YOKOO LIFE ヨコオライフ

横尾忠則さんは過去の糸井重里との対談で、
「生活と芸術は切り離して考える」と
発言なさっていました。

芸術の達成を、人格や人生の達成とするのは、
勘違いである、と。

では「美術家・横尾忠則」の生活とはなんなのか?
糸井重里とのおしゃべりのなかに、
そのヒントが見えるかもしれません。

過去のふたりの打ち合わせと対話の音声を
いま掘り起こし、探っていきたいと思います。

▶︎横尾忠則さんプロフィール

第16回 筆を追う。
糸井
本は読まなかったかもしれないけど、
横尾さんは、美術史に、
ものすごくくわしいですよね。
横尾
美術史については、東野芳明さんに
言われたことがちょっとあってさ。
ぼくが画家に転向したとき、
メシ食いながら東野さんが
「横尾ちゃん、お前は画家に転向したけど、
画家としては成功しない」
と、いきなり言うわけよ。
「君は、いま世の中で起こってることにしか
興味を持っていない。
いま世の中に起こってることは、
それ以前の過去に、根拠が全部あるんだよ」
と言うわけ。
会うたびに何度も言うんだよ。
「ずらーっと順番に、美術の歴史があって、
いま現在のニューペインティングがあるんだよ。
君はニューペインティングにしか
興味をもたないかもしれないけれども、それだと
そこだけデジタルに切り取ることになる。
これは画家として成功しない」
糸井
ほほぅ。
横尾
ぼくは、それはホントだなと思ったわけ。
それから美術の歴史に興味を持ちだした。
糸井
それは本で勉強したんですか?
横尾
画集。
本というより画集です。
糸井
画集、よぉーく見るんですか?
横尾
画集は見る。
美術論は興味ない。
糸井
横尾さんの絵の解説はものすごくおもしろいですが、
あれは美術論ではないんですね。
横尾
自分で考えたことを言ってるだけだからね。
東野さんの話には続きがあってさ、
ある日、
「横尾ちゃん、それは画家の名前?」
と東野さんが言ってきたわけ。
「ティツィアーノのことですか?」
「なんだ、そのティツィアーノって」
「ティツィアーノって、
ルネッサンスの絵描きさんじゃないですか」
「知らんよ」
糸井
東野さんが。
横尾
また別の日に、
「川端龍子って、あれは男だって知ってた?」
川端タツコだと思ってたんだって。
東野さんは、その時点で、
美術評論家連盟の会長だったんだよ。
糸井
へぇえ。
横尾
「会長が何を言ってるんですか」てなもんだけれども、
東野さんは、専門が、
現代美術のデュシャンと
ジャスパー・ジョーンズだったでしょう?
だからいつも
「自分は勉強しないといかんな」と思ってて、
それをぼくにもやらせようとして、
言ってくれたんじゃないかと思うんです。
糸井
そして、横尾さんはまじめだから、
きちんとやったわけですね。
横尾
うん。
それ、やらないとダメだったよ。
ホントにダメだった。
東野さん、うまいこと説得してくれた。
糸井
よかったですね。
横尾
東野さんのおかげだね。
糸井
だけど、その勉強のしかたが
画集だというのがおもしろいです。
絵を見て自分で画家の考えを組み立てていくのは、
ほんとうに「たどる」ということですもんね。
横尾
そうね。
例えば誰か、評論家が、
ゴッホについて書いたとする。
その人は、ゴッホの周辺に起こった
いろんなことを研究して
書いてるかもわからないけれども、
そんなこと、知っても知らなくてもいいわけですよ。
糸井
そのとおりだ。
横尾
むしろぼくは、ゴッホの生き方に
興味があるわけだから。
ゴーギャンがどう生きたかに興味がある。
それは、その人の絵をじーっと見てればわかる。
いろんなものがわかるじゃないですか。
糸井
描く者同士だということは、すごく大きいですね。
横尾
美術館へ絵を見に行ってもそうで、
何が描いてあるかなんて興味ない。
ぼくが見てるのは、いつも絵の具の表面です。
表面だけを見ています。
糸井
それは、書の先生が、
昔の人の書を見るときに、
頭のなかで筆を追っかけて書くのと
似ていますね。
横尾
あ、それに近い。
ぼくも絵を、頭のなかで描きますよ。
だから、絵を見るとすごく疲れる。
疲れるけどもね、
「ここにキュウリか何か描きゃもっとおもしろいのに」
と、思ったりするわけよ。
糸井
どこで悩んじゃったのかも、
わかっちゃいますよね。
横尾
わかるよね。
結局、それでいいんじゃないかと思う。
その人の人生の背景、
何年に生まれて、親父さんの職業がなんだとか、
そこから解き明かさなくてもいい。
そんなもんどうでもいいわけ。
糸井
横尾さんが、現代の作家についてパーンと、
「ピカソって」と、
友達のように批判することがありますよね。
まるでピカソを、隣にいる人のように扱う。
横尾
そうかなぁ。
ピカソはそら偉大な人で、尊敬してますよ。
糸井
それはそうだけど、
同じ人間として「ここで苦しんだろうな」と、
横尾さんはわかっています。
そこが、読んでてものすごくおもしろいんですよ。
横尾
物知り博士になるんだったら、
学芸員になればいいわけよ。
糸井
横尾さんが、小さいときから
「模写をやってきた」ということが
強く関係していますよね。
横尾
ああ、模写は。
糸井
模写って、見ることでしょう?
(木曜につづきます。次は最終回)
2017-10-09-MON