第5回 天才が天才を生む。

一次情報に触れることが重要だ。現場で何が起こっているのかを見、肌で感じない限り理解できないことは多い。一見関係ないものが現場では隣り合わせで連動している、或いは連動しているはずのものが離れている、といったことはよくあるが、これらは現場に出向かない限り理解できない。間接的な報告や論文などの二次情報では決して出てこない。(抜)         ーー『イシューからはじめよ』p78より
糸井 大石さんとのやり取りの中から
「イシューとは何か」についてのひらめきが
訪れたということですけど、
そういう「瞬間」は、他にもありました?
安宅 数カ月後、もっと大きな衝撃が。
糸井 おお、聞きたいです。
安宅 ある製品の商品化に
携わっていたときのことなんですけれど‥‥
2本の軸を元にプロットしていたら、
データを見る限り
すべての要素が1点に集約され、
市場のトレンドが
ぱぁっと「見えた」瞬間がやってきたんです。
糸井 へぇー‥‥。
安宅 それはたぶん、
誰も見たことのないプロットのしかたで。

大石さんに話しても
「それはすごいよ」ということになって。

クライアントの副社長に説明したら
その場に商品担当マネージャーを呼んで
「すぐにこの商品をつくれ!」と。
糸井 ‥‥すごいですね。
安宅 実際、大成功しました。
糸井 その体験も「光」になったんですね。
安宅 ええ。
糸井 ‥‥僕の好きな釣りの話で恐縮ですけど、
1匹釣れただけなら
単なる「出来事」に過ぎないんです。

ただの偶然かも知れないし。
安宅 ええ。
糸井 でも、2匹釣れたら「データ」になる。
安宅 ‥‥なるほど。
糸井 安宅さんの場合も、2回目のひらめきがあって
「掴めたかも」と実感できたんじゃないですか?
安宅 そうですね‥‥実際、そのときからの考えを
『イシューからはじめよ』に書いています。

‥‥本当に伝わっているのか、
いまだに、ちょっとわからないんですけど。
糸井 本当に「わかる」ためには
具体的な「経験」も、必要でしょうからね。
安宅 そう、そうなんです。
糸井 これは、この本を読んでいて感じたことでも
あるんですが、
「考え」を生み出すためには
「経験」も、同じように必要なんですよね。
安宅 はい、そう思います。

僕の場合は、天才的な師匠について
いろんな経験を積ませていただいたことが
相当大きな部分を占めていますから。
糸井 そうでしょう。
安宅 だから、僕は‥‥
「天才たち」を体系化しようとしてたのかも
しれないなと、いま思いました。

大石さん以外にも
天才的な「師匠」が何人かいたので‥‥。
糸井 逆に言うと
「体系化できるに違いない」という確信が
安宅さんにはあったわけで。
安宅 ええ。
糸井 そこは「科学者の目」ですよね。
安宅 そうですね、完全にそうです。

科学の世界自体、体系化というか
「伝承される部分」が、大いにあるんです。
糸井 というと‥‥。
安宅 大科学者は、大科学者の元から生まれやすい。
糸井 ほー‥‥。
安宅 ノーベル賞学者の弟子は
同じくノーベル賞を受賞するくらいの成果を
上げることが多いんです。

たぶん、そうでない科学者の何百倍も。
糸井 そんなに!
安宅 1人のノーベル賞学者の下から
5人くらい
ノーベル賞学者が生まれることすらあって。
糸井 へぇー‥‥。
安宅 「伝承アブル」な部分は、絶対あるはず。
糸井 つまり「伝承可能性」は、あると。
安宅 僕が「掴みとろう」としていたのは、
天才師匠たちからの「伝承」だったのかも。
糸井 師匠から弟子へと伝わる、何か。
安宅 大石さんの場合、
複雑な事象をシンプルなものに変換する能力が
ものすごくて。

たとえば、
「飲料が与えるベネフィットを体系化する」
という仕事があったんですね。
糸井 ええ。
安宅 僕は、はじめ一気に「200」くらい挙げて、
そこから煎じ詰めて「50」くらいにした。

で、それを大石さんに提出したら
「まだ4つに分けられるよ」なんて言うんです。
糸井 ものすごい分析力、なわけだ。
安宅 そうなんです。
糸井 もしかしてその天才‥‥「面倒くさがり」では?
安宅 ‥‥‥‥‥‥‥そうかもしれません。
複雑なのは、イヤなんだと思います。
糸井 そこは僕と似てるんですけど、
たぶん、「面倒くさがりな人」のほうが
実際の消費者に近いんですよ。
安宅 そうですね、確かに。
糸井 もちろん「200」出す仕事も必要ですよね。
安宅 ええ、それは。
糸井 ひとつひとつ積み重ねていく種類の仕事も
「信用」を得るためには、欠かせないから。
安宅 その通りだと思います。
糸井 だから、
その両方の面をうまく連携させるのが
「チームプレー」だし、
マッキンゼーという会社には、
そういうプレーを生み出せる「血」が
あったんでしょうね。
安宅 はい、そうだと思います。
<つづきます>
2012-01-18-WED