第4回 彼女のなかに「神」を見た。

利根川進は実験においてDNAを分離する「ゲル」が、通常長さ20センチ程度なのを「これでは足りない」と言って、他分野から持ち込んだ2、3倍もあるゲルで実験し、研究上の壁を乗り越えたという。「ほしい結果から考える人」にとっては当たり前のことであるが、これが「イシューからはじめる」人のアプローチなのである。(抜)     ーー『イシューからはじめよ』p167〜168より
糸井 安宅さんが以前いらしたマッキンゼーって会社には、
話を聞くほどに
いろいろおもしろそうな人がいらっしゃったように
思うんですけど‥‥。
安宅 ええ、いますね。

私が「師匠」だと思っている人の中に、
大石佳能子さんという女性が‥‥。
糸井 あ、知ってます。
安宅 え、本当ですか?
糸井 僕が最初に会ったマッキンゼーの人。
安宅 そうなんですか。
糸井 当時は、マッキンゼーという会社のことも
よく知らなかったんで
いい加減な会社か何かだと思ってたんです(笑)。

人んちのことに
口を出して、そんなにうまくいくのかよ‥‥と。
安宅 あはははは(笑)。
糸井 無知とは恐ろしいもんです。

でも、ある知り合いから
マッキンゼーにはすごい人がいるんだからって
断言されたんですね。

そんなに言うんなら会わせてくださいと言って
会わせてもらったのが、大石さんでした。
安宅 大石さんと僕は同じチームに所属していまして、
そこの責任者だったんです、彼女。
糸井 「朝までチーム」の。
安宅 はい。

23時半に仕事が終わり
「じゃあ、飲みに行くかー」って話していたら
別の同僚が来て
「次の打ち合わせ1時ね」とか言い残していく
チームの、責任者。
糸井 ‥‥深夜の1時?
安宅 楽しさも、ありましたけれどね。
糸井 そんなチームのトップが大石さんだったんだ。
安宅 僕は彼女に、何度も「神」を見ました。
糸井 それは‥‥どういう場面で?
安宅 たとえば、
数百ページに及ぶ分析結果だけがあって、
全体はグチャグチャな状態。

‥‥という
厳しい状況が、たまにあるんですけど。
糸井 ありましょう(笑)。
安宅 大石さん、そんなカオスを前にしても
「ちょっと考えさせて」
と言って30分後に「これでいこう!」と。
糸井 ほう。
安宅 そこには、見事な世界ができ上がっているんです。
瓦礫のなかから、突然巨木が立ち上がるみたいな。
糸井 はー‥‥。
安宅 「こことこことここ、この3カ所が弱いから、
 そこに、これを差し込めばいい」
とか説明するんですけど
ただ単にでっかいだけだったプロジェクトが
すんごくおもしろい話になってて。
糸井 ‥‥楽しそうにしゃべるなあ(笑)。
安宅 そのときは、店舗の売場をどうしようという
プロジェクトだったんですが、
建築家を呼んで、精巧な模型を作ったんです。
糸井 うん、うん。
安宅 その模型を前にして
「社長、この図ではこうなっていますが、
 ここをこうすれば、こういったことも可能です」
みたいな、分析を加えた説明をするんですね。
糸井 ええ、ええ。
安宅 するともう、会議の参加者の目の前に
その空間が、ブワーっと立ち上がってくるんです。
糸井 はー‥‥。
安宅 大げさではなく
「ウオーッ!」という地鳴りのような声が
聞こえてくる感じ。

彼女のプレゼンが終わったあと、
全員「スタンディングオベーション」です。

役員会議室で、社長まで含めて。
糸井 みんなが口を揃えて評価する人なんですね。
安宅 輝ける星、です。
糸井 安宅さんは、その人の「技」を間近に見て‥‥。
安宅 彼女は「金(きん)」を見出す力がすごくて、
「とりあえず
 こんな感じでやっといてくんない?」
と言われたとおりにやってると、
本当に、混沌が「金塊」に変わっていくんです。
糸井 ほー‥‥。
安宅 恐ろしいなと思いました。
糸井 その手つきが。
安宅 ええ。
糸井 手品師に憧れた? もしくは錬金術師か。
安宅 ともかく羨望の眼差し、でしたね。

で‥‥あるとき、大石さんとタクシーに乗って
仕事の話をしていたとき、
「それって
 イシューじゃないんじゃないですかね」って
ポロッと、口から出たんです。
糸井 安宅さんの口から。
安宅 そしたら
大石さんが「あんた、いいこと言うわ!」って。
糸井 ‥‥じゃ、この本のヒントは、そこに?
安宅 ほんの少しなのですが、
はじめて何かを「掴んだ」気がしたんです。

それは、僕にとって革命的な会話でした。

『イシューからはじめる』ことの重要性を
はじめて認識できた‥‥といいますか。
糸井 その、タクシーの中で。
安宅 飛び上がるほど嬉しかったです。
糸井 安宅さんが、そんなに嬉しがってること、
大石さんは気づきましたか?
安宅 どうでしょう、
気づいてないんじゃないかなと思います。

深夜、大人数でギュウギュウで乗って、
山のような荷物を、手にしていたときで。
糸井 ‥‥それ、気づいているんじゃないかな。
僕だったら、気づくと思う。
安宅 そうですか?
糸井 自分の考えをひっくり返される経験って、
大きいじゃないですか。

「違いますよ」と言われて、
本当に「そうだな」と、納得したんなら。
安宅 だったら、うれしいですね。
糸井 ちなみにそのとき、おいくつだったんですか?
安宅 25です。
糸井 「掴んだ」気がした?
安宅 はい‥‥暗闇に一筋の光が差し込んだような。
あの瞬間のことは、いまでも忘れられません。
<つづきます>
2012-01-17-TUE