布のきもち。 アートと 手工芸と 量産品の あいだ。  江戸の布・江戸東京博物館 西村直子さん、田中裕二さん篇 HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

第4回 縞は江戸の粋。
西村 江戸時代、だんだんみんなが豊かになってきて、
衣装も派手になり、
高価だった絹の織物も、
ちょっと豊かな町人たちでも着られるようになると、
幕府が何回か、奢侈禁止令を出すようになります。
贅沢をするなと。
なるべく綿や麻のものを着るようにとか、
町人も派手な色のものを着るなとか、
そういうお達しが出るようになっていくんですよ。
でもやっぱり江戸っ子って、何ていうか、
ある意味反骨精神というか、
そういうお上のお達しに反発したい、
というところがあるんですね。
表向きは綿の着物であっても、
凝った柄のものを織ったりとか、
型染めをしたりとか、
表と裏で模様を付けたりとか、
そういったことでおしゃれをして、
楽しんでいたというところがありますね。
── 工夫して、おしゃれをしていた。
西村 浴衣は綿ですから、お達しにはひっかからない。
それで綿に藍染めで柄を付けるんですけれど、
江戸では縞柄が流行します。
縞ものというのはぱっと見た感じ、
地味なんですけど、
江戸っ子が好んだ柄なんですよ。
── やっぱり浴衣くらいが
おしゃれしやすかったんでしょうか。
西村 そうですね。浴衣の柄だとちょっと
大きめの柄になるんですよね。
Tシャツでおしゃれをするような感覚ですね。
── ああ、なるほど。普段着のおしゃれ!
西村 そもそもが浴衣って
湯上がりに着る湯帷子(ゆかたびら)から
くるんですけど、江戸時代になると
それがおしゃれ着として着られるようになって。
── じゃ、まさに下着だったTシャツが
外出着になるみたいな。
西村 それで柄で楽しむっていう。
── 真っ白だったのに柄が付くようになったりして。
西村 ええ。縞でたとえると
いろんな縞模様が流行りました。
縞に名前を付けて、
その縞を着る流行が生まれたりとか、
そういったことがあるんですよ。
たとえばひいきの役者さんが
演目で着た柄が、その縞の名前になって、
それで流行する。
松本幸四郎の「高麗屋」が着ていたので
「高麗屋縞」っていう言い方になったりね。
太い格子と、細い格子が交差してる柄なんですけれど、
こういう柄が「高麗屋」の
マークのようなかたちで流行ったりとか。
縞って、横と縦とあるんですけど、
チェック模様も縞と呼んでたんですよ。
── 格子縞って言いますよね。
西村 はい。あと、中村芝翫という役者さんの
「芝翫縞(しかんじま)」っていうのがありまして、
金属の輪っか、カンがつながっていて、
その間に縞が4本。
で、「芝翫(四鐶)縞」って、
── シャレですよね!
四(し)と、輪っかの鐶(かん)で、
「しかん」。
西村 はい。これは役者さんが自分で考えて
作った模様なんですけれど、
そういう紋様を考えて、
トレードマークにするようなことがあって。
田中 庶民も、有名な役者さんが着てた、
その同じ縞を着てみたいというふうに。
── 今と同じですね。
バンドのロゴの入ったTシャツが売れるとか、
そういう感じなんでしょうね。
西村 そうですね。
── 縞の流行、もっとお聞きしてもいいですか。
西村 はい、もちろん。
そろばんのコマがつながってるようなかたちの縞は
「算盤縞(そろばんじま)」、
わりと単純なんですけど、
太い格子柄を「弁慶縞」と言って、流行したんです。
縞柄は、ものにもよりますけれど、
織りでも染めでも出せる柄ですし、
浴衣だけでなくふつうの反物のでも
縞というのがよく作られました。
反物を売るところでも、
「縞帳」っていう、縞の小さい見本帳みたいなのを
冊子にしたものがあって、
そこから選んぶというかたちで作られていたんですね、
はい。
田中 布がいっぱい貼ってある、分厚い見本帳。
カタログみたいなものですね。
── そういうことって、江戸の町だけですか。
たとえば浴衣って、
江戸以外でも着られてたんですよね。
西村 そうですね。浴衣自体は江戸の前期から、
麻地でも作られてたりもしますし、
それこそ庶民だけじゃなくて、
大名家の浴衣が残っていたりとかしますので、
特別江戸だけではありません。
けれども縞の流行は、
江戸の町のものだと思いますよ。
── よく言う、京好みとか、江戸好みみたいな、
そういう差もおそらくあったんですよね。
西村 あったと思います。
江戸では縞がはやったけれども、
京都では縞はあまり‥‥。
江戸って、どっちかっていうと、
単純でさっぱりしていて、
ちょっと男っぽいのが好まれる。
江戸の女性ですと、芸者さんがわざと
そういうものを着たりするんですね。
女らしさや華やかさには欠けるんですけれど、
気っぷのよさを見せるために縞を着たりとか。
縞は、江戸の粋ですね。


2012-02-16-THU

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