HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

その1

「投資」を「恋愛」に置き換える?

以前「ほぼ日」にご登場いただいてから、
投資のことやお金のことに
それまでほどの違和感や距離を感じなくなりました。
それから日々藤野さんがツイートなさること
「きょうはこうだったね」みたいな感じで
社内でよく話に出たりするので、
とても身近に感じております。
きょうはどうぞよろしくお願いします。

こちらこそよろしくお願いします。

私は投資よりも消費に
心が向いている人間なものですから、
この本を読み始めても最初の70ページぐらいまでは
字面だけが素通りしていく感じだったんです。
それが、第1章にあった「他人の目になりきる」の
なりきりゲームのところで、おや?っと思いました。

なりきりゲーム 多くの人がどう思うかを考える手がかりとして
藤野さんが実践しているゲーム的思考方法。
「このようなとき、仙台在住の
20代未婚OLだったらどう考えるかな」
「山梨で果樹園を営んでいる
70歳のおじいさんだったら、どう考えるか?」
というふうに、いろいろな人になりきることで、
「全体の意見としては、こうなるのでは」という
イメージをつくっていく。

じつは私が10年ぐらい前に「ほぼ日」に入ったとき、
糸井がこんなことを言ったのを思い出したんです。
「自分の中には街がある。
 街の中に掲示板があって、
 その掲示板に自分の書いたものを貼っておくと、
 その前を通る人、
 例えばそれこそおじいさんだったりとか
 親子連れだったりとか、
 その人たちがどういう反応をするか考えて、
 手直しをしたり、これで行こうと思ったりする。
 みんなもできるからやってみるといいよ」と。
私はそれを聞いたとき、
自分にはできないって思ったんです。
家族とか親しい友だちぐらいの反応なら思い浮かぶけれど、
全然知らない人の反応は浮かばないと思って、
シュンとしました。
それを思い出しながら、
藤野さんが「あっ、同じことを言っている!」と。
「できる人もいるんだ!」と思った瞬間に、
この本は絶対に投資の話だけじゃないな、と思って、
そこから俄然もう一回最初から読み始めたんです。

おお、ありがとうございます。

その後、もう一つ、同じく第1章に
「インプットを意識的に変えてみる」
というお話がありますよね。
物事を複合的、かつ立体的に見ることで
マーケット感覚を磨こうというところです。

インプットを
意識的に変えてみる
ひとつの視点で物事を見ているうちは、
本質は理解できない。
もっと視点の数を増やして、
右からも左からも、上からも下からも、
斜めからも観察して、
物事を立体的にとらえることが大切。
人はみな経験に基づいた考えをするが、
その経験に逆に縛られてしまうので、
いっそ経験のほうを変えて、
別の経験をインプットすることでも、
新しい視点で物事をとらえられるようになる。

これが糸井の言う
「なにかを考えるための10カ条」と同じだったんです。

なにかを考えるための
10カ条
ひとつのことを考えるとき、

  • 1.そのことの隣りになにがあるか?
  • 2.そのことのうしろ(過去)になにがあったか?
  • 3.そのことの逆になにがあるか?
  • 4.そのことの向かい側になにがあるか?
  • 5.そのことの周囲になにがあるか?
  • 6.そのことの裏になにがあるか?
  • 7.それを発表したら、どういう声が聞こえてくるか?
  • 8.そのことでなにか冗談は言えるか?
  • 9.その敵はなにか?
  • 10.要するに、それはなにか?

(2012年2月19日「今日のダーリン」より)

「ほぼ日」に、そんなのがあるんですね!

はい。同じですよね。
それで興味をひかれ、読んでいくうちに、
投資の話としてではなく、
「恋愛」や「仕事」に置き換えたら、
自分にもわかるんじゃないかなって思ったんです。

おお、恋愛!

たとえば、この本のなかで
私が付箋をつけた藤野さんの言葉には
こういったものがあるんです。

  • ・人生は「決断」の連続である。
  • ・決断のとき、何を捨てるかは
    損得・善悪・美醜・好き嫌いの4つの軸で考える。
  • ・リスクを最小化させるのは、好奇心の多さである。
  • ・「幸せにしてくれる人」を探しているかぎり、
    幸せにはなれない。
  • ・完成と同時に崩壊が始まる。
  • ・自分を時価で考える。
  • ・「十中八九、ムダ撃ちでもいい」と考える。
  • ・人生は「思う通り」にしかならない
    (イメージできないことはマネージできない)。
  • ・投資とは、その会社と一緒に
    「未来を支え、未来をつくる作業をともにすること」。

(『投資バカの思考法』より。)

あとから、恋愛というのは
すこし違うなとは思いましたが‥‥。
この本に書かれていることは、
人生の伴侶を見つけるとか、
やりがいがある仕事を見つけるとか、
一緒に歩んで、将来を楽しみにすることですよね。
恋愛だけに限定すると、
「駄目な人でもついていこう」とか、
「二人で堕ちて行きましょう」だってありますから。
この本は、そういうことではないので。

そうですね(笑)。

藤野さんはこの本を、
投資の本としてお書きになられたけれども、
単なるノウハウではなく、その気持ちや姿勢は、
恋愛をはじめとする人間関係のことや、
あるいは就活や仕事論ということに近いと。
そこでぜひこの本の紹介をしたいなと思いました。
投資に興味がない方でも、
行き詰まっているときや、元気が出ないときに
読むとすごくいいですよって。
とくに婚活中や、パートナーを探している人に。
具体的には私の友人の
ボーイフレンド募集中の女子たちに読ませたいんです。

ありがとうございます。
この本にも書いたんですけれど、
恋愛、というところで思い当たるふしがあります。
僕はピアノのサークルを主宰しているんですよ。
「ツイッターピアノの会」というのが正式名称で、
通称「ツイピの会」。全国で800名くらいいるんです。
今、さらにどんどん増えているんですが、
そこで、これまで、なんと12組が結婚したんです。
ほかに、私がわかっているだけでも
結婚前提につきあっているカップルが
5~10カップルくらい、いるみたいなんです。
ほかにもきっともっとラブラブな人たちも
いるに違いない!

エッ!

当初、まさかそんなに大勢が
このサークルで相手を見つけて
結婚するなんて思わなかったんです。
もちろん合コンという意図もなかった。
そもそもは、5年前に私と知り合いとで
せっかくTwitterやFacebookがあるのだから、
人を集めて「ピアノの弾き合い会」をするといいよね、
と、そこから始まったことなんです。
目標ができるし仲間ができるから楽しいんじゃないかと。

最初は渋谷で7名ぐらいが集まりました。
誰かが弾いて、ほかの人が聴く。
それがすごく楽しかったので、
もう1回やりましょうとなったら、
こんどは20名ぐらいが集まりました。
その次は40名ぐらいになり、
そこに名古屋の子が来ていて、
地元の名古屋でもやりたいということになった。
だったらあなたが幹事をやってくださいということになり、
名古屋で会を開いたら何十人も人が集まるようになり、
そうしたら関西でもやりましょう、
札幌でもやりましょうとなっていきました。
そうこうしているうちに、
総体としてのメンバー数も
ずいぶんと増殖していたんです。
そこであらためてTwitterとFacebookを連動して
コミュニケーションができるサイトをつくりました。
僕らの会のコンセプトは、
ゆるくて、名簿もなく、
会費もとらない、会則がない、
ということなんですね。
かかった費用はその場で精算しますし、
それぞれの地域性を重んじて、
運営もそれぞれの地域の幹事に任せ、
僕は総幹事という立場で広めていったんです。

「ツイピの会」の魅力の一つは、
素人でも全国に演奏旅行ができることなんですよ。
そして、それぞれの地元にいると、
「僕はショパンの演奏をこう弾きたい」だとか
「ベートーベンはこうなんだ」とか
「私はメンデルスゾーンが大好きなんです」なんて、
そんなマニアックなことは、
なかなか共有する仲間がいないわけです。
でも会の懇親会に参加すると、
ショパンの話を延々としても、
延々と聞いてくれる人がいるんですよ。
「そこは小指を立てたほうが弾きやすいよ」
みたいな話で、無限に会話が続くんです。
みんな、そういうコミュニケーションに渇望しているから、
「私の話をこんなに聞いてくれる人がいる」
「こんなに面白い人がいる」って、のめり込むんですよね。
そうすると、今度は連弾の会をしようとか、
アンサンブルをしようとかいうふうに発展して、
そのうち、3年ぐらいしたら、
次々に結婚の報告が入ってきたんです。

へえーーー!

藤野さんのおかげで東京の私が福岡の彼女と
奈良で出会ったんです、なんていうふうに。
僕もびっくりしたんですよ。
でも、結局それって、つながりができて、
本当に自分たちのベクトルが合って、気持ちが合うと、
合コンっていうセットじゃなくても、
むしろそもそも壁がない状態で会っているので、
ノーガードでスッと入っていけるんだっていうことですね。
楽しく垣根なく。
そういえば、その会だけじゃなく、
僕はたぶん40~50組ぐらい結婚を取り持ちましたよ。

すごいです!
じつは私、何年か前にまわりの女子を集めて
合コンを設定したんです。
みんなかわいくて気立てがいいのに彼氏がいないなあと。
来てくれた男子も結構イケメン系で、
ちゃんとした人たちが多くて、
これはもうきっとうまくいくと思っていたのが、
1回で終わってしまったんです。
ただただ楽しい会で終わってしまったんですよ。
その話を糸井にしたところ、
それは企画が駄目だと言われまして。

ほう(笑)。

合コンをやってうまくいくなんて、
テレビの中の世界だけで、
普通の人はそんなことはとてもできないと。
でもたとえばバーベキューなど、
男子が自然と活躍できるような場面をつくって
合コンとは言わず集めたほうがいいんだぞと。
藤野さんはまさしくそうなんですね。

恋愛になるか、結婚するかどうかということよりも、
この人とこの人は合うんだろうな、
友だちになるんだろうなっていうところなんです。
これは人間関係に限らなくて、
投資の話にもつながっていくんですよ。

わぁ、ぜひ、教えてください!

藤野英人(ふじのひでと)

1966年富山県生まれ。
早稲田大学卒業後、野村證券株式会社、
JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー、
ゴールドマン・サックス系の資産運用会社を経て、
2003年にレオス・キャピタルワークス株式会社を創業。
代表取締役社長・最高運用責任者(CIO)として、
成長する日本株に投資する「ひふみ投信」を運用し、
高い成績を上げ続けている。
明治大学商学部の講師も長年務めている。
現在、WEB版の「現代ビジネス」「cakes」にて
コラムを連載中。
著書は、
糸井重里が読んで
「非常におもしろかった」と社内にすすめた
「投資家が「お金」よりも大切にしていること」をはじめ、
「儲かる会社、つぶれる会社の法則」
「起業」の歩き方」など多数ある。