第2回 野菜に違いがあるということを     みんな知らなかったりするんです。

諏訪

今日は、
これから農業をやってみたいかたや、
定年後、
農業にたずさわりたいと
思っているかたにも
我々が知っていることや、
考えていることを
お話しできればいいな、と思っています。

これから新たに
農業をはじめていくかたにしてみると、
先祖代々の土地がある人と違って
土地がない、という物理的なこと以外にも
農業を事業としてやっていくには
なかなかむずかしい部分もあると思うんです。

私と糸井さんは、
この1〜2年、永田野菜を中心に、
他の農園も含めて全国のさまざまな農園を
取材して歩いてきました。
そこで思ったのは、
「これからはやっぱり、
 今までと違う野菜を作るとか、
 付加価値のある野菜を作るとか、
 今までと違う流通システムにのせるとか、
 今までと違う言い方をするとか、
 そういう視点がないと
 やっていけないのかもしれないな」
ということでした。

この永田野菜は、
まあ、はっきり言って高いんですよ。
価格競争によって東南アジアとかから、
大根1本何十円とか、
タマネギだって1個10円20円とか
いろんな安い野菜が入ってくるという時代にですよ。
トマトジュース1本何百円とか
永田野菜のタマネギも、
1個、200〜300円しちゃったりするんだけど、
ちゃんと売れちゃう。

今、
みなさんに飲んでいただいたこのトマトジュースは
北海道の余市で、
サクランボ農家だった人が作っているんです。
高級品以外のサクランボが
アメリカンチェリーとの競争で負けそうになって、
どうしようもなくなってきたときに
たまたま永田先生と出会って、
「トマトを作りなさい、
 ここは(トマト作りに)いいところです」
と言われて、半信半疑で作ったんだそうです。

しかも、その農家は、
肥料がいっぱい入ったふかふかの土で
サクランボを作ってたんですけれども
「トマトを作るには痩せた土地がいいんです」
って言われて
先祖代々、やっとの思いで作ってきた肥えた畑を
ぜんぶつぶしちゃったんです。
まわりの人や
「なにやっとんじゃ!」みたいな
父親の反対も押し切って、
できたトマトジュースがこれなんです。
そして、高くても、作れば売れてしまうし、
海外旅行にも行けるぐらい
休みをつくれる生活をしながら、
トマトを作ることができる。
そういったこともあって
このトマトジュースを紹介しました。

これからの世代が新しいものを作るには、
今までにないもの、付加価値があるものを
作っていく必要があるんじゃないかなと
思ってるんですけど。

糸井 うん。
野菜にこんなに違いがあるってことを
家庭菜園をやっている人や
さらには野菜を作ってるプロの人たちが、
知らなかったりするんだよね。
とれたてで新鮮なものがうまいことは
みんな知ってるんですけど。
「新鮮=うまい」という
ひとつの幻想に引っ張られすぎてるんです。

例えば、刺身にする魚は、
とれたてで新鮮だったら、おいしくないですよね。
ちょっとねかせて、アミノ酸が増えていって、
おいしくなります。肉もそうですよね。
農作物でも、例えば、グレープフルーツなんかは、
しばらく日を置いたほうがおいしいです。

「新鮮=うまい」とか
「野菜を安く買うのがかしこい主婦だ」みたいな
人々が信じやすい考え方に
どっぷり浸かっているところに
新しいものをうち出していくことは、
すぐには、成功しづらいんと思うんですよ。

「永田農法」という
おいしく食べものを作る方法がある。
それをどうやって
ビジネスにしていこうかと考える中で
途中経過のように、
ユニクロが永田農法の
野菜を売ろうとしたことがありました。
ぼくはそれをきっかけにして、
永田先生と知り合ったんですけれども、
この事業は、正直言いまして、
うまくいかなかったんですよ。

例えば、この会場にいる人たちは、
いま、諏訪さんが平然と言った
「高いんです」ということの意味を
きちんと受けとめてくださっています。
高いことは良くない、と思ってても。

一同 (笑)
糸井 でも、
ユニクロから野菜を出したときには、
あのフリースショックの、
「15000円かと思ったら3000円だった」
というようなことを
みんなが思い出すわけです。
あの会社がやることだから、
おいしい野菜をすごく安く売るんじゃないか、
というふうに考えるでしょう。
だから、服は安いのに、
野菜はちっとも安くないって、
思われちゃったんです。

ほんとうは高く売らなければ
割に合わないものを
「できるだけ安く」で
価格設定しちゃうもんだから、
会社は儲からない、
お客さんは高くて増えない、
というふうになっていく。
そうしたら、今度は農家のほうに
「もっと安くなりませんか」と
要求することになる。
そんな悪循環がきてしまったんですね。

つまり、
人々のイメージができあがってるところで
仕事したときには、
そのイメージにそぐわなければ
市場では生き残れないってことなんですよ。
人々はユニクロにロールスロイスを
カローラにしてしまうような
イメージを持っていますから。

でも、
付加価値をしっかり考える世代が
農業をはじめるようになると
「このトマトジュースだったら、
 この値段でも買う」と、
ちゃんと受け止める人に売っていくでしょう。
自分が、もし、
農家をやって、
永田農法でおいしいトマトができた!
どこに売りにいこう?
となったときに、売る先は、
トマトの形で選別する、
農協じゃないかもしれない。
何人もが畑をあわせ、
企業体のようなものを
作ったりしながらやっていったりするのかな。

「おいしさという付加価値があっても売れなかった」
「おいしいけど、高い高いって石ぶつけられた」
みたいな話になってしまうのは、
それはヤだなと思っているんです。
おいしい野菜を作ることのまわりにできる
新しいビジネスについても、
並行して考えたり、
作ったりしていくべきじゃないかなと
思ってるんです。

 
(つづきます)
2006-05-03-WED