YOKOO LIFE ヨコオライフ
第10回 生活必需品。
糸井
絵は、ときどき「企業が買う」というケースが
ありますね。
横尾
あれはほとんどが税金対策でしょ。
身を削ってないお金だから、
切実さはないかもわからないね。
あのね、ロサンゼルスに、
フレデリック・R・ワイズマンという、
大コレクターがいるんですよ。死んじゃったけどね。
その人は、結婚したときに、
4つの部屋をロサンゼルスで借りたんです。
どの部屋にも絵がないので、
奥さんとふたりで街へ絵を買いにいくことにした。
絵のことはぜんぜんわかんないから、
どっかの画廊で4点買って帰ったんです。
しかし1週間もしないうちに飽きちゃった。
また次の絵を買いにいって──、
そうしているうちに、気づいたら
大コレクターになっていたんです。
大コレクターになると同時に、
トヨタのディストリビュータにもなっていた。
アメリカのトヨタは、ワイズマンをとおして、
会社を6つも作っちゃうことになった。
糸井
すごいですね。
横尾
その人、ま、ぼくのところへも来たんだけれども、
「あなたのいちばん大きな絵が欲しい」
というんですよ。
絵は見ないんです。
見なくても、いちばん大きいのを買ってくれた。
そこでぼくは
「あなたなんで、こないなったんですか?」
と訊いてみました。
最初は奥さんと絵を買いにいって、
だんだんだんだん興味をもって、
画集も買ったりしているうちに、
美術的な考え方が身について、
自分の商売の世界にも影響しはじめたんだって。
そしたらまわりから、
「ワイズマンの言うことはおもしろい」
ということになっちゃって、なぜか商売のほうも
「あれにまかせておけば大丈夫」
と言われるようになって、
大きな6つの会社の
社長さんや会長さんになっちゃった。
糸井
へぇえ!
横尾
おもしろいよね。
糸井
さきほど、芸術家が
社会と関わりをもたないほうがいいという
話がありましたけれども、
その逆の、社会に生きている人が
芸術に関わりをもつのはいいことなんでしょうね。
横尾
きっとそうだよね。
ぼく、その人の家へ行ったんですよ。
日本の大使館とかアメリカ大使館とか、
あんなものよりもっと大きかった。
家の中に谷があって川が流れてて、すごいんです。
各部屋に絵がありました。
そしてとうとう美術館も作りました。
サンフランシスコの近代美術館の館長をひっこぬいて、
自分のところの美術館の館長にさせちゃった。
そのぐらい、信頼の厚い人だった。
糸井
そうかぁ‥‥、
人を動かせる人だったんですね。
横尾
そうだと思う。
美術の発想が、影響してるんじゃないかな。
糸井
引っこ抜かれた人だって、喜んで来たんでしょうね。
横尾
定年だったかもわからないけどね(笑)。
糸井
横尾さんは、絵を買うとき、
値段を気にしますか?
横尾
まずぼくは、家にお金が
いくらあるから知らないんだよ。
糸井
わははは。
横尾
うちのかみさんしか知らない。
だから、買うものが
800万なのか1千万なのかもわからないうちに
「これが欲しい」と言うの。
お金はかみさんが払うから結局わからない。
糸井
横尾さんは、ずっと
「お小遣いで暮らす人」ですね。
横尾
あんまり使わないからね。
糸井
生活必需品で生きてる感じがしないです。
横尾
いや、そういう絵のたぐいが、
ぼくにとっては生活必需品ですよ。
糸井
ああ、そうかそうか。
横尾
うん。
たとえばぼくが
UFOが好きだったときは、
UFOが生活必需品だったもん。
一同
(笑)
糸井
なるほどね。
横尾
あれがないと困るんです。
糸井
そうなんでしょうね。
横尾
「昨日は見たけど、今日は見てないじゃないか!」
ということになるわけですよ。
糸井
UFOがもっとも身近なものであった、と。
横尾
うん。
いまはもう関心がないから、
UFOが出たって、どうってことないけどね。
まぁ、関心がないから出ないんですよ。
関心があるときに、それが出る。
糸井
ある意味、家族だったんですから。
横尾
あのね、みなさん、
UFOが幻想だとか無意識とか、
ややこしいこと言うけどさ、
そんな教養的な話じゃないんですよ。
本当に出るんですよ。
あんまり、ムキになってやってると、
あれだから……。
糸井
違う次元の話になりますからね。
横尾
そうなんですよ。
(木曜につづきます)
2017-09-25-MON