第7回タルヤ

『あなたの服、いつもそこに
 穴があいてるって思ってた!』
一緒に来ていた カティが笑いながらいう。
『そうなのよ、いつも同じところに穴があいちゃって』

カーディガンの左後ろの襟ぐり。
なんでこんなところに穴が?と思ったら
どうやら毎日首からさげている社員証が原因らしい。
社員証なんて掛けたことがないからわからなかった。

ユヴァスキュラの森に住んでいるというタルヤ。
企業で働きながら 森に暮らすとは
いったいどんな生活なのだろうかと想像する。
やっぱり朝一番に森を散歩してから
出社したりするのだろうか?

大きな木の下を通ったときに
松ぼっくりがコトンと肩に落ちてきたりして。
それともちょっとひっかけた
松葉がくっついてきちゃったり?
それで気がつかないまま会社に行って
涼しい顔をして仕事をしているんだけど
“あ、今日もまた森を散歩してから来たのね”
なんて周りからは思われているんだけど
みんなはその微笑ましい光景を
そのままにしておきたいから
暗黙の了解で 本人にいわない。

なんてことがあったりしないだろうか?
ということで 松ぼっくりと
松葉のような物を編んでいるつもりが
松ぼっくりとモミの葉のような物ができたけど
モミもマツ科だと知り なるほど じゃあいいかと
それらを襟ぐりの穴から生やしてみる。

こんなふざけたことをして…
と怒られやしないかと いつものように
どきどきしながら手渡すと
カーディガンを凝視した後 顔をあげ
『苔ですね…』
と言った 涙目のタルヤに見つめられる。
松よりも苔の方がなんだか素敵な響きだったので
にこにこと笑顔の返事だけしておいた。

2015-03-05-THU

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