ITOI
ダーリンコラム

<いいこ。かわいいこ。>

ま、座れや。
もち、食う?
いまどきの正月ってさ、もちをさ、
食べ飽きるほどは食べないんだよな。

ちょうどよく食べるんだよね。

だから、正月が終わるくらいになっても、
あんまりもちに飽きてないね。
飽きるほど食べてないからね。
「おせちもいいけど、カレーもね」
ってなこと言って、1月2日にゃカレーだったりするからね。
松の内からもうラーメンとか食ってるからね。

ひょっとしたら、まだ、
人々は、もちに飢えてるかもしれないね。
もち、もっと食ってもいいと思うんだよなぁ。
まぁ、そんなことも思ったりしてさ。

話、がらっと変わるけどさ。
犬と散歩に行く前にね、
室内でおしっこをさせるんだよね。
都会って、散歩しながらおしっこするって、
かなり困ったことなんだよね。

地面がコンクリートだったり、タイルだったりするだろ。
そうすると、おしっこが水たまりになるわけだよ。
犬のおしっこが水たまりになってるなんて、
うれしい人はいないよね。

飼い主によっては、ペットボトルに水を入れて、
おしっこを流すということをしてるね。
これはこれで、薄めただけだろう、という人もいるよ。
水たまりに、さっと吸水シートをあてて、
吸い取っちゃうという方法もある。
実際にやってみて、これは、かなり有効だ。

でもさ、なによりいいのは、
散歩しているときにおしっこしないことなんだよ。
うちの犬は、牝犬なんで、
マーキングにはこだわりがないんだよね。
だから、散歩に出かける前におしっこしておくと、
散歩中は、排尿なしでいけちゃうんだな。
だから、さぁ出かけるぞというときになると、
人間のぼくらが、
「ブイちゃん、おしっこしてください」と言うわけだ。
そうすると、それさえすれば散歩に出られる、
ということがわかるから、犬は、
家のなかのトイレでおしっこするんだよね。

ここで、人間が言う。
「ああ、いいこだ。いいこだねぇ」ってね。
たしかにいいこだよ。
しかしさ、いじわるな言い方をすれば、
ここでぼくらが言ってる「いいこ」というのは、
じぶんにとって「都合のいいこ」なんだよね。

犬に対して、「いいこだね」と声をかけるとき、
「いいこだなぁ」と感心するとき、
「いいこだ」ということについて話し合うとき、
どの場合も、ぜんぶ
ぼくらにとって、「都合のいい」犬だったときなんだ。

留守番をよくして「いいこ」だった。
ごはんを残さずきれいに食べて「いいこ」だった。
来るなという場所に来ないで「いいこ」だ。
むだに吠えたりしなくて「いいこ」だ。
みんながよろこぶ芸ができて「いいこ」だ。
人の仕事のじゃまをしなくて「いいこ」だ。
健康で元気でいてくれて「いいこ」だ。

ぜんぶ、人の生活を侵害しないで、
都合よくいてくれるということをほめているんだよね。

あのさ、ほら、益虫と害虫というのも、そうだよ。
益虫というのは、人間に都合のいい虫さ。
害虫は、人間に都合のわるい虫だよ。
そういうのと同じなんだよね、根本のところが。

犬に「いいこ」だって言うときも、
あんまり気づいてなかったんだよね。
この犬は、「いいこ」だなぁって思うときって、
こっちの都合のいいときばかりだなんてね。

うるさくバウバウ吠えるときとか、
散歩に行こうとしつこく誘ってくるときとか、
リードをぐいぐい引っぱって歩くときとか、
猫を追いかけて走ってっちゃうときとか、
おやつを要求してくんくんいうときとか、
「いいこ」だって言われないわけだよ。
でもさ、犬としては、そういうこともするよね。
猟犬なんだから猫でも鳥でも追いかけたいし、
おやつが欲しけりゃほしいほしいって言うよね。
犬としては、「いいこ」だって言われるときと、
「わるいこ」だと言われるときと、
どっちもただただ犬なんだよな。
で、犬って、頭も悪くないから、
人間に都合のいいことをしていたほうが
「いいこ」とほめられて生きやすくなるから、
「いいこ」にしてることが増えてくるんだな。
当然の成り行きだよね。

これさ、犬のことで言ってるけど、
人間の場合も、かなり近いような気がするんだ。

かつて、明石家さんま導師が、言ったよ。
「男は、都合のいい女が好きなんや」ってね。
いかにも批判されそうな意見だけれど、
よくよくよくよく考えてみれば、
そうとうに深いところまで考えた言葉だと思うよ。

むろん、性別を逆にして
「女は、都合のいい男が好きなんや」と言っても
成り立つはずだよね。
「ぼくは(わたしは)都合のよくない女(男)だって、
 好きだと断言できます」
なんて反論する人もいるだろうね。
でも、それも、よーーーく考えると、
「都合のいい女(男)」だということになりそうなんだ。
いやそんなことはない、という場合も、
あるのかもしれないけれど、かなり複雑な考えだと思う。

じぶんの幼いころのことでも、思い出してみればさ、
「いいこ」だったほめられたり、
ごほうびもらったりするのって、
大人にとって「都合のいいこ」だったときばかりじゃない。

学校でさ、やんちゃでほめられたり、
おしゃれでほめられたり、ギャグ飛ばしてほめられたり、
授業を聞いてなくてほめられたりなんて、
ほぼ、ないと言っていいだろう。
もちろん社会にでてからだって、そうだよ。
上司に頼まれたことを、
一所懸命にやって成功させるのが「いいこ」だ。
聞いてなかったり、さぼろうさぼろうとしてたり、
ぜんぜん成功なんかできましぇーん、なんて場合は、
「いいこ」じゃあない。

「いいこ」というのが、
世の中の唯一の価値だったとしたら、
どんなにかいい社会になるかとも思うんだけれど、
そんな社会になるなんて、気配もないし、
これまでにも絶対になかった。

実はさ、犬も「いいこ」だからとほめられること以外に、
もうひとつ、言われることがあるんだ。
それはもう、人間の都合に左右されることもない。
さんざん部屋中荒らし回った後でも、言われる‥‥
魔法のことば「かわいい」があったんだ!

おしっこもらそうが、不細工な顔して寝てるだけだろうが、
しつこくおやつを催促しようが、
つまり都合のいいことなんて何もないときでも、
「かわいい」と思われている場合には、
犬は、人とうまくやっていける。

都合のいいこばかりが「いいこ」かもしれないけど、
都合と関係なく肯定的なつながりがないわけじゃないんだ。
「かわいいこ」「かっこいいこ」「あかるいこ」
「やさしいこ」「きれいなこ」「げんきなこ」
「おもしろいこ」「たのしいこ」‥‥。
なんか、「いいこ」以外にもいっぱいあるじゃん。
そうだそうだ、そういえば、ついこの前も、
「(うちの)女房はね、おもしろいんですよ」
というご夫婦の話を書いたばかりだった。

「いいこ」は「都合のいいこ」なんだけれど、
「いいこ」の他に、「いろんなこ」がいて、
それはそれで、魅力的なんだとわかったねー。
うちの犬もたまの「いいこ」ってのは、
おまけみたいなものだもんね。
ほんとは「かわいいおもしろいこ」として、
つきあってるような気がするな。

よかったよかった。

あ、これからもち焼くわ。
いくつ食べる?
2つ?
そう。ちょうどいいねー。
もうちょっと無理して、4つくらい、どう?
胸焼けしちゃうって‥‥しょうがないねー。
じゃ、2つ焼こうかね。

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2009-01-12-MON
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