── テレビ局のディレクターになるくらいですから、
いわゆる「テレビっ子」だったんですか?
渡辺 はい、とくに「お笑い番組」が大好きで。
── たとえば‥‥。
渡辺 何といっても『オレたちひょうきん族』ですね。
中学生のときに
グワッとハートをわしづかみにされまして。
── じゃあ、いわゆる
「ドリフ派? ひょうきん派?」
でいう‥‥。
渡辺 「ひょうきん派」です。
── なるほど。
渡辺 ちなみに、どっち派でした?
── ぼくは
「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ派」
といいますか‥‥。
渡辺 ‥‥やりますね~(笑いながら拍手)。
── や、すみません、ボケたわけじゃなくて、
主に世代的な理由なんです(笑)。
渡辺 えー、話を続けさせていただきますと。
── お願いします。
渡辺 「ひょうきん族」にハートをわしづかみにされた
中学生のころから
「テレビの世界に行きたい‥‥」
「あの現場ではたらきたい‥‥」
── ええ、ええ。
渡辺 「あの夢のような世界で
 ずうーっと遊んでいたい‥‥」

── 念仏のように。
渡辺 もう、その一心でした。
── その熱い思いが通じたのか、
入社後の配属も、みごとバラエティ班に。
渡辺 はい、会社に入ってすぐのころ、
社内をウロウロしてたら
明石家さんまさん
三宅(恵介・フジテレビディレクター)さん
収録をやってたんですよ。
── テレビで「お笑い」を志す人にとっては
黄金のタッグですよね。
渡辺 「うわ! でた!」と思いました。
── ええ。
渡辺 「夢にまで見た、テレビの世界だ!」って。
さっそく人事部の人に
「さんまさんと三宅さんのところに
 行かせてください!」って
意を決し、ドキドキしながらお願いに行ったら
「いいよ」って言うんです。
── あら、そんな軽い感じで(笑)。
渡辺 長年の夢が、叶ってしまったんです。
でも、そこからがタイヘンでした。
── 夢の世界は、厳しかったですか。
渡辺 なにしろ「プロのおもしろい」
もう‥‥ものすごくて。
── そのあたり、ぜひお聞かせください。
渡辺 いまから思えば、学生時代の自分なんて
ただ単に明るくて
ふつうにおもしろいぐらいのレベル。

なのに
「ぼくには笑いの神が降りてます」
みたいな
寒いこと言ってたんですよ、面接で。
── あはははは。
渡辺 社長に。
── 社長に!(笑)
渡辺 そんな自分が、晴れてADとなり
さんまさんや三宅さんと
『あっぱれさんま大先生』の会議に
出るんですけど、
そこがすでに大喜利だったんです。
── 会議が大喜利?
渡辺 たとえば‥‥そうですね、
子どもたちに出題する「穴埋め問題」を
考えるとするじゃないですか。

「雀の子 そこのけそこのけ ホニャラララ」
みたいな。
── その「ホニャラララ」を埋めよと。
渡辺 で、ぼくなんか、何も知りませんでしたから
「へぇ、テレビってこうやって作るんだぁ」
「さすが、さんまさんは、おもしろいなぁ」
なんてノンキに構えてたら
「タク、お前なら何入れる?」と。
── うわ!
渡辺 急に指されるんですよ。
── 手も挙げてないのに。
渡辺 そう、もう頭のなか真っ白けになりながら
アワアワ言うんですけど、
そりゃあ寒いことになったわけです。
── こ、こわい‥‥。
渡辺 でもね、ぼくがどんな寒いこと言っても
さんまさんが
かならず「笑い」にしてくれるんです。

あの、笑いの天才のツッコミで。
── おおー‥‥。
渡辺 これがプロの笑いなのかと、感動しました。

と同時に、日常のすべてのシーンで
自分にいつパスが飛んで来るかわからない
ということを、肝に命じたんです。
── ボンヤリしてられない、と。
渡辺 この先、さんまさんや三宅さんに
アピールしていくには
「タク、お前なら何?」とか振られる前に、
ホワイトボードに
何かが書きはじめられた時点で
ボケを用意しとかなきゃならない
ということを学んだのです。
── タフな日常ですね‥‥。
渡辺 でも、こわいと同時に嬉しかったんです。
だって
オレにもパスが来るんですから
── それも、さんまさんや三宅さんという
お笑いのメジャーリーガーから。
渡辺 あるときはまた。
── ええ。
渡辺 会議室とかに「ステンレスの灰皿」が
置いてあるじゃないですか。
── よく見るかたちの、はい。
渡辺 会議が煮詰まって場がシーンとしてるときに、
ぼくの腕時計が
そのステンレスの灰皿に当たって
「カァーーーーン‥‥」
というね、
情けない音を出してしまったんです。
── なんとも間が悪いですね。
渡辺 よく響くんですよ、これがまた。
── ええ。
渡辺 もう「ウワァ‥‥!」とか思って。
── はい。
渡辺 会議の種類によっては
「チッ!」
「何やってんだカス!」みたいになりかねない
危険な状況ですよ。
── ‥‥ははぁ。
渡辺 でも、さんまさんは
「カーン」って音が鳴った瞬間に
「依般若波羅蜜多故・・・・」
(えはんにゃはらみたこ)
── あはははは(笑)。
渡辺 お経を読んでくれるんです。
── すごいです!
渡辺 そんな日常を過ごしていますとね、
だんだん、
気持ちが「ひな壇の芸人さん」みたいに
なっていくんです。

いつなんどきでも「おもしろ回答」
用意しておかなきゃという、
そういう心理状態になってくるんですよ。
── それによって、何かいいことはありましたか?
渡辺 芸人さんと同じ心構えになるので
台本を書くときに
「あ、こういうフリだと
 演者さんたちもボケにくいだろうな」
という「感じ」が
わかってくるようになったんです。
── なるほど。
渡辺 逆に
「これなら、けっこうおもしろいことが
 言いやすいかも」と
ぼくの時点で思える台本が書けたら、
プロの芸人さんなら
数百倍おもしろくしてくれるんですよ。
── はー‥‥。
渡辺 だから、まだぺーぺーのADだったころに
そういう「会議が大喜利」みたいな
「過酷な筋トレ」を
やらせてもらえたことは、
本当に、ありがたかったなぁと思いますね。

<つづきます>
2010-12-07-TUE
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もくじ  
第1回 オレにもパスが来るんだ。 2010-12-07-TUE
第2回 さんまさんに「賞金」をもらった日。 2010-12-08-WED
第3回 失敗はぜんぶおいしい、ウケるから。 2010-12-09-THU
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