養老孟司×池谷裕二 定義=「生きている」

同じ東京大学で解剖学と薬学を追究し、
それぞれ「脳」を研究してきた
養老孟司さんと池谷裕二さん。
おふたりはいつからかつきまといはじめた
ある思いを拭いきれないでいます。
2019年5月15日に「ほぼ日」から発行する絵本
『生きているのはなぜだろう。』を前に話す全14回。
途中で質問をはさむのは、ほぼ日の担当、菅野です。
生きものの定義は‥‥そうです、「生きていること」!

第14回生きているのが定義です。

──「これとこれは同じでしょ」と考えることは、
癖のようになっています。
もしかしたらそれが
悶々とする元凶なのかもしれません。

池谷悶々とするのは人間に共通する性質です。

養老ぼくも若いときから悶々と気になっていた
問題がありますよ。
それは自己言及です。

池谷ほんとうにそうですね。悶々とします。

──自己言及?

養老自分のことについてなにか言うと、
論理的には解けない問題が発生しちゃうということ。

池谷そうなんです。

養老河合隼雄さんが
「私は嘘しか申しません」って言ってましたよ。
わかります?

「私は嘘しか申しません」って、
嘘ですか、
ほんとうですか?

──それは‥‥えーっと、
ああ、わからないですね(笑)。

養老「私は嘘しか申しません」
この言葉が嘘だとしたら、ほんとうのことを言ってる。
ほんとうだとしたら、嘘を言ってる。

池谷否定的自己言及は矛盾を必ずはらみます。
これは数学的にも証明されてるんですよ。
不完全定理といいます。

──これはもう、八方塞がりになってきました。

池谷だから、
数学は完全じゃないということが
証明されています。

養老そうなんです。

──‥‥‥‥‥。

養老論理は怪しいんですよ。

池谷絶対に矛盾が生じる。

──論理的なものに頼ることができないのなら、
救いはなんでしょう? 
やっぱり、感覚を取り戻すことでしょうか。

養老そう。結局はぼくは、
その問題をやってるんですよ。

池谷感覚は別に、
矛盾してもいいわけですからね。

養老矛盾はしょうがないんです。
世界がそうなってるのを
受け取ってるだけなんだから。

池谷基本的に、
目と耳が同じものを認識してると
仮定すること自体、
そもそも矛盾した行為なんですよ。
だから、矛盾してていいんです。
一貫性なんかないんです。

養老人はヘンなんです。
矛盾を受け入れるところから、はじまるんです。

──『生きているのはなぜだろう。』で、
池谷先生は「生きなくちゃ」ということを
おっしゃっています。
矛盾だらけでも、悩んでも、だからこそ‥‥。

養老まずは、生きものは
生きてなきゃしょうがないんですよ。
死んだらおしまいです。

池谷それが生きものの定義ですから。

──生きものは、生きているのが定義。

養老そうですよ。
でなきゃ生きものではありません。
生きて、一生悩んでいいんですよ。
それが人です。

──ビッグバンからつながっている感覚を取り戻して、
いちいちひっかかって生きていくのは、
ちょっとしんどいなぁ‥‥。

養老だからね、体力が必要なんですよ。

──養老先生は何時間ぐらい睡眠を取られるんですか。

養老好きなだけ寝てます。

──運動もなさってるんですよね。

養老いや、虫取りしかしません。
虫取りがいちばんいい運動です。
若い頃、ぼくはあきらかに
山岳部より体が強かったですよ。
山岳部と同じ荷物を背負って虫を取ってましたからね。
山岳部は山登りだけが目的でしょ? 
そんなストレスかけたら
疲れるに決まってるじゃないですか。

池谷(笑)

養老ぼくは虫を追いかけて
あっち行ったり、こっち行ったり。
たのしんで歩いてるから、
ぜんぜんつらくないんです。

池谷合目的性があるんですね。

養老そう。
人生そのものですよ。
たのしんで生きてないと、バテるよ。

──たのしんで生きるには、
どうしたらいいですか。
やりたくないことは、やらないほうがいいんですか。

養老それ、大事ですよ。
でもしょうがないから、ときどきは、やる。

──ときどき、やる(笑)。

養老でも、適当にやめとかないと。
大学もそうですよ。
ぼくは57歳でやめました。
「これ以上大学いると虫いじれねぇよ」
と思ってね。

池谷そうだったんですね。

養老学問のいまのシステムじゃ、
本気でやったら、ヘンになりますよ。

池谷ぼくはいま、
「科学そのものが矛盾に満ちてるなぁ」
ということがすごくおもしろくて、
「自分、なにやってんだかなぁ」
と思いながらやるのがたのしいです。

養老うん、そうだろうなぁ。

──私は今日まで、理系の学問には、
ちゃんと答えが揃ってるんだと思っていました。
それに対して、答えのないものを追求するのが、
文系や芸術のいいところだと思ってたんですが、
答えがないという意味では、
どっちも同じなんですね。

池谷そう。

養老人生、答えなんかありませんよ。

──どうしよう。
‥‥帯、これでもう印刷してしまいました(笑)。

池谷ははは。

養老クエスチョンマーク入れてください。
それか「。」のところに、
みなさんがマジックで、それぞれ
舌を出した顔を描くといい。

池谷アインシュタインね。物理学だ。

──それでは、本を前に、
おふたりで記念撮影を。
長い時間ありがとうございました。
ほんとうにおもしろかったです。
ありがとうございました。

ほぼ日から、『かないくん』以来、
5年ぶりの絵本。
生きているのは
なぜ
だろう。

作 池谷裕二 

東京大学薬学部教授 薬学博士
『進化しすぎた脳』『海馬』

絵 田島光二 

コンセプトアーティスト
『ブレードランナー2049』『ヴェノム』

この本には、答えがあります。

『生きているのはなぜだろう。』を
学校の理科の先生にプレゼントします。

『生きているのはなぜだろう。』は科学の分野から
人が生きている理由を示そうとする本です。
絵本の形をとり、本文はふりがなつきですが、
子どもたちだけに向けた本にはしあがっておりません。
巻末に池谷裕二さんによる
2ページ半の解説もついておりますが、
この内容を理解するためには、雑談やおしゃべりを含めた
大人の助けが必要になることもあろうと思います。

そこで、小・中・高校の理科系の先生がたに、
この本を抽選でさしあげたく思っております。
当選は20名さまです。
ご希望の方は、下記の案内のとおり、
メールでお申し込みください。
当選の方には5月14日までにメールでお知らせします。

※当選した本のお送り先は学校宛とさせていただきます。
※同じ学校の方が重なって応募された場合、
ひとつを当選とさせていただきます。
※メール本文にお名前や住所を書く必要はありません。

メールの件名 生きているのはなぜだろう。理科の先生応募
メールの宛先 present@1101.com
メール本文 学校名
応募締切 2019年5月12日(日)24:00

当選の方にはほぼ日から
住所をおうかがいするメールを差し上げます。
落選のご連絡はいたしません。

『生きているのはなぜだろう。』を
授業で教材として使用したり、
生徒さんとのおしゃべりで
どんな話をしたのかなど、
お聞かせいただければとてもうれしいです。
ご応募お待ちしています。

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