第6回 そういうこと言ってるとまた泣けて。

糸井 この邦題(『初恋のきた道』)について、
何か論争があったらしいですね。
こんな甘ったるいタイトルつけて、
ふざけてるっていう説もあって。
原題は『我的父親母親』だし。
吉本 いや、たしかに観ないうちは、
「何、このタイトル?」と思った。
でもね、観たら、いいと思った。
糸井 俺も同じ意見。いいじゃん!

吉本 これよ! とか思いましたよ。

糸井 「初恋のきた道を辿って死体が帰る」
っていう、散文にするとそうなるんですよ。
一行目は『初恋のきた道』で、
助詞で「を」つけて、
「お父さんの亡骸が雪のなかを帰る」
っていう詩にすればいいんで、
上の句なんですよ、これは。
吉本 そうですね。たしかに。
糸井 たしか英語のタイトルも
なかなかしらばっくれててうまいんですよね。
吉本 あ、そうだった?
糸井 DVDに書いてあるはず。
老眼の僕には探しにくいですけど、
あった。「The Road Home」。
吉本 「家路」ですよね。
やっぱり息子にとって
すごく大事な道だからね。
糸井 で、『初恋のきた道』というと、
チャン・イーモウの
プライベートな気持ちが
バレちゃうんでだめなんですよ、きっと。
で、「我的父親母親」にして、
俺の恋愛映画じゃないからって。
吉本 そうですね。私も
『初恋のきた道』として初恋気分で観て
原題が出たときに、
なんかあれっ、ちょっと違うかなって、
一瞬思ったんですよね。
糸井 そうそう、そうなんですよ。
僕はもうバレてるんだから、
もうピンク映画だから、汚れなきピンク映画。
ところで、中国に旅行したくなる気分って、
これで、また、ありますね。
吉本 あります。
糸井 『初恋のきた道』ツアーなんて
あったら行きますよね。
吉本 行きますよ。
でも、もう、こういうところ、
ないんでしょうかね。あるよね。
糸井 あるでしょう、きっと。
(吉本さんの書いた
「エル・デコ」のエッセイを見て)
この記事は、この映画のなかのインテリアについて?
吉本 そうです。
ほんとにこの映画の中には、
素直にここ素敵、
ここ素敵っていうのがいっぱいありましたね。
糸井 日本にいるとさ、みんな、
勉強とかしたくないよって言ってるけど、
勉強はしたいなあとかさ、
学校で勉強してるんだよねっていうの、
嬉しそうに語ってくれる人が
いるっていうのはしびれるねえ。
吉本 だからまたそういうこと
言ってると泣けるんですよ(笑)。

糸井 昔のおばあさんとかさ、
孫が学校行くときに、
ランドセルを買うのは
おじいさんおばあさんの仕事だと思って、
譲らないっていって買うっていうのも、
この流れですよね。
学校に行けるようになったことに対して、
一生懸命作る餃子のように、
欠けたお茶碗を直すように、
ランドセルがあったんでしょうね。
それはもう通じないよね。
また観てくださいよ。
吉本 観ますよ。
糸井 僕もう一個買ったやつを、
映画を観ない人の机の上に置いといたんですけど、
どうなったのかなあ。
吉本 映画を観ない人?
糸井 すごく観ないんです。
吉本 好きじゃないんですか。
面倒くさいんですね。
糸井 そうみたいですね。
「観なきゃあ」とか言って観ないの。
吉本 そういう人が観たら大変ですよ、
免疫ないから切りなく泣いて。
糸井 そうですかね。それが知りたくてさ、
何気なく机の上に置いといたんですけどね。
何も言ってないですね。
吉本 『北京ヴァイオリン』観ました?
糸井 観てないです。何ですか。
吉本 『北京ヴァイオリン』て、
私の苦手な父子ものなんですけども、
これもすごいですよ。
私、途中で声が出た、泣きながら。
「うーっ」って、いわゆる嗚咽ですけど。
糸井 忘れないようにしよう、もう。
『北京ヴァイオリン』て。
どういうふうに観るものですか、それは。
DVDですか、それとも映画館ですか。
吉本 DVDですね。
テレビドラマ版じゃなくて映画版のDVD。
いいとかなんとかっていうより、もう泣く。
もう涙で目の前が見えなくなっちゃう。
糸井 そう。昔ね、
僕が、映画の出来不出来はどうでもいいから、
とにかく泣ける映画を探してるっていう
発言をしたことがあって、
そのときにスチャダラパーのBOSE君が、
「それはいいですね」ってすごく感動してくれて、
その時代にはそのこと言うのが
すごいめずらしかったの。
いまじゃあそのコンセプトは、
世の中に広がってるでしょう。
「その映画いいとか悪いとかじゃなくって、
 俺は泣きたいから
 ビデオ屋に行く日があるんだよ、
 いくらでも」って言って。
で、当時「それはいいなあ」って
言ってくれたのがBOSE君だったんですよ。
そのときに彼と僕の間には
すごい通じるものがあって。
「作品としていいとか悪いとかって
 判断する必要がないないんだよな、
 僕らは」って。
吉本 おカネを払って観るわけですからね。
楽しめばいいんですよね。
泣くのもね。

糸井 投資する話をしてるんじゃないんですからね。
審査員でもないしね。
吉本 泣くとスカッとして、
スポーツと同じで、
なんだか体がきれいになりますよね。
糸井 同じだと思うんです。
でね、泣けるけど映画としてちょっと、
というものもあるなかで、
『初恋のきた道』は、いいんですよ。
作品としてのよさと、
泣ける映画ということが、
相当、一致してるほうなんですよ。
吉本 そうそう、そうそう。
『北京ヴァイオリン』はね、
親子ものだし、
これほど中身が
充実してるわけじゃないんですけど、
泣くことに関しては双璧です。
糸井 『さらば、わが愛 覇王別姫』は好きですか。
吉本 うーん‥‥。
糸井 泣かなかったですか。
吉本 うん。
切なくはあったけど、
主役の男がどうも。
糸井 『覇王別姫』も、
僕は泣けたんですよ。
意外と僕は守備範囲が広いんだけど、
親子ものはあまり好きじゃないんです。
吉本 親子ものってだいたい泣かそうとしてますよね。
それに乗っちゃいたくない、
私が勝手に泣きたいときに泣くぞ、
って思ってるので、いやなんですよ。
糸井 親子ものってね、
親子ってすごいよね、っていう前提に
寄りかかっちゃうんでいやなんですよ。
だから養父母の場合は僕は泣くんですよ。
『大地の子』でも、実父との関係じゃなく、
向こうの先生
(主人公の育ての親となる小学校教師)との
関係を描くところで泣きます。
吉本 うん、なんかわかる気がします。
糸井 あの先生(である陸徳志を演じた、中国の俳優・
朱旭さん。中国を代表する名優)が
日本にきたときに僕たまたまNHKにいて、
楽屋のドアが開いてて、
そこに先生がいたんですよ。
お父さんが。
「お父さんだーっ!」と思って、
もうその瞬間凍りつくくらい感動して。
同じ番組に出たんで、
あとで握手してもらったんです。
嬉しかったぁ‥‥。
吉本 何でしょうね、それね。
私も親子ものは苦手なんですが、
たとえば『東京物語』(小津安二郎)、
ああなっちゃうといいんですよ。
糸井 あれはいいです。頼ってないです。
それに‥‥何だろう?
吉本 自分の親とダブってしまう
あの系統はだめですね、私は泣いて。
糸井 『東京物語』僕も泣きますよ。
吉本 泣きますよね。
糸井 正直だからじゃないかなあ。
親子っていいですよねって話を
前提にしないものは、僕、許します。
吉本 『北京ヴァイオリン』はそうなのに、
でも、悔しいことにもう涙。
もうそれは上手です。
糸井 それ父ですか。
吉本 父。もう言ってるだけで涙が(笑)。
そのお父さんが切ないんですね、とにかく。

糸井 だったらそれは『自転車泥棒』
(イタリア映画)ですね。
あれはしびれた。
親になってから観たら、痛すぎて。
吉本 そうかもしれないですね。

(つづきます!)



2008-02-29-FRI

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN