布のきもち。 アートと 手工芸と 量産品の あいだ。  江戸の布・江戸東京博物館 西村直子さん、田中裕二さん篇 HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
日々の暮らしで、かかすことができない「布」。 「布」の服を身に着けて、 「布」のかばんを持って、 「布」の靴をはいて、私たちは過ごしています。 食卓をふくのも「布」ですし、 お風呂あがりにも「布」を使います。 眠るときにも「布」にくるまっているわけですから、 思えば、まったく「布」にふれない時間って、 すごく少ないのかもしれません。  そのわりに、「布」のこと、 あまり知らないなぁ、と思いました。 ときには、うんと高い 「布」を買うこともあれば、 びっくりするくらい安い値段の 「布」を使うこともあるけど、 だいじに壁にかけて鑑賞するような「布」と、 ぼろぼろになるまで使われる「布」って、 いったい、なにが、どう違うんでしょう。 “ぜんぶを知る”わけにはいかないでしょうが、 いろんな「布」のこと、 くわしい人に、すこしずつ、聞いていこうと思います。

 
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2012-02-13 第1回 江戸庶民のリサイクル。
2012-02-14 第2回 ふんどし一丁、襦袢一枚でOK!
2012-02-15 第3回 麻と綿、そして羊毛。
2012-02-16 第4回 縞は江戸の粋。
2012-02-17 第5回 平成に生きる職人さんたちは。



第1回 江戸庶民のリサイクル。

── 江戸時代は循環型社会だったと、
よくいわれますよね。
ひとびとが着るものにしても、
古着屋さんがかなり利用されてたと聞きました。
まずはそんなところから、
お話しいただけたらと思っています。
西村 そうなんです! 着物って、
リサイクルで入手できるものだったんですよ。
お店に吊るしてあるものの古着の中から、
自分に合ったものを選んで。
── わざわざ仕立てることは、
あまり多くなかったということだったんですか?
西村 はい、着物を新調するということは、
そうそう庶民には
考えられなかったと思いますね。
なにより、お金がかかる。
田中 新しく仕立てるというのは、
かなり裕福じゃないとできないことだったでしょうね。
新調するにしても“毎年”仕立てるようなことは、
おそらく、なかったはずです。
── では、サイズは‥‥あっ、着物って、
平面裁断だから、仕立て直すのも、かんたんに?
西村 そうですね、簡単です。
ほどいて、板に張って、
ぴんと伸ばして縫いなおすんです。
田中 あるいは、レンタルで借りたりもしたんですよ。
着物にかぎらず、本とかも基本的に貸し本屋ですし、
布団とかももちろん借りたりとかしていたようです。
── えっ!
田中 江戸は、基本的に、ばんばん新しいものを
作って買うっていうよりは、
もうほんとに、少ない資源を
有効活用しようっていう社会だったんです。
というか、そうせざるを得なかったと思うんですよね。
西村 すぐにゴミとして捨てたりはしないんですよ。
着物も、着古してしまったら、
それこそ、雑巾に作り変えたりとか、
ハタキの材料にしたりですとか。
── 以前、ラオスの布のお仕事をなさっている
谷由起子さんというかたにお話をうかがったとき、
ラオスの少数民族のひとたちも、
自分たちが着て使い込んで柔らかくなった布を
赤ちゃんの服を作ったり、
縫い直していろんな用途に使っていると
おっしゃっていました。
木綿はくたくたになると柔らかくなるから。
西村 ええ、ええ。
── そして赤ちゃんのおしめにして、
雑巾やハタキになって、
それで布がいのちを全うするみたいな。
田中 最後、燃やして、灰になったら、
肥料になりますしね。
西村 それを農家がお金を払って引き取りに来るんですよ。
── そこまでリサイクルできたんですね。
西村 ですから庶民の着ていたものが今の時代に
完品で残ってることがほとんどないんですよね。
武家とかの正式な衣装、
それは格式を重んじていたり、
決まり事の模様が付いていたりするものは、
それなりに残されているんですけれど。
たとえば女性の衣装でも、武家の女性のものは、
着物だと刺繍がしてあったりとか、
箔がしてあったりで、かたちが凝っている。
つくりかえることがほとんどないので、
残ってる場合が多いんです。
でも、町方のちょっとしたお金持ちなんかが
友禅で作った振り袖なんかは、
袖を付けかえて短くしたりして、
で、またその次の代に引継ぐ。
それをまた別の丈に変えてしまったりとかいうことで、
もう、最初のかたちのままのものは、
なかなか見つからないんですよ。
絵に描かれたものはあるんですけれどね。
江戸は、そういうリサイクルが徹底していたんです。
田中 今みたいに大量生産、大量消費の時代ではないので、
少しのモノを大事に使うのがあたりまえ。
── そういえば、時代劇で、夜逃げするときって、
荷物ひとつですよね。
田中 (笑)そうですね、江戸は火事も多かったし、
家財や持ち物をまとめるにしても、
一般の庶民はおそらく量が少なかったでしょうね。
そのまますぐ逃げていける。
今みたいに、タンスがいっぱいあってとか、
食器セットがとか、テーブルもとか、
そんなものは、ないので。
── 衣服タンスに入る分くらいしかなかったんでしょうか?
田中 タンスではなく、行李(こうり)ですね。
── そうですか‥‥時代劇の長屋のシーンも、
ほんとに何にもないですもんね。
お布団が横に畳んであって、
ちょちょっとちゃぶ台があって。
田中 今の我々の生活ってリビングがあって、
ベッドルームがあって、ですけど、
長屋は一間かもしくは二間です。
布団を敷けば寝室になりますし、
布団を畳んで箱膳とか出せば食べるところにもなり、
それも片付ければ、仕事部屋にもなる。
お客さんがくれば客間になる。
そんな中では、着るものだって‥‥。
西村 そんなにたくさん持つわけにもいかないですよね。
田中 江戸時代がリサイクル、
エコ社会だったといわれるのは、
そうせざるを得ないような、
本質的な、現実的な問題があった。
だから合理的に
リサイクルになっていったんだと思うんです。
資源が少ないので、大切に使おうって。
そういう意味ではひじょうに、今よりずっと
モノを大切にしていたんだと思います。
── 江戸の庶民がよく使っていた布製品には
どんなものがありましたか。
田中 風呂敷でしょうか。
今だったらね、コンビニやスーパーで
ビニール袋が使い捨てだけれど、
風呂敷一枚あれば、
包んで持っていく、持ち帰る、
もちろん何度でも利用できる。
いろんなかたちのものが包めますよね。
丸でも四角でも。
── 三角でも瓶でも箱でも。
西村 そうですね、万能ですね。
それから手ぬぐい。
これもやっぱり、いろんな使い方ができます。
手をぬぐうだけじゃなくて、頭にかぶったりとか、
それこそ、お風呂の湯上がりで使ったりとか。
布巾としても使えるし、
雑巾も作れますしね、
田中 首から下げていれば、
夏、暑いときはすぐ、ね、
ぱっと汗も拭けますし。


2012-02-13-MON


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