マルディ・グラの和知さんの
「ていねいでおいしい野菜」
その2 マスタードドレッシングと、香りのオイル&ビネガー。

▲今回つくるハーブビネガーです。いい香り!

今週も銀座マルディ・グラのオーナーシェフ、
和知徹さんに教わります! むしゃむしゃ。

そうそう、前回紹介した「和知さんのケチャップ」
「つくってみました!」というかたが
おおぜいいらっしゃるみたいで、うれしいなあ。
あまりにおいしいので
「オムレツ、ソーセージ、ミートローフ‥‥
 思いきり食べ過ぎそうなんですけど」というかたも。
そ、それは、いかん。ちょっとガマンしてください!
それから「白ワインと白ワインビネガーがなかったので
日本酒と米酢でつくりました」というかたもいましたよ。
それはすごい。試してみたい。
和風になるのか、そうでもないのか?
また、材料を変えて
「黄色いパプリカ」と「黄色いトマト」だと
赤くないケチャップができるんだろうか。
「緑のパプリカ」に「緑のトマト」だと、
緑のケチャップに?!
ああ、いろいろやってみたい!

と、そんな話を和知さんに伝えたところ、
ナイスアドバイスをいただきましたよ。

「黄色のケチャップなら、少しだけターメリックをプラス。
 緑色のケチャップなら、
 少しだけ抹茶をプラスすると綺麗な色がでますね。
 日本酒や米酢でケチャップを作ると、
 よりまろやかに仕上がって、
 お子さんがいるなら、その方が喜ぶかもしれません」

なるほど~! みなさまもぜひやってみてくださいねー。

さて、今回もバリバリ(野菜を食べる音)行きましょう!
テーマは「香り」そして「ドレッシング」です。


まずは、基本の「マスタードドレッシング」です。
マスタードドレッシングとは何か? それは、

 ディジョンのマスタード
      +
    野菜の出汁

これだけです。
これだけなんだけれど、これがすごい。
油脂は使わなくても、コクがあってうま味が強い。
生野菜、茹で野菜、焼き野菜、揚げ野菜、
なんにでも合うのですよ。

「これを基本に、いろいろ足していく。
 そうすると、かなりのバリエーションが楽しめますよ」

と、和知さん。
ではまず、「野菜の出汁」の取り方から教わります。
固形ブイヨンとかじゃないよ!
ちゃんと出汁をとるんだよー!


【野菜の出汁】

[材料]

・にんじん‥‥1本
・玉ねぎ‥‥1コ
・セロリ‥‥根のほうから1/2本
・にんにく‥‥1片
・オリーブオイル‥‥少々
・水‥‥適量
・タイム‥‥生のものを1枝

[つくりかた]

1)玉ねぎの皮と根の部分を取り、
  3等分になるよう輪切りにします。
2)鍋をやや強めの中火で熱し、
  オリーブオイルをうすくひいたところに、
  玉ねぎを並べて熱します。
3)その間に、にんじんの皮をむいて乱切りにします。
  (めんどうなら、皮つきのままでも大丈夫です。)
4)セロリも3~4センチの長さに切ります。
5)鍋ににんじんとセロリ、にんにくを入れます。
6)玉ねぎにいい感じの焦げ色がついたら、
  上下をかえし、ほかの野菜も加熱します。
7)パチパチという音が細かくなってきて、
  白い煙があがってきたら、
  ひたひたになるまで水を注ぎます。
8)タイムを入れて、沸くまで強火に。
  沸いたら中火にして、15分ほど、
  野菜に火が通るくらい煮出せばできあがり。

▲最初にこれくらい、焦がします。

ああ、焼けた玉ねぎのいい香りがします!

「まず玉ねぎって優秀なやつなんですよ。
 焼くことで甘く香ばしくなります。
 焼き色が強くつくくらい焼いて、
 刻んだだけでも、とってもおいしいですよ。
 そして、玉ねぎを焼くときのコツは、
 いちど置いたら、しばらく動かさない、触らないこと。
 これは、ほかの料理にも言えることですけれど」

和知さん、たしかに、玉ねぎを鍋に並べたあと、
しばらく放っておいてました。
ついつい、動かしたりひっくり返したり
したくなっちゃいそうですけれど、
和知さんによると、
「いつ返せばいいか、音でわかる」らしいのです。
パチパチ音が細かくなってくるのだと。

☆イラスト 料理の音に耳を澄ませる和知さん

そういえば、前に「ほぷらす」の取材で
陶芸家のかたから、
弟子の筋のよさを見分けるのには
魚を焼かせるといいと聞いたことがあります。
しょっちゅう動かすようなのはダメ、
じっと待って、ひっくり返すタイミングを
音で見極められる人は、陶芸にも向いていると。
「焼き」の世界、奥が深いなあ。

でもそれってぼくらにはなかなかむずかしいので、
なるべく再現性があるようにと
レシピには「パチパチという音が細かくなってきて、
白い煙があがってきたら」と書きました。
でもこれは、使う鍋やフライパンでも変わると思うので、
自分なりのタイミングをつかんでくださいね。

さらに余談ですが、今回、和知さんの使っている鍋は
「ストウブ」 という会社の製品です。
鋳鉄琺瑯の、フランスの鍋。分厚い。重い。
プロの料理人は、この鍋を使う人が多いみたいですね。
というかもともとプロ用の器具だったのが、
近年、一般でも売られるようになったらしいです。
鍋といっても煮込みだけじゃなく、
今回の野菜の出汁のような「焼き」から「煮る」への
シームレスな工程もばっちりです。

▲これは武井私物のストウブ。すっごい重い。ずいぶん長いこと使ってます。
 把手のブタは、最近取り換えたもの。

さあ、ぐつぐつ煮えた出汁から、
複雑な香りが立ってきました。
なんだなんだこの香り。こうばしい。
なんだかちょっとなつかしい。
どこかで嗅いだことがあるような‥‥?

「この香り、僕は密かに、
 『肉抜きのバーベキュー味』
 って呼んでます」

ああーっ! なるほど! それだ! あの香ばしさだ!

「この4つの野菜は、
 お肉料理で香りの下支えになる、
 最強の香りを出しますよ。
 深みが出るんです。
 この野菜でお肉をもんで
 ひと晩おいて焼くだけでも、
 すごくおいしくなりますよ」

おっ! いいこと聞いた!
にんじん・玉ねぎ・セロリ・にんにくで
肉をつけこんでおけばいいですね。
こんど安いお肉で試してみようっと。

そうして薄茶色に色づいてきた、野菜の出汁。
ちょっとコンソメみたいなうす茶色になってます。
ひとさじ飲ませてもらったら、
‥‥うおおおおおおおおおーっ!
まったく塩をしていないのに、
「うま味」があって、おいしい!
野菜だけでこんなに出汁がひけるんだ?!
そしてほんのちょっとの焦げ感が、
まるでスパイスみたいな役割をしています。
こういう香りと味が加わったドレッシングって‥‥
たしかに、あんまり、ないよなあ。

「さて、この出汁で、マスタードをのばしましょう」

和知さんの言うマスタードは、
フランスのディジョンの、なめらかなタイプ。
(粒々のじゃないです。)
辛みは少なくて、そのままお肉などにつけて
食べてもおいしい調味料です。

▲これがベースの、ディジョンのマスタード(の、でっかい瓶)。

レシピはいたってカンタン。


【マスタードドレッシング】

[材料]

・ディジョンのマスタード‥‥適量
・野菜の出汁‥‥適量

[つくりかた]

1)ボウルなどに、ディジョンのマスタードを取ります。
2)野菜の出汁を、すこしずつ加えながら、
  のばしていきます。
3)とろりといい感じになったらできあがりです。

▲野菜の出汁でのばします。いい色!

▲混ぜ終わりました。とろーり、いい感じ。

さっそく試食。というか、ひと舐め。ぺろり。
‥‥ん、んまーい!
ディジョンのマスタードって
もともと「やわらか」な味なんですが、
それがさらに「やさしく」なった印象です。
ドレッシング的なディップという感じ。
バーニャカウダみたいに、野菜を「つけて」食べても
いいかもしれないなあ。

▲ということでこちら武井自作。生のカリフラワーに、マスタードドレッシングをかけただけです。
 これが、もう、すっげーフレンチ!! こんな味が、かんたんにつくれるとは‥‥和知さんすごい。
 あ、野菜の出汁の残り野菜も、もったいないから、これで食べようかな。

「じゃあ、おまけにもうひとつ。
 こんな出汁を混ぜてもいいんですよ。
 乾燥ポルチーニの戻し汁」

▲ぜ、ぜいたくー。

「干ししいたけと同じで、
 乾燥きのこのもどし汁は
 おいしい出汁になるんです」

なるほど。基本のドレッシングに、うま味を足す。
それだけで豊かさが、さらにアップするんですね。
いろいろ応用できそうなヒントです。

さて、これで基本のドレッシングができました!

■飽きない工夫は「香りを足す」こと!

「さて、これでじゅうぶんおいしいんだけれど、
 それでも、いつも同じだと飽きますよね。
 だから、飽きない工夫をします。
 これ‥‥なんだかわかりますか?
 マルディ・グラで常備しているものなんです」

▲なんだなんだ? 豆のようなものが、とろりとした液体に浮いている‥‥。

ああ、これは、オイルですよね。
香りは、‥‥ああ、知った香りだ!
えーっと、これは‥‥?

「カレーコーヒーオイルです」

な、なんですかそれは?!

「ちょっと味をみてください」

はい、じゃ、ひとさじ。

▲あ、‥‥うまっ! すごい香り! なんだこれ?!

▲「ほえーっ!」

妙な写真まで出してしまいましたが、
この顔のように、おどろきの香りなのです。
たしかに「コーヒー+カレー」ではあるのですが、
どちらの印象も、そんなに強くない。
組み合わさってあたらしい香りになっているというか。
そしてスパイシーさも、いわゆる
「カレーを食べるとき」のようなパンチではなく、
奥の方で、ふんわりといろんなスパイスが踊ってる感じ。
そして、コーヒーの焦げた香ばしい豆の香り。
ふたつのダンシング・チームがコラボしている印象!
これが合わさって、カレーでもない、コーヒーでもない、
けれどもとても大人っぽい印象がうまれるのですね。
舐めてみるまで、ぼくはしょうじき、
「カレー粉って、個性が強すぎやしないかな?」
って思っていたのですけれど、
みごとにくつがえされました。
これ、おいしー!

「オイルにカレー粉と、
 ローストしたコーヒー豆を入れて
 ただ漬けこんだだけなんですよ。
 カレー粉は沈殿し、コーヒー豆は浮きます。
 オイルだけすくって使うんです。
 カレーとコーヒーって、
 そもそも、相性がいいですからね」

たしかに、カレーを食べると
コーヒーが飲みたくなりますが、
カレーとコーヒー豆をいっしょにオイルになんて、
考えたこともなかった‥‥!


【カレーコーヒーオイル】

[材料]

・カレー粉‥‥大さじ1~2
・コーヒー豆‥‥30g程度(豆のまま)
・オイル‥‥適量(香りのうすいもの。フレンチでは、
      ひまわり油やピーナッツ油を使うそうです。)

[つくりかた]

1)ふたのできる瓶やカップに、カレー粉を入れます。
2)そっとオイルをそそぎます。
3)フォークなどで、カレー粉を沈めます。
  (かきまぜると濁るので、そっと。)
4)コーヒー豆を入れます。
5)常温で1時間ほど置きます。香りがうつったら、
  オイルだけをすくって使います。

▲さっそくつくりました、武井の自作バージョン。
 コーヒーは家で冷凍してあったフレンチローストを使いました。

▲ちょっと青みがかっているのは、買い置きのグレープシードオイルを使ったから。
 これもクセがなくていい感じ! ふつうの(香りの強くない)オリーブオイルでもいいかもー。

「けれども、これはまあ、油なので、
 ちょっと『わるい』系ですよね(笑)。
 このオイルを使ったサラダは、
 のちほどあらためて紹介しますが、
 まずはマスタードドレッシング用に、
 これを応用して、よりヘルシーな
 フレーバービネガーをつくりましょう。
 カレー粉のみと、フレッシュハーブ。
 2種類つくります」

おお、こんどは、ビネガーに応用!


【カレービネガー】

[材料]

・カレー粉‥‥適量
・ビネガー‥‥適量

[つくりかた]

1)瓶やカップなどの容器にカレー粉を入れます。
2)そっとビネガーを注ぎます。
3)フォークなどで、カレー粉を沈めます。
  (かきまぜると濁るので、そっと。)
4)カレー粉が沈んだら、
  上澄みのビネガーをすくって使います。

▲カレービネガー工程3です。

▲これくらい沈んだら、上澄みを使います。


【フレッシュハーブビネガー】

[材料]

・ローズマリー、タイム、セージ
 ‥‥フレッシュなものを1枝ずつ
・ビネガー‥‥適量

[つくりかた]

1)瓶やカップなどの容器に
  ハーブを適当な長さに切って入れます。
2)ハーブが浸る程度に、ビネガーを注ぎます。
  ちょっとくらい飛び出しても気にしません。
4)1時間ほどおき、香りがうつったら、
  ビネガーをすくって使います。

▲フレッシュハーブビネガー工程2です。

▲さっそく空瓶でつくってみましたよ。ハーブは1枝といわず、たっぷり入れてみました。

「このふたつで、
 ベースのドレッシングに変化を加えます。
 カレーは刺激、強さ、
 ハーブは香り、穏やかさを足すんです。
 ハーブのほうはすぐに香りはでないので、
 しばらく漬けておいたものを試食してください」

▲わはははは、うまーい。笑うくらいうまーい。これ、飲めます! 酢だけど、飲める!
 しかも、家の味じゃなーい。フレンチーっ!!

これ、いろんなものに試してみたくなりますよね。
たとえばお魚をカリッと焼いて、
このビネガーで食べるとか、
きっと帆立貝なんかにも合うだろうなあ。

「そう、野菜でもなんでも、
 ただ、かけるだけで、一品になりますよ」

ああ、食べたい。そして誰かに食べさせたい!
きっと、沸くだろうなあ~!

▲といいつつ、ひとりでつくってひとりで食べました。帆立の刺身をカレービネガーで和えて、
 サラダにしてみました。おーい、白ワイン持ってきて~!

▲ハーブいっぱいあるから、ビネガーだけじゃなくオイルもつくっておこうかな。

次回は「スパイスふりかけ」と、
「炒めたせん切りにんじんのフレーバーオイルサラダ」
などを紹介しまーす。

この取材にいって
サラダブッフェの楽しみ方変わりました。
これまで、「洋風」「和風」「ノンオイル」を
選ぶだけだったドレッシング選び。
「野菜をたっぷり食べたいんだけど、
 この味じゃないんだよなあ」
と、いつも思っていましたが、
ブッフェでも自分でドレッシングを作ることが
できるようになったんですよ!
(いがいとマスタードと酢はブッフェにもあるんです。)
和知さんのドレッシング使い。
ぜひ、ブッフェやサラダバーでもお試しください!

2014-09-25-THU