吉本ばなな&糸井重里 対談
ほんとうの
おとなになるために。
最終回
母と水鉄砲。
糸井
引っ越し仕事は苦手かもしれないけど
事務手続きとかは、
まほちゃんは得意だよね。
吉本
大丈夫なほうです。けっこうコツコツやりますよ。
何回も役所に行って、
「今日はここまで進んだ」みたいなこと、
そんなにできなくない。
姉と違って、私のほうが大丈夫。
糸井
あ、お姉さんは、逆だね。
まほちゃんはどちらかというと旅人で、
お姉さんは定住して、
最高のユートピア作ってる、みたいなタイプ。

だって、お姉さんがやってる
猫の避妊手術の範囲はすごいよ。
あれ、そうとうなエリアでしょう?
吉本
うん。網で取ってますもんね。
客観的に見るとすごいです。
糸井
あそこまで広くするのは、
定住人じゃないとできないね。
吉本
姉が住んでる実家の2階の窓から
お墓が見えるんです。
自分ちの野良猫に
姉は餌をやってるんだけど、
晩年、うちのが。
糸井
2階で寝たきりだった、母が。
吉本
「よその猫が来て食べちゃうと困る」
と言って、巨大水鉄砲で
ベシューッ! って
猫めがけて放水してるのを見て、
ほんとうにすごいなと思いましたね。
糸井
はぁぁ(笑)。
吉本
あれはもう、いいとか悪いとか、
近所迷惑とか、
いろんなこと言えない状態で。

「おばあさんなんだから、やめなよ」
と言いたくなるような
カラフルな水鉄砲なんですよ。
それでブシューッて猫を追い払ってる。
そんな家の中になってた(笑)。
糸井
定住も極まれり、みたいな。
吉本
ほんとに‥‥ただ、その絵づらがすごかったんです。
一同
(笑)
吉本
なんか(笑)、姉は姉で、
夕方になると
なまり節の大きいやつを
ボーンボーンって
壁の向こうのお墓に向かって投げてて。
糸井
すごいなぁ。
吉本
お墓に向かって
なまり節を投げるという
そのビジュアルが、
「これはすごいわ」と。
糸井
あそこはやっぱり
ふたりしか国民のいない国だったのかもね。
吉本
そうですね。
私はちょっと、そういう大胆さは持ってない。
私はどちらかといえば、
そういうことだけはほそぼそ悩みます。
「ちょっと、悪いんじゃない?
 墓の上になまり節が乗ったら、嫌なんじゃないの?」
とか思って、ぐずぐずするタイプ。
あんな思い切ったことはできない。
糸井
あのふたりの大胆さは、
言葉の端々に出てましたよ。
いつも発言ひとつひとつが
先の先の結論を出してました。
それは一貫してましたね。
吉本
そうなんですよね。
糸井
どっちでもないのが吉本(隆明)さんですね。
お父さんも、お母さんが水鉄砲打ったりしてるのを
見てたわけですか?
吉本
あるところから、
しかたがないと思ったみたいです。
糸井
吉本(隆明)さんは、
その「ふたりだけの国」の
1階という出島に移民した人、ですね。
吉本
うん。間借りしてた人ですね。
糸井
お父さんは、そのへんまとめて
「距離の問題」という言い方で語っていたなぁ。

猫との距離をどう取るかは、絶えず動いている。

人が「モテるかモテないか」という問題も
距離の問題で話していました。
お母さんとの間柄も、距離の問題だったんでしょう。
吉本
うん。
糸井
俺が直系として、お父さんから学んだのは
そこじゃないかな。
さんざん考えて出した答えだろうから、
教えてもらってよかったなぁ。
ああいう人がいて、よかったね。

まほちゃんのこの本も、お父さんの直系。
お母さんからも、学んでる?
あの「ま、いいんじゃない?」という思い切り。
吉本
うん。
だって、お母さんは死に方もすごかった。
糸井
食わなかったんでしょ?
吉本
いや、最期のほうはすごい食べてました。
糸井
最期は食べたんだ。
吉本
うん。エンジョイしてました。
薬をお酒でのんでたし、
最期までタバコもバリバリに吸ってた。
糸井
で、寝るようにして、起きてこなかった。
吉本
うん。貫いたなぁ。

私なんかは、
「少しは運動したら」
「お酒とかは飲まないほうがいいんじゃないの」
とか、平凡なことをつい言っちゃうんだけど、
全部貫いたまま、けっこう楽しそうにして、
死にざまも自然だった。
糸井
あの人にはぴかぴか光る玉のような
魂みたいなものが1個あってさ、
それが守られていれば、あとは全部OKだったよね。
吉本
もうなんでもいい、って感じ。
すごいですよ、ほんとうに。
「いろいろたいへんだし、きっと苦しむんじゃ」
と思ったけど、ぜんぜん苦しまなくて。
おそろしい、おそろしい、人物たちに育てられて、
1冊の本を書きました(笑)。
糸井
姉も含めて、吉本家は
四者四様にものすごいわけでさ(笑)、
誰も割食ってないとも言えるんですよね。
吉本
そうですね。
糸井
そこの、荒波しかないような海でね、
とれた牡蠣ですよ、この本は。
吉本
ほんとうにそうですね。
糸井
獲りにいくには大変だけど、
まほちゃんが自分で持ってきてくれたから、
5回でも6回でも読めばいいと思う。
吉本
なんか、適当なことばっかりしゃべっちゃったけど、
大丈夫かなぁ。
糸井
とてもおもしろかった。ありがとう。
吉本
ありがとうございました。
糸井
ありがとうございました。
(おしまいです、ありがとうございました)

2015-12-17-THU