- 糸井
- 親子だとか、家族のあいだでは、詐欺的商法の話をするのが‥‥むずかしい。
- yuriさん
- そのご家族によるとは思います。
「こういう詐欺が多いから気をつけて」というお子さんからの忠告を、素直に受けとめる親御さんも、もちろんいらっしゃいますから。 - 糸井
- ええ。
- yuriさん
- ただ、どうなんでしょう‥‥
「自分の親とお金の話をする」というのは、あんがいむずかしいところがあって‥‥ - 糸井
- それは、ありますね。
- yuriさん
- これも実際にあった事例なんですが‥‥
ご相談をお受けしているときに「お金って汚いものだから、そんなの子どもに話せないでしょ」と言われたことがあります。 - 糸井
- ‥‥なるほどなぁ。
- yuriさん
- その方は、かなり多額の被害を受けていました。
もう私では手が負えない大きさです。
弁護士さんへ依頼されることをおすすめし、お繋ぎしようと思っていたら‥‥
あきらめられたんですよ。
「今まで自分が親として築いてきたものが、被害を取り戻そうとすることで、崩れてしまうんだったら、私はあきらめます」 - 糸井
- 子どもに知られたくない。
- yuriさん
- ええ。
- 糸井
- そこで親としてのプライドを選ぶのは、だれにも非難できないですよね。
- yuriさん
- 「築いてきたものが大事だから、もういいです」って。
- 糸井
- うーーん‥‥。
- yuriさん
- 親子間で、すごく連絡を取り合っている方でした。
いろいろと心配しているお子さんから、毎朝、電話がかかってくるような方です。
なのに、そういうことが起きてしまった。 - 糸井
- それ、その方に限ったことじゃないですよね。
- yuriさん
- 似たようなケースは多いと思います。
ですから、ご両親を気にかけることはもちろん大切ですが、連絡をしていれば大丈夫だとは‥‥ - 糸井
- 言い切れない。
- yuriさん
- はい。
- 糸井
- そういう意味で、「むずかしい」んですね。
親子だから、親戚だからこそむずかしい。なるほど‥‥。 - yuriさん
- ですから結局、申し上げられるのは‥‥
- 糸井
- 「私たちに頼ってください」
- yuriさん
- そうです。
気づいたらすぐに、気軽に電話してください。
そしたらそこから、チームで考えられる。 - 糸井
- 例えがまた、野球で申し訳ないんですけど、チームが「強い」と言われる理由のなかに、「怪我がすくない」っていうのがあるんです。
強いチームには怪我をさせないためのプロがたくさん、軍団となっているんですよ。 - yuriさん
- そうなんですか。
- 糸井
- 消費生活センターさんは、それですよね。
怪我はどうしたってするものである。
でも、肉ばなれしそうなときに声をかければ、すぐにマッサージしてくれる。 - yuriさん
- そうですね。声さえかけていただければ。
私たちで手に負えないことは、専門家の方におつなぎできますし。 - 糸井
- ‥‥うん。きょうぼくはyuriさんとお会いする前には「こういう手口があるから注意ね」というのがたくさん並ぶと思ってたんです。
でも、お話しててわかったのは「知識はちょっとでいいから、とにかく頼りにしたほうがいいぞ」ということでした。 - yuriさん
- はい。
- 糸井
- それは、ものすごくわかりやすいです。
- 糸井
- 最後に。
yuriさんは子どものころ、どんなおとなになると思ってました? - yuriさん
- ‥‥え?
そんな急に(笑)。 - 糸井
- いや、どういうベースから、ここにたどりついたんだろうと思って。
消費生活センターの人になるって、子どものときから思ってはいませんよね? - yuriさん
- ‥‥私は、子どものときから、「変わってる」と言われ続けていたんです。
だからぜったい、ふつうの奥さんになってやると思ってました。 - 糸井
- なってるじゃないですか(笑)。
- yuriさん
- いや、もっとふつうの‥‥とにかく「いい奥さんになるんだ」と。
- 糸井
- いわゆる良妻賢母というような。
- yuriさん
- はい。
- 糸井
- 十分いい妻でいいお母さんだと思いますが、まあ、なるほど。
で? なぜいまの仕事に? - yuriさん
- ‥‥あるときですね、ちょっと不動産トラブルがあったんです。
賃貸の契約でトラブルが。向うの言ってることが、どうにもおかしいなぁと思ったんで、ネットとかでいろいろ調べたんですね。
「どうやら、こうこうこうだから、こういうふうにやればいいんだな」っていうのがわかりました。
でも、やっぱりまだ不安だったので、とりあえず消費生活センターに行って話を聞いてもらったんです。
「こうこう、こういうことがありまして、こういうことを言われたんだけど、こういう理由があるからおかしいと思う。
だったらわたしは、こうこう、こうして、こうできると思うんですがどうでしょう?」と。
そしたら相談員さんが、「あなた、そこまで調べてて、なんのためにここに来たの?」って言われたんです。 - 糸井
- ばっちり合ってた(笑)。
自分で仕事をしちゃってたんだ。 - yuriさん
- そしてその場で、消費生活相談員という仕事をすすめられたんです。
- 糸井
- おもしろーーい(笑)。
- yuriさん
- そんな経緯でした。
- 糸井
- なるべくしてなったんですねぇ。
いやぁ、その話、きょうのオチとして最高ですね。 - yuriさん
- (笑)
- 糸井
- これをオチに、そろそろ終わりにしますが、‥‥何か言い残したことがあれば。
- yuriさん
- 言い残したこと‥‥やっぱりその、感謝を。
- 糸井
- はい。
- yuriさん
- いろいろな法律ができてから、わたしは相談員になりました。
何もなかった時代から、先輩方が築き上げた世界で、はたらかせてもらっているんです。 - 糸井
- そのことはよくツイッターでもおっしゃってますね。
- yuriさん
- はい。
先輩を尊敬しているから、この仕事を尊敬できています。 - 糸井
- ああ‥‥いいですねぇ。
- yuriさん
- わたしはたぶん、すごく幸せな相談員なんだと思います。
夫も横目で見ながら自由にやらせてくれますし。 - 糸井
- ご主人のことをぼくは何も知らないんですが、いい人ですよね。
- yuriさん
- はい。
- 糸井
- 即答ですね。すばらしい。
- yuriさん
- わたしは外から来た人間なんですが、主人を育ててくれた小豆島の町を
だいじにしたいと思っています。
- 糸井
- ‥‥泣かせるなぁ、それ。
- yuriさん
- なんだか、すみません(笑)。
- 糸井
- いやいや、こちらこそすみません。
遠くからお越しいただいた上に、長い時間お話いただいて。 - yuriさん
- とんでもない。
ありがとうございました。 - 糸井
- 「おもしろかったです」で終わってしまうのは、なんだかへんなことかもしれませんが、あえて、おもしろかったです。
- yuriさん
- はい(笑)。
(これにて、連載を終了いたします。
最後までお読みくださりありがとうございました。
『イマサギ。』は、連載開始からツイッターを中心に多くの反響があったコンテンツでした。
メールもたくさん寄せられています。最後まで読んでのご感想を、ぜひお送りください。
お世話になった国民生活センターの方々や、小豆島のyuriさんにお届けしたいと思います。)
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