じぶんに桜の花束を。
──
桜に出会う編 そら植物園 西畠清順さん
002:じぶんのはじまりに。
──
六本木で開催する「生活のたのしみ展」の
桜の花束店では、
切り花5種類と、鉢植えを2種類、並べます。
清順
もしかしたら、ほかにもスペシャルで
「これ、ええな!」という種類の花を用意できたら、
それもまぜてお店に出します。
──
うわぁ、それはたのしみです。
いまのところ、切り花で予定しているのは、
「ケイオウザクラ」「ヒガンザクラ」
「ヨシノザクラ」「アタミザクラ」
「カンザンザクラ」ですね。
これらはみんな清順さんたちが育てた桜ですか?
清順
基本的にはそうですが、
ケイオウとヒガンは
長野県の築北村で委託生産したものを
ぼくらが採ってきます。
──
長野で育ててもらったものを収穫。
清順
そうそう、年明けに築北村に行って
桜を切り出して持って帰ってくる。
うちでは恒例行事です。
50年くらい続けています。
朝から晩まで、ひたすら切り続けます。
ごはん食べて切り続ける、トイレ行って切り続ける、
お風呂入って、寝て、起きてまた切リ続ける。
5日間くらいやります。
──
どんな気持ちになりますか?
清順
無心になりますよ(笑)。
──
桜は、よく見ると、
それぞれ見栄えがちがいます。
買うとしたらどれにしようか、
すごく迷いますね。
お店でも、見て迷う方が
たくさんいらっしゃる気がします。
清順
素朴な人は、ヒガンがいいですよ。
──
えっ? 素朴な?!
清順
華やかな感じが好きだったら、
カンザン、アタミくらい、いっときましょう。
鉄板、王道なら、ケイオウ、ヨシノ。

ヨシノは切り花で売ってないことも多いから、
このなかでは貴重だと思います。
──
わかりました。
・王道=ケイオウ、ヨシノ
・華やか=カンザン、アタミ
・素朴=ヒガン
清順
俺はえこひいきだけど
エドヒガンがいちばん好き。
──
ヒガンは可憐な感じがしますね。
清順
ほら、なんだか花が威張ってないじゃないですか。
人間も「そのまま」の、
素朴な人がいいなぁと思うから。
──
鉢植えのほうは2種類あって、
小さいほうの鉢植えは、
アサヒヤマザクラという品種ですね。
清順
はい。この種は丈夫で、
樹形を太く短く仕立てることができるので、
背丈が低くても木じたいが立派なんです。
市場に出まわっている、
盆栽のような立派な桜はたいてい、
このアサヒヤマザクラだと思います。
──
1本の苗のようになっているのではなく、
ちゃんと木の姿になった桜なんですね。
小さくてもきっと樹齢はありそうだなぁ。
一方、大きいほうの鉢の品種は、
フジシダレザクラです。
清順
これはまた、ぼくが大好きな桜で‥‥。
──
そうなんですか。
清順
枝垂れ桜なので、
もちろん枝が垂れてるんですが、
枝の動きがやわらくて、
数ある枝垂れ桜のなかでもダントツで美しいです。
──
ダントツで‥‥。
清順
花は、咲きはじめは白い色なんですが、
最後のほう、
真っ赤になるんですよ。
──
真っ赤ですか?
清順
散る前に、赤くなる。
それがもう、気絶するくらいきれいです。
──
フジシダレザクラは
すぐに散ってしまうタイプですか?
清順
いや、それがね~、わりと花が長持ちするんです。
花が白く咲いて、「あ、咲いたな」と思ったら、
だんだん白からピンクになり、ピンクから赤になり。
1本の木のなかでも、
花びらが白いもの、ピンクのもの、
赤くなってるやつが混じって、
ものすごくきれいです。
──
それが、生活のたのしみ展のお店に並ぶ
「大鉢の桜」ですね。
桜が切り花や鉢植えで
家にやってくるのは、
どんな気持ちになるのでしょうか。
清順
もともと、
ぼくが糸井さんと出会ったのは、ほぼ日の
「はじまりを、はじめよう」という企画が
きっかけだったんですよ。

花というのは、ゴールではなくて、
はじまりの象徴です。
実をつけて種をはぐくんで、
次世代につなぐ、はじまりの活動です。

そして、桜の咲く季節は、
日本人にとっては古くから
「はじまりの季節」です。

だから、この桜の花束や鉢は、
これからの新年度に
「なにかはじめよう」
「気持ちをあたらしくしよう」
というとき、
じぶんにエールを贈るようなかんじで
家に置いてもらうと、とてもいいと思います。

桜を、じぶんにとって等身大の
はじまりの象徴や相棒みたいに
思ってもらったらいい。
特に目的や決意がなかったとしても、
ああ、今年の春がはじまるな、という
ワクワクした気分になるから。

そしてもちろん、
なにかがはじまる人への、
最高のプレゼントになると思います。
──
桜の花束、もらえたらうれしいです。
心の中にも花が咲くような気がします。
清順
ぼくのやってる「そら植物園」は
いろんな植物を使って
「あんなことしたい、こんなことしたい」
という依頼に応えるところ──
流行りの言葉でいうと、
「プラットフォーム」です。
でもまぁ、いわば「御用聞き」ですね。
ふだんは企業や団体、行政の仕事が多いですが、
植物とオリジナルのアイディアで
日々いろんなことに応えていく仕事をしています。

具体的には、
緑化事業のコンサルティングや、
イベントの空間演出、
オフィスや駅やデパートの装飾など、
いろんなところに緑をもたらしています。
場合によってはテレビに出たり、
ときには講演活動をすることもあります。
けれども、それら全部、
ぼくにとってひとつずつが「手段」です。

そら植物園というのは、
そういった手段を通して、最終的に
「ひとりでも多くの人に植物の魅力を伝える」
「人の心に植物を植える」
ということをめざしています。
たったそれだけのことに向かって、
いろんなことをやっているという毎日です。

ですから今回の桜の花束のお店も、
みなさんのはじまりの時期に
植物にそばに置いてもらって、
「うれしい」と思っていただくことが目的です。
──
清順さんのお話をうかがっていて、
じぶんたちの心に、
たしかに緑が植わった気がします。
ページを読んでくださってる方々も、
そうだったらうれしいです。
清順
とてもうれしいです。
──
今日はありがとうございました。
清順
桜の花束店、たのしみですね。
──
はい、たくさんのみなさんに
いろんな種類の桜に
出会っていただきたいと思います。


(明日からの「桜を飾る編」につづきます)
2017-03-15-WED
──

桜を紹介します。

カンザンザクラ(関山桜)

八重桜としてかなりポピュラーな品種。
「8枚」どころではない、
たくさんの花びらを1りんにつけ、
大輪の花を豪華に咲かせる。
ぶらさがって咲くような花形のため、
生け花の世界では「ちょうちん」と呼ばれる。
遅咲きで、花が咲いてからの「もち」もよく、
長い期間花をたのしむことができる。海外でも人気。

※カンザンザクラの花束は、
「生活のたのしみ展」で購入できます。

──
──