高山先生、 新型インフルエンザについて 教えてください。
ほぼ日 ワクチンがない時期にも、
身を守る方法は、あるんですね。
本田 手洗い、うがい、顔洗いです。
ほぼ日 はー。手洗い、うがい、顔洗い。
本田 とっても、大事です。
新型インフルエンザも、
基本はインフルエンザウイルスです。
インフルエンザというのは飛沫感染といって、
くしゃみをしたり咳をしたりして
つばが直接かかるとか、
目や口や鼻の粘膜に入ることで、感染するんですね。
ほぼ日 はい。
本田 これが、たとえばHIVのウイルスだと、
仮に患者さんの血液のなかのウィルスが机に落ちたとしても
HIVは乾燥に弱くて人の体外ではすぐに死んでしまうので
ほとんど問題ありません。

でも、インフルエンザのウイルスは乾燥にも強いんです。
だからたとえばわたしが感染していて
咳とかくしゃみをして、
それが机の上に飛び散ったとしますね。
それを、べつの人が手で触れたりするでしょう?
その手で目をこすったり鼻を触ったりして、
インフルエンザに感染する可能性があるんです。

それを防ぐためには、手をよく洗う。
口の粘膜からも入りやすいので、帰ったらうがいをする。
ついでに顔も洗う。
ほぼ日 当たり前に思いがちだけど、
やっぱり、手洗い、うがいが、
なにより大事ということなんですね。
わたしたちどうしたらいいの? というのはもちろんですが、
いま病院の話をお聞きしながら、そこで働く人たちは、
ワクチンがない状態でどうなるんだろう、と思ったんです。
本田 そう、だからマスクをして、
患者さんのところにいってなにかをしたら、
次の患者さんのところに行く前に
かならず手を洗います。
高山 小児科医とかは、毎日のように
さまざまな熱性疾患の子どもたちを診ているのに
感染しないんですよ。
万全の感染管理を習慣にできている彼らはすごいです。
わたしも後期研修医で小児科をローテートしたときに、
医師として感染症から本気で身を守ることを、
そして本気でやれば守れることを学びました。
ほぼ日 そうですよね、小児科のお医者さん。
感染しないのって、すごいことですよね。
そして、それがなぜかと言ったら、
やっぱり手洗いなんですね。
高山 一連の感染予防対策をきちんとやれば、
ほとんどの感染症は、予防が可能なんですね。
絶対可能とは言えないんだけど、
でも、感染したらそれには理由があると思うべきです
ほぼ日 手洗いとうがい、目や鼻をやたらと触らないとか、
そういう予防対策なら、いまからでもできますね。
それから、マスクをするとか。
本田 こういう話をすると、医療の専門でない人は、
ウイルスがぜったい入っちゃだめなんだ、
というふうに思いがちなんですけど、
ちょっとぐらいだったら入ってもいいんですよ。
ほぼ日 そうなんですか。
高山 これは、ゼロか1かの話じゃないんです。
わたしたちの涙とか、鼻の粘膜には、
入ってきた異物を中和するための
特別な防御装置があるので
わずかな量のウイルスが入ってくることを
恐れちゃいけないんです。
ただ、たくさん入ってくると、
そのブロックが突破されて、
粘膜からからだのなかに侵入していくんです。

だから、マスクのここがモレてるから大変だ、
みたいには、あまり考えなくてよくて、
とりあえずきちんと手洗いをし、うがいをし、
マスクをしていたら、
少々の量が入ってきても、わたしたちは大丈夫です。
ほぼ日 個人の新型インフルエンザ対策に必要なものとして
よく聞くのが、N95マスクとか‥‥
高山 ゴーグルとか。
ほぼ日 手袋や防護服もあるみたいです。
本田 日常生活向けの防護服? すごいですね。
ほぼ日 自宅で家族を看病する必要があるときに、
それを着て、ということだと思うんですが。
わたしはよく知らなかったので
防護服はさすがに、おおげさなんじゃないかと
個人的には思ってしまったんですけど、
でも、いまずっとお聞きしてきたのは、
大災害における危機管理のお話でしたよね。
だからあれも、特段おおげさなものではなかったかと
思っていたところなんです。
高山 ところが、ああいう特殊な防御のものというのは
訓練された人間じゃないと、
つけることも脱ぐこともできないんですよ。
ほぼ日 そうですか。
高山 それを身につけて看病したとしますよね。
そうすると、そういった手袋とかの、
表面が汚染されるわけです。
さあ、じゃあその汚染された表面に
絶対触れずに、脱いで、捨てることができますか。
ほぼ日 あー。
本田 それを着ていて、なかが完璧に保たれているとしても、
脱ぐときにうまくいかなくて
防護服の外側を手で無防備に触ってしまえば
意味がなくなるんです。

医者になってすぐのころは、
この概念はなかなかむずかしくて迷うんですよ。
ここは清潔、ここは不潔と言われても、
最初はわけがわからないんですけど、
やってるうちにだんだん上手にできるようになるんです。
高山 最初はすごく意識してやらないとできないんですよ。
いま自分の手がどういう状態であるか、
たとえばこの紙を触っていいかどうかということも
常に考えていないと、無意識で触ってしまうんですよ。

医者として、とくに感染症を診るようになると、
いま自分の手がどういうコンディションなのかということを
常に意識していて、そして、
自分のからだのどこを触っていい手なのかが、
わかるようになるんです。
それを無意識にしてると、目をこすってしまったりして、
感染してしまうんです。
ほぼ日 自分のことを振り返っても、
目なんかはずいぶんと無意識にさわってますね。
粘膜から入るものだと聞いてから、
風邪の季節には気をつけようと思い出すんですが、
なかなか。
いまから習慣づけておいたほうがいいですよね。

それにしても、手洗い。あなどっていました。
本田 新型インフルエンザは、高山先生にお聞きしてきたように、
すごく致死性の高い、こわいウイルスではあるんですが、
基本はインフルエンザウイルスなので、
ふつうの予防方法で、
ある程度は予防できるはずなんです。

(つづきます)

2009-04-11-SAT