荒木さん。
写真家の荒木経惟さんが
糸井重里の「顔」を撮って下さいました。
雑誌『ダ・ヴィンチ』の名物連載
「アラーキーの裸ノ顔」の撮影です。
撮られている間中、
糸井はずいぶん嬉しそうに見えました。
10分ほどの撮影を終えると
二人はその場で1時間ほど話しました。
そのようすを、
ほとんどそのまま、お届けします。
対話の端々に、8つ上の荒木さんへの、
糸井の尊敬を感じます。
あのときの、暖かかった場の雰囲気が
少しでも伝わったらいいのですが。

荒木経惟 Araki Nobuyoshi

1940年5月25日、東京都台東区三ノ輪生まれ。
1963年、千葉大学工学部写真印刷工学科を卒業後、
大手広告代理店電通にカメラマンとして入社。
1964年『さっちん』で第1回太陽賞を受賞。
1971年、自らの新婚旅行を撮影した
私家版『センチメンタルな旅』で写真家宣言。
1972年に電通を退社。写真作家として独立する。
以後、ヌード、肖像、風景、静物、
ドローイングフォトなど、
対象ジャンルや方法論を限定することなく、
既成の写真表現の文脈に収まらない作品を
精力的に発表し続ける。
現在、日本を代表する写真作家として、
ヨーロッパ、アメリカをはじめ
世界各国で高い評価を得ている。
2008年、オーストリア政府より
オーストリア科学・芸術勲章受章。
2011年、新潟市より第6回安吾賞受賞。
2013年、毎日芸術賞特別賞受賞。
著書に『さっちん』(新潮社)、
『愛しのチロ』(平凡社)、
『センチメンタルな旅・冬の旅』(新潮社)、
『人妻エロス』(双葉社)、
『往生写集』(平凡社)、
『道』(河出書房新社)、
『男 ―アラーキーの裸ノ顔―』(KADOKAWA)、
『楽園は、モノクローム。』(アダチプレス)、
『写狂老人日記 陽子ノ命日』(ワイズ出版)など。
とじる
第1回 思いは通じてたよ。
第2回 励まさないでくれ。
第3回 うまい写真はダメだ。
第4回 足がしびれちゃうよ。
第5回 娑婆だね、写場だ。
第6回 俺、前立腺がんでね。
第7回 東京は墓場だよ。
第8回 音出して隠し撮りしろ。
第9回 ウ◯コしたくなってさ。
第1回
思いは通じてたよ。
荒木
俺、着てきたんだよ。
(と、着てきたTシャツを見せる)
糸井
あ、本人だ(笑)。
荒木
本人としては恥ずかしいよ~。
糸井
ぼくは荒木さんみたいなメガネを
持ってきたんです。
荒木
おっ、いいじゃない。
糸井
こないだの荒木さんの展覧会、
(荒木経惟写真展『男 ―アラーキーの裸ノ顔―』)
ちょっとね、興奮したんです。
荒木
感想、書いてくれたんだって?

俺、インターネットやってないから
知らなかったんだけど、うれしいよ。
糸井
興奮したこと、はっきり憶えてます。

写真って、あの大きさにしてはじめて
見えてくるものがあるんですね。
荒木
そう、見せかたで、ちがうんだ。
本にすると、またちがうし。
糸井
そうなんでしょうね。
荒木
メガネ、似合うなあ。
糸井
ほんとですか。
荒木
じゃあ、そのままで撮ってみるかね。
まずは‥‥ゆったりした感じで。
糸井
ニヤニヤしちゃう(笑)。
荒木
うん、そのぐらいの感じ、いいですよ。
あんまり笑うとね‥‥。
糸井
色男すぎる?(笑)
荒木
そうそう(笑)、じゃ、いこう。
口元がちょっと弱いね。やさしすぎる。
うん‥‥グー、OK。

今度は、ちょっとね、立ちましょうか。
いや、もっとリラックスして。
糸井
なんだか、ニヤけちゃうなあ(笑)。
どうも知り合いだと‥‥。
荒木
仲間内だからね(笑)。
糸井
カメラマンに「笑ってください」って
言われても、
そんな簡単に笑えないよって思っちゃうけど、
荒木さんだと、つい笑っちゃうな。
荒木
ああ、いいね。
女の子向けに撮りますからね。

こんどは真剣にいきましょう‥‥よし。
グー。はい、OK!
糸井
ありがとうございました。
いやあ、こうやって撮ってるんだ。
荒木
5分か10分くらいだよ。
糸井
こないだの写真展を見たときに、
荒木さんに撮られる人は
「何をやってもダメだ」と思ったの。

「カッコつけてもムダ」っていうか。
荒木
あ、そう(笑)。
糸井
男ってそれぞれにバカだから、
「こう見せたい自分」がいますよね?
荒木
うん。カメラのレンズは「鏡」なんだけど
俺のレンズは「三面鏡」なんだ。

だから、鏡で自分を見てるって思ってても、
襟足が見えちゃってんだ(笑)。
糸井
うん(笑)、で、展覧会場を出るときに、
「人って
 そんなにたいしたことないんだなあ」
って思ったんです。

と同時に
「全員、たいした人だ」とも言えるし。
荒木
有名無名とか、いろんな人がいるけど、
それも混ぜこぜだからね。
糸井
そうですよね。
荒木
この「アラーキーの裸ノ顔」って連載は、
人の選びも、俺の好みでやってるから。

で、カメラを向ければ、
みんな、たいがい何かを持ってる。
みんな、持ってるんだよね。
糸井
つまり「裸ノ顔」ってことは、
荒木さんが女性のヌードを撮るときと、
同じってことですか。
荒木
そう、スタジオに来てさ、
「脱ぐんですか?」って言う奴もいて。

「いや、そうじゃなくて
 男は顔がヌードなんだよ」っつって。
糸井
なるほど。
荒木
ただ、中身を知ってると撮りにくいよ。
糸井
知ってるだけに(笑)。
荒木
ジュリー(沢田研二さん)なんて人もさ、
もうね、わかっちゃうわけ。

「何を撮られたがってるか」というのが。
糸井
うん、うん。
荒木
だから、なんというかさ‥‥
「ちょっと乾いたホモ関係」っつうかね。
糸井
ええ(笑)。
荒木
男を撮るときは、それがないとダメだよ。
瞬間的な男同士の恋愛、5分間の(笑)。
糸井
さっき、すこしそんな気がしましたもん。
荒木
最後は柔和な顔になってたよ。
糸井
柔和(笑)。
荒木
最初は、ピッとしててもね。

タイプもいろいろあって、
撮影が終わって「ちょっと一服」ってときに、
フッと出る人もいる。
「これでいこう!」となったときに、
とっさに凝縮したり。相手の顔がバッってね。
そういうとき、いい顔するんだ。
糸井
選挙のポスターって
「私は、いい人です」って写真ばかりだけど
荒木さんの写真には
そういう感じ、まったくないですよね(笑)。
荒木
だって、「悪」を持ってるじゃない、男って。
糸井
ええ。
荒木
それを、引っ張り出そうと思ってるからね。

人ってたいがい悪いところは隠すけど
ワルじゃないと魅力ないんだよ、男ってさ。
糸井
どうして、
その人の「ワルっぽさ」がわかるんですか?
荒木
もうね、それはレンズがわかる。
糸井
レンズがわかる?
荒木
レンズとかカメラがわかるんだろ、きっと。
糸井
こうやって、荒木さんとしゃべることって、
いままで、なかったですよね。
荒木
そうだねぇ。
糸井
心の親しさはあっても、
このまま、
しゃべらないまま死んじゃうのかなぁ、
みたいな人って、いると思うんですよ。
荒木
うん。
糸井
そういう意味で、荒木さんとは、
このままかもしれないなあと思ってたんで。
荒木
思いは通じてたよ。
糸井
ああ、ありがとうございます(笑)。

<つづきます>
2015-11-05-THU
あの連載『裸ノ顔』が1冊に!
1ページめから、ビートたけしさんですし、
その後も王貞治さん、原田芳雄さん、
山崎努さん、中内功さん、泉谷しげるさん、
ジャイアント馬場さん‥‥と
総勢200人以上の「男」の「裸ノ顔」に
見入って(魅入られて?)しまい、
ページをめくる手が、本当に止まりません。
荒木さんの撮る「裸ノ顔」は
「その人の、見たことない感じの顔」なのに、
「実際にお会いした印象には
 より近い『顔』が写っているんです」
とは、雑誌ダ・ヴィンチで
「裸ノ顔」を担当されているHさんの弁。
おすすめの一冊です。ぜひ。

なお、2015年11月22日(日)の
NHK「日曜美術館」では
荒木経惟さんの特集が放映予定だそうです。
番組サイト→ http://www.nhk.or.jp/nichibi/
荒木経惟『男 アラーキーの裸ノ顔』 (KADOKAWA)