吉本ばなな&糸井重里 対談
ほんとうの
おとなになるために。

吉本ばななさんがちいさかった頃、糸井重里は
「近くにいる知りあいのおじさん」のような存在でした。
夏になると、家族づれでいっしょに海水浴に行ったし、
みんなで新年会やお花見もしました。
亡くなった、吉本ばななさんのお父さん吉本隆明さんとは
晩年に仕事で深いつきあいをしました。
だから、糸井は吉本さんのことを「ばななさん」ではなく
「まほちゃん」(本名は真秀子さん)と呼びます。
吉本ばななさんの最近の著書である新書
『おとなになるってどんなこと?』のテーマを
そのまま話してみよう、といって、このたび会いました。
「ほぼ日」では久しぶりの、ふたりの対談です。

吉本ばななさん公式サイト
吉本ばななさん公式Twitter
01 父と娘は「自由」の話をしている。
糸井
まほちゃんが出した
『おとなになるってどんなこと?』
読んだんだけどね、
読みやすいし、最高だった。
吉本
ありがとうございます。
糸井
あれ、学校とかで配ればいいのにね。
うちでも、ふだんは本を読まない社員が読んでたよ。
これ、読めるもんなぁ‥‥読めるように
書いてあるのもいいよ。
まほちゃん、これは、頼まれて書いたの?
吉本
出版社から依頼があって、書きました。
「高校生から読める新書のシリーズで、
 いまの子どもたちに向けて、書きませんか」
糸井
そうか‥‥読んでると俺はやっぱり、
お父さん(吉本隆明さん)を思い出すね。
吉本
そうですか?
糸井
お父さんを彷彿として、ほろりとしちゃって、
泣きゃあしなかったけど、泣きそうになったなぁ。

お父さんは、
自分の書きたいことを書く、という人だったけど、
途中から、「生き方」について話すという
ジャンルの仕事をはじめたよね。
それはきっと、ご自身がからだを
悪くしてからのことだったと思う。
吉本
溺れてからでしょうね、やっぱり。
(註:1996年8月、毎年夏に海水浴に訪れていた
 伊豆の海で、吉本隆明さんは溺れました。
 71歳のことです)

そのあと目が悪くなっていって‥‥。
糸井
そうだね。
きっとその前は、生き方について
何か人に言うなんてことは
なかったと思うんだ。
吉本
うん。しゃべってないと思う。
糸井
吉本隆明さんと『悪人正機』
作らせてもらったのも、ちょうどそういう時期だった。
いま、こうしてまほちゃんが自動的に、
「そのジャンル引き継いでるんだ!」と思ったよ。
読んで楽になるし、真剣にもなれる。
隆明さんとそっくりだよ。
吉本
それはぜんぜん、
自分では思ってなかったです。
糸井
そうなの?
お父さんに言われたことと同じだなぁ、
とか思わなかった?
吉本
思わなかったです。
たぶんお父さんは
私が何を考えてるかを
ほんとうにはよく知らなかったし、
深いところでは知っていても
わからなかったような気がする。
糸井
そうだね。
邪心のないひとつの純粋な魂として、
「子どもにこう言われたんだ」
「びっくりしたことがあります」
という話はしてたけど‥‥。
吉本
うん、そうですね。
糸井
でも、この本のうしろのほうに出てくる話とか
「吉本さんも、すっかり同じこと言ってたぞ」
と思ったよ。
吉本
ほんとうですか?
それはまず私がお父さんの書いたものを
そんなに読んでない‥‥‥‥っていうのが
どうなんだろうか(笑)。
一同
(笑)
糸井
ぼく自身が吉本さんから聞いたこともあったから
同感した部分ももちろんあるんだけど‥‥、
それよりももっと自分の実感として
「まほちゃん、それは俺も同じ気持ちだよ!」
って思うことも多々あったんだ。
吉本
あぁ、それはよかった。
糸井
「ほぼ日」やぼくの書くものを読んでる人だったら
「糸井さんが言ってることとダブりますね」って、
誰でも言うと思う。
ただし、ぼくのほうがまほちゃんより奥手だから‥‥
吉本
奥手?
どう奥手なんですか?
何が?
糸井
やっぱりずっと、子どもだった。
吉本
そうですか? ははぁ‥‥。
糸井
まほちゃんは自分がおとなになった瞬間を
はっきりと覚えてる、って本に書いてたよね。
もし自分にああいうことがあっても、
見すごしてたと思う。
吉本
そうですか?
糸井
ちいさくいろんな段階はあったんだろうけど、
ぼくがおとなになったのは
50すぎてからです。
吉本
50‥‥。
糸井
まほちゃんは、もうすぐ50になる?
吉本
いま、51歳です。
糸井
あ、なってる!
吉本
うん、いつの間にか。
糸井
50は、おとなにならざるを得ない年齢ですよね。
「子どもが生まれたら、おとなになりました」
という人がよくいるけれども、
そうなっても、親にはなれないよね。
自動的になることって、ないと思う。
吉本
うーん、でも、うちのお父さんは
私が48歳になったときに、
「48歳ですよ」
と言ったら、
「君も立派なおばあさんになったな」
って(笑)。

「昔だったら、48は
 もう立派なおばあさんだ」
と言われて、
「すいませんねぇ」
と応えたのをよく覚えてます。
糸井
(笑)そうかぁ、可笑しいね。

まほちゃんが書くことの全体に
1本通ってる筋は、
ふた文字で言えると思います。
それは「自由」なんですよ。
どこまで行ってもまほちゃんは、
「自由」の話をしてるんです。
吉本
うん、うん。
糸井
最晩年の吉本(隆明)さんも
「いちばん言いたいのは、やっぱり
 『自由』ってことでしょうかねぇ」
って、絞りに絞って、言ってた。
吉本
へぇ‥‥。
糸井
だから、ぼくには、のりうつってるみたいに(笑)。
吉本
のりうつってない、ない(笑)。
(つづきます)

2015-12-10-THU

『おとなになるってどんなこと?』

吉本ばなな 著
(筑摩書房 ちくまプリマー新書 680円+税)

勉強のこと、友だちのこと、おとなになること、
常識のこと、生きること、死ぬこと。
人生にかかわる根源的なテーマについて、
吉本ばななさんがていねいにつづった一冊です。
悩みまっただなかの学生さんに、また、
年齢的には充分「おとな」でも
ついつい迷ってしまうときに、
あたたかくまっすぐ届いて
いつまでも心に効きつづける文に
出会えると思います。

 気持ちがぶれてしまったときや自分でも自分が信じられないほどに落ちこんでしまったとき、この本を手にとりしばらく読み返せばいつのまにか自分の内面が調律できる、もとの軸に戻れる。
 そういうお守りみたいな本が作りたかったです。
──『おとなになるってどんなこと?』まえがきより

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