のお父さんも、
ぽんと死んだんですよね、事故でね‥‥
病気で長々と生きてたわけじゃないんですよね。
波瀾万丈ですわ。
吉本 シンプルで理想的な人生が
いっぱい出てくるんですよね、
このなかにはね。
糸井 そうですね。
そんなもんなんだよねっていう、
頃合いのサイズだよね。
あと取り立てて文化大革命の
大げさな、いやなところを
匂わせなかったのも救いですね。
吉本 この監督はさんざんそれをやってきたので、
ちょっと離れたかったのかもしれないけど、
でも完璧に離れられないんですよね、
どうしてもね。
糸井 そういうことなんですね。
離れられないんですね。
それがいい役目にはなってるし、
都市と農村描けるのがすごくいいし、
都市での大革命の映像とか
ドキュメンタリーみたいにすると、
もうほんとにものすごいもんね。



(吉本由美さんとの対談はこれにておしまいです。
 どうもありがとうございました!)



2008-03-03-MON

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN