横尾、細野、糸井、3人が集まった日。
第3回
細野さんは、音楽が好きすぎた。
糸井
横尾さんは記者発表に間に合わず、
結局、YMOに入らなくてよかったですか?
横尾
そうね、あれは運命のいたずらっていうか、
ぼくの運命が
「YMOなんかに行くな」
ということだったんだろうね。
糸井
「YMOなんかに」(笑)。
横尾
運命の神様か悪魔か知らないけれども、
その人がそう言ったんだと思うよ。
もしYMOに入っていれば、
その後の人生は元に戻らないんじゃないかな。
糸井
もし入っていたらと考えたら、
別の意味でぞっとします。
単純に、ぼくがいま思うのは、
YMOに横尾さんがいたら
ビジュアルを横尾さんに任せることになりますよね。
細野
そうです。
糸井
そうすると、
着られない服とか、どんどん出ますよね。
細野
そうなりますね(笑)。
糸井
それがなかったんで、
高橋幸宏さんもファッションの路線に行ったし。
細野
そう、ポップになったね。
糸井
アートとポップの違いは、でかいですよね。
細野
でかいです。
ぼくはアートでいってもいいと
思ってたんですけどね。
横尾
YMOって、何年続いたの?
10年も続いてない?
細野
10年続いてないです。
やめると決めるまでに3年かかって、
やめると決めてから3年残ってましたから、
6年ですね。
糸井
6年なんてあっという間ですね。
細野
そうなんですよ。
でも、はっぴいえんどは
1~2年です。
糸井
細野さん、バンドをものすごく潰す人なんですって。
潰すという言い方は違うな、
きっと、飽きちゃう。
細野
それはそうですね。
糸井
細野さんとバンドをやってた松本隆さんが
おっしゃってたことなんだけど──、
なかよくバンドをやってるはずの細野さんが、
ある日、やたらといっぱい英語の文字を
ノートに書いていたらしいんです。
「何を書いてるの?」と松本さんが細野さんに訊いたら
「バンド名」と言われた。
いまはっぴいえんどというバンドを
いっしょにやっているのに、
次に組むバンドの名前を
屈託なく細野さんが考えていることに対して、
「ぼくはほんとうに悲しかった」と
松本さんはおっしゃっていました。
細野
申し訳ない。
糸井
そういうことを、
まったく悪意なく、できる人なんですよ。
細野
でも、バンドやっていようとやっていまいと、
バンド名を考えることは趣味なんです。
糸井
さきほど、YMOも、
イエロー・マジック・オーケストラという
名前だけが最初にあったとおっしゃっていましたが、
細野さんは見事に、
そのとおりのバンドを作りましたよね。
細野
そうそう。
名前から入ることって、あるでしょ。
糸井
それはわかります。
いい名前ができたら、すでに「勝ち」です。
細野
ですよね。
そこはもう、糸井さんはプロですから。
糸井
いやいや、ぼくはそれを
飯の種にしてるところがあって、
「たぶんこれがいちばんいいな、でも、よくないけど、
こっちのほうが売れるんじゃないかな」
なんていうことはやりますけど‥‥。
細野
ぼくも少しはそういうところ、あるんですよ。
だからもしかしたら、電通とかに行っても、
仕事できるんじゃないかなとか思ったり。
糸井
うん。細野さんは、やっぱり
アイディアとプロデュースが、
趣味として大好きですよね。
細野
好きですね。
糸井
ただ、音楽が上手すぎたんで、
そっちがメインに‥‥。
細野
たぶん音楽が、好きすぎました。
策略とかそういうことも考えずに、
ただ、ほんとうに音楽が好きでね。
糸井
もうひとつ、ぼくが知ってる
「細野さん伝説」があるんです。
なんに使うか、どうやって鳴らすかも
よくわからないような民族楽器を
細野さんに渡したら、
もう翌日には演奏できるらしい、という‥‥。
細野
それはそうなんだけど、
そのまた次の日には忘れちゃう、
ということが付け加えられます。
たとえば、「源氏物語」の
アニメーションの音楽の仕事で、
和琴を勉強しようと思って、
琴を買ったことがありました。
買ったそばから弾いて、
すぐレコーディングしちゃったんですよ。
糸井
えぇ?
細野
チューニングもよくわからないから、
コマを動かして、
自分の好きな音色にして、適当に。
糸井
琴を知らないまま細野チューニングにしちゃうわけだ。
細野
弾くと、なんだか気持ちいいんで、
そのまま録音しました。
アルバムが出たあとに、
琴の名手の方がぼくを訪ねてきてくださって、
「あの曲をやってみたい」「譜面はないか」と
おっしゃるんです。
「いや、そんなものないですよ。
コマがどこの位置だったかも覚えてないです。
再現できないです」
と言ったら、驚いてらっしゃいました。
糸井
きっと細野さんは、これまで
そういうことをいっぱいしてきてるんでしょうね。
昔、マリンバみたいなのも
演奏してたじゃないですか。
細野
その場では弾けるんですよ。
そこでできれば、ぼくはもう満足しちゃう。
その楽器で一生食ってこうってことはない。
ひとつの楽器に一生をかけられないという
コンプレックスがあるんです。
あれもこれも好きなんで。
糸井
うん、うん。
細野
しかもそれは、楽器に限らないんですよ。
音が出ればなんでもいいんです。
目の前にあるもので、音が出ると、
それが楽器になってしまって、好きになる。
糸井
細野さんはあれもこれも好きで飽きっぽいし、
ぼくもメッチャクチャに飽きっぽいんです。
でもそのわりには、細野さんもぼくも
それぞれの世界にずっと、
逃げずに飽きずにいます。
横尾さんもそうです。いつも飽きてるのに。
細野
飽きてる。でも、絵は描いてる。
糸井
その世界にずっといながら、
「飽きる」ことを肯定的にとらえてるでしょう?
細野
そうね、飽きることをべつに
否定的にとらえる必要もないし。
(つづきます)
2016-11-29-TUE