荒木さん。


第9回 ウ◯コしたくなってさ。
荒木
写真ていうのは、昨日今日撮った写真でも、
「うーん、懐かしいな」って、
そういう気持ちが出る写真が、いいんだよ。
糸井
なるほど。
荒木
懐かしさを感じさせない写真なんて、ダメ。
糸井
撮ったとたんに、
「いずれ懐かしくなる感」がある写真って
たしかにありますよね。
荒木
うん、ある。

何十年前の写真を見て「懐かしいな」って、
そんなの当たり前。
そうじゃなくて、つい昨日、撮った写真が
もう懐かしいぐらいじゃないと。
糸井
同時に、そういう写真って、
「ずっと昨日」みたいな気さえもしますね。
荒木
そう、両面持ってんの。

ずっと前から『偽日記』ってやってたけど、
「しょせんは日付、
 その日のことに過ぎない」というのと、
「この時は永遠の時なんだ」というのを、
両方、写すくらいな気持ちで。
糸井
荒木さん、ぜんぜん休む気ないですね。
荒木
それなりに横になりたいとか、あるよ。
疲れるんだよ、夏は暑いし。歩くのも。
糸井
今日は、すみません。

いや、荒木さんと
まとまった時間、しゃべったことって
なかったなあって気づいて。
荒木
そうだよね。
糸井
いま、よく会ってる人はいますか。
荒木
いないね。みんなそれぞれ。
だいたい、つるむのカッコ悪いし。
糸井
昔、仕事でいっしょに
チェジュに行きましたよね、済州島。
荒木
そうそう、行ったよー。
糸井
イメージキャラクターが小林薫で。
荒木
インテリげんちゃんの、夏やすみ。
新潮文庫の、ね。
糸井
あのとき「さあ、仕事だ!」ってなると、
荒木さんが、
なぜか遠くのほうでしゃがんでる(笑)。
荒木
ウ◯コしたくなってさ。

でも、写真ってさ、
ああいう姿勢で撮らなきゃダメだね。
糸井
え、何でですか(笑)。
荒木
ようするにさ、
小津安二郎の気持ちがわかったんだよ。

ウ◯コ座りしてたら
「ローアングルの気持ち」がさ(笑)。
糸井
荒木さん、デビュー当時から
「ゲリバラ」とか言って、くだしやすい?(笑)
荒木
ああ、「複写集団ゲリバラ」ね。やってた。
糸井
ビロウな方向ですが
「固まりきらないうちから出してる写真」
ばっかりでしたよね。
荒木
出し方としては、そのほうがいいよ。
糸井
そうか、わかった!
固めたら「オブジェ」になっちゃう!(笑)
荒木
あはは(笑)、そう、そうだよ。
固めたら、カタチになっちゃう。
糸井
カタチには、しない。
荒木
絶対に、しない。
糸井
存在がウ◯コであれば、それでいい‥‥。
荒木
そう(笑)。
糸井
でも、病気の治療をしてるって聞いてから
ずいぶん時間が経ってるけど、
いやあ、ものすごく元気そうですね(笑)。
荒木
顔色いいし声が大きいからって、
元気がないなんて嘘だろうって。
糸井
病気でさえも「ニセ」なんじゃないですか。
荒木
あはは(笑)。
糸井
活動の制限はあるんですか。
荒木
まあ、あるにはあるけど、そうはいかない。
かたわらにカメラがあるからさ。
糸井
心は、まったくしぼんでないんですね。
身体は、くたびれても。
荒木
いま「写真骨頂」って言ってんだ。
糸井
あー、いいですねぇ。
荒木
いまがいちばん、いい写真が写ってる。
糸井
そんな時期に撮っていただけたなんて
もう、感謝しかないです。
荒木
いやあ、今日は傑作が撮れたと思うよ。

でも、ちょっと
「オブジェ」にしちゃったかなぁ(笑)。
糸井
この前の『裸ノ顔』の写真展のあと、
展覧会って、どこかでやってました?
荒木
表参道の裏のギャラリーでやったよ。
淫らな夏で『淫夏(いんか)』って。

※現在は終了しています。
糸井
ああ、いいですね。淫夏。
荒木
写真は基本、「エゴとエロ」だから。
糸井
それって「生きもの、そのもの」ですね。
「生きる」と「繁殖する」だから。
荒木
そうだ。
糸井
荒木さん、「自写像を撮る」ってこと、
あたまに入れといてくださいよ。
荒木
ああ、それね。
糸井
暇な時間に自分を撮らなかったっていうの、
すごく不思議な気がするんです。

絵描きなら、自画像を描いてると思うから。
荒木
自分を撮ってもらうときは
「写るかどうかわかんない」っていう奴に
カメラ渡しちゃって、
そうすると、本当に写ってなかったりして。
それもまた、いいんだよ。おもしろい。
糸井
荒木さんが「猫、撮ろう」と思って、
猫を撮ってた時間は、
ゴッホだったら
自画像描いてるような時間だと思うんです。
荒木
だって俺、もう、写っちゃってんだもん。
糸井
ああ、相手の目にね。
荒木
だから
自分が相手に染み込んで写ってない写真は
ダメだよね。
糸井
でも、ほんと憶えておいてくださいね。
「あいつ、あのとき、
 俺に自写像撮れってしつこかったな」
ってこと。
荒木
わかった、憶えとく。
三面鏡、用意してね。

<終わります>



2015-11-17-TUE