第3回 「誰、そのネコ?」から「うれるこ」に。

キティちゃんって、1975年に
第1号商品「がま口」が発売されたそうですが
その後、どんな広がりかたをして
今のように
国民的なキャラクターになっていくんですか?

私がキティの3代目デザイナーになったのは
1980年なんですけど、
言ったように、
そのころのキティ、ぜんぜんうれてなくて。

ええ、ビックリしました。

サンリオの中でも、めちゃくちゃ地味な存在。

当時の人気トップは「キキララ」でしたけど
比較なんかできないくらい、
「誰、そのネコ?」みたいな感じでした。

ネコじゃないのに‥‥。

何をしても
「キキララちゃんはかわいいのに、キティは」
と比較され続けました。

ですから、私のいちばんの目標としては
キティを
サンリオでいちばん「うれる」キャラクターに
育て上げることだったんです。

わあ。

そもそも私、キティのことが
たいして好きだったわけでもないので‥‥。

えっ‥‥!?

そうですよ。別にファンじゃなかったし。

だから、このこはどうしてうれないのか、
落ち着いて、客観的に、
お客さまの意見を聞くことができたんです。

でも、どうやって意見を集めたんですか?

当時はマーケティング調査の部署なんて
なかったし、
かと言って、お店に行って
お客さまに話しかけるのも恥ずかしいし。

どうやったら
お客さまとじかに接することができるか
いろいろ考えているときに
レコード屋さんの前で
新人の歌手が歌を歌ってたんです。

ええ、キャンペーンかなんかで。

のぼりを立てて、チラシ配って、歌ってね。
そのときに「これだ!」と思いました。

で、サンリオのフランチャイズの店の前で
キティの絵を描いて、お客さまに
「キティ、よろしくお願いしまーす」って。

ゆうこお姉さん自ら、その場でイラストを?
う、うらやましい‥‥。

イラストをもらってくれたら
しゃべるチャンスが生まれると思ったんです。

まあ、はじめのうちは「別に要らない」って、
見向きもされなかったんですけど。

キティちゃんにも、そんな下積み時代が。

でもそこで、多くの意見を聞くことができました。

もし、私がキティの生みの親だったら
耳が痛くて
とうてい聞けなかったような意見も、いろいろね。

それは、たとえば?

「お洋服がかわいくない」「おしゃれじゃない」
「リボンがワンパターン」‥‥とか。

細かい! でも、それがナマの声でしたか。

そういう厳しい意見をいただいては
私としても「そうだよね」と思った部分を
どんどん修正していったんです。

じゃあ「キティちゃん、ぐいぐいきてる!」
という時期は、それから、どのくらいで?

1983年に、キティが
テディベアを抱いているポーズを出したんです。

その時期、日本には
第1次テディベアブームが来ていたんですけど
「みんなが
 そんなにテディベアのこと好きなんだったら、
 キティも」って
テディベアの人形を抱いているキティを
試しに出してみたんです。

でも、そのときは、
釣りでいうなら「ぴくっ」と動いた程度でした。

びくっと。ええ。

で、翌年の1984年に
サンフランシスコにデザイン室ができたんですが、
私、そこへ赴任になったんですね。

はい。

日本とのやり取りもそんなに頻繁にはなく、
半ば情報の遮断された状態で
1年間、あり余る時間のほとんどすべてを
キティを描くことに費やしたんです。

キティちゃんの1000本ノック時代‥‥。

それで勉強になったことはたくさんありますが、
ひとつ、大きかったのは
テディベアと
クマのぬいぐるみの違いが、わかったこと。

つまり、前の年の1983年に発売したものって、
テディベアというよりも、
単なる、ただのクマみたいな感じだったんです。

なるほど。

そこで、キティちゃんが抱っこしている
「クマのぬいぐるみ」ではなく、
キティのお友だちの「タイニーチャム」という
ひとつのキャラクターとして商品化したら、
日本だけじゃなく
アジアでもアメリカでも、バカうれしちゃって。

へぇー‥‥。

その時点ですね。キティが
「サンリオでいちばんうれるキャラクター」に
のし上がったのは。

それが、キティちゃんのサクセス・ストーリー。

ほんと、うれしかった。あれは、1985年の秋。

本当に、今までで「いちばん」だって言えます。
あのときが、いちばん、うれしかったです。

あの、キティちゃんって、今では
「高崎ダルマ」とかになってたりしますよね。

何だか余裕というか懐の深さ感じるというか、
すごく自由な境地に達してますよね。

そうですね、けっこういろいろやってますが、
キティが「変身」するきっかけも、高校生。

サイン会をやっているときに
「キティちゃん、
 ハチさんになったらかわいいいのにー」って
言った女子高生がいて、
「え、キティがハチ!? 何言ってんのこの子?」
と思ったんだけど、妙に印象に残ったので、
あとで描いてみたんですよ。

黄色いハチの格好をした、キティをね。

ええ。

当時は「黄色は絶対うれない色」って言われていて
タブーだったこともあって、
いきなり商品化はできなかったので
定期的に刊行していた
『キティグッズコレクション』という書籍の表紙に
掲載したら、すごい反響。

「このキティの商品をつくって!」って手紙が、
もう、バンバン、ドッサリ来たんです。

それ以来、変身シリーズが定着したんですか。

ハチどころか、「ガングロ」にもなりました。
ルーズソックス履かせたりして。

では「このキティはあり、このキティはなし」
の境界線って、どのあたりにあるんですか?

やっぱり、キティには
みんなが嫌がることをしてほしくないんです。

たとえば薬物だったり、人を傷つけたり‥‥
そうやって
人を嫌な気持ちにさせてしまうテーマは、
絶対にNGです。

なるほど。

同じような意味で
絶対つくらないと決めている商品も、あります。
キティの場合は、
「ライター、コンドーム、ハードリカー」。

ちいさい子が持ったら危険だったり、
若い子の身体に害があったり、
お母さんに見せられないようなものなんかは
つくらないって決めているんです。

本日、ゆうこお姉さんのお話をうかがって
キティちゃんって、
世相や流行の動きにすごく敏感‥‥というか
ゆうこお姉さんの
「コレじゃまずい!」という危機感が
すごいと思いました。

そうじゃないと、すぐダメになりますから。

私は、ゆうこお姉さんが
「私たちファンが、どう感じるか」を
すごく考えて
キティをつくってくださっているのがわかって
本当に、うれしかったです!

ああ、そうですか(笑)。
でもそれはね、もちろん考えますよね。

今日は本当にありがとうございました。

いえいえ、こちらこそ。

すっごくおもしろくって、感激でした!

<おわります>

2015-02-06-FRI