しりあがり寿 原作・宮藤官九郎 初監督作品
映画『真夜中の弥次さん喜多さん』
〜映画館へ行こうぜベイべー〜
今日の宿(映画の紹介)  

第3回
やさしい人は、つまんなくなれないよ。


 (この座談会は、映画『真夜中の弥次さん喜多さん』
  公開直前の3月某日に行われました。)


宮藤 しりあがりさんが原作の漫画を連載中、
たとえば
『真夜中の弥次さん喜多さん』から
『弥次喜多 in DEEP』
うつったときとか、
映画化の話はあったんですか?
しり
あがり
あ、ありましたよ。
宮藤 今だから言えることなんですけど、
この漫画を映画化したいなんて
なかなか思わないだろうな、
と思うんですよ。
その人、勇気あるなと。
糸井 それ、じぶんのこと?(笑)
いや、「勇気あるなぁ」は
こっちが聞いてみたかったよ?
宮藤 あ、いやいや、えーーっと。
ぼくはもともと小劇場でやっていて、
そこではしりあがりさんの漫画から
影響を受けた、いわゆるナンセンスや
シュール系のものが多かったんです。
だから『弥次喜多』のお話が来たとき
今までどおり
やっていいんだなぁと思ったんです。
それと、だれかがやるくらいなら、
オレがやるぞという気持ちもありまして。
しりあがりさんとはもともと知り合いだし、
もしなにかあっても
「もうこれきりだ!」みたいなことには
なんないだろうなって。
糸井 ケンカにはならなそうだよね。
宮藤 ええ。
場合によっては原作の人から‥‥。
糸井 「なんなんだ、あれは!」
と言われることがあるでしょうね。
宮藤 映画化するということを
すごく期待している
原作者の人がいますよね。
じぶんの作品を
映画化したいと思っている人。
聞くところによると
モメて撮れなくなったとか
公開できなくなったということも
たまにあるらしいんですよね。
ぼくはありがたいことに
今までにそういう経験はないんですけど。
だから、原作もののときは、
原作者の人柄が
いちばんと言っていいくらい
重要なんですよねー。
糸井 (笑)大事ですよねー。
宮藤 はい。しりあがりさんとか、
みうらじゅんさんとか。
糸井 それ、共通のなにか
ヘンなものを感じますね(笑)。
どこが似てるんだろう、
「いい、加減」だってことですかね。
こうでなければならない、
たとえば「花といえば赤なんだ」とか
「にぎりめしの具は梅干しなんだ」
とかさ、そういうことは
言わないでしょうね。
どっちでもいいと思ってますよね。
宮藤 ええ。
必然的になんでしょうけど、
ぼくはだんだんやさしい人とばかり
組むようになってきて(笑)。
糸井 ぷっ。
宮藤 究極ですよね、『弥次喜多』がもう。
しり
あがり
たいせつなことかもしれない。
宮藤 けっこう、もう、
‥‥(しみじみと)モメたくない。
だって、おんなじものつくるんだったら、
人柄のいい人のほうが
いいに決まってますもんね。
しり
あがり
モメていいものつくるより、
モメないで
ちょっとつまんないものを
つくるほうがいいな。
糸井 ‥‥(笑)それ、すきっ。
 
宮藤 そこまで言う!(笑)
ま、ま、わかりますけどね!
ちょっとつまんないものは、
忘れることができますもんね、
モメてなければ。
モメてつまんないものは、
かなりきついですけど。
しり
あがり
モメればぜったいにいいものができる
っていう保証があれば、モメますけど。
糸井 保証、ないもんね。
宮藤 ないですよね。
糸井 あと、本当につまんないものって
つくるのむずかしいですもん。
宮藤 逆にむずかしいですよね。
糸井 アウトになるために
バッターボックスに立てと
言われるようなものですからね。
そんな練習してない。
いちおうショートの頭抜こうとかさ、
ゆるい打球でセカンドの上
通っていこう、とかさ、
そういうこと考えますからね。
宮藤 そうですよね。
長いことやっていれば
一発くらいあてなきゃ、と思いますよね。
糸井 そういう意味では
つまんなくなるってことは、
人柄がよければ、ないよ。たぶん。
宮藤 そうだといいなぁ。
糸井 よっぽどいい気になってね、
人柄のいい人どうしが
酔っぱらっちゃった場合ね、
「さいっこうだ、しりあがりちゃーん」
みたいになっちゃったら。
しり
あがり
「ちゃん」はヤバイですよね!
糸井 うん。「ちゃん」がついて
歌なんかうたっちゃったら、
まずいかもしれない。
でもお二人は
そういう方々じゃないでしょう。
おたがいに「さん」がついてますよね。

‥‥昔はこうじゃなかったんだよな。
一般論として
「ぶつかりあって、議論してこそ!」
みたいなさ。
宮藤 そういうのは
今、変わってきてますよね。
糸井 変わってきてます。
みんなが同じものをおもしろいって
思わなくなったときに
変わるんでしょうね。
宮藤 ああ、なるほど。
糸井 米の飯しかないときには
炊き方にもうるさいけど、
おかずがあったら、
「ご飯、ちょっとやわらかかったけど
 まぁいいか。
 トンカツも食べてね」
って言って食べるよね。
宮藤 「大丈夫大丈夫」って。
糸井 そういう時代にいてよかったね。
オレも間に合ってよかったよ。
昔はやっぱり居心地わるかったんですよ。
宮藤 あ、やっぱりそうなんですか?
しり
あがり
議論になるんですか、その都度。
糸井 やっぱりねぇ、陰であいつは
ただの無茶なやつだ、
みたいに言われてる雰囲気っていうのが
花粉のように飛んでるんですよ。

宮藤

なるほどなぁ。
なんか想像できる気がします。
糸井 ときどきは、ちいさく、
「ぶつとぶつからね!」みたいなことを
言い返しつつ。
宮藤 「ぶつ」って、ちっちゃいですね!(笑)
いやー、つらいですねぇ(声が裏返る)。
ぼくはもう、
放っておかれてる感じでちょうどいいな。
ぼくの周りには
花粉なんて飛んでない感じ。
糸井 そうでしょう。
宮藤 ぼくは、その花粉が
飛ばないようにすることに
エネルギーを使ってるかも
しれないです。
ぼくが映画を撮ったときに、
映画の人からなるべく‥‥。

糸井

「映画の人」!(笑)
宮藤 映画界の花粉をなるべく
花粉を吸い込まないように‥‥。
糸井 マスクして。
宮藤 ええ、花粉症じゃないふりして
息止めてるようなとこはありましたね。
糸井 うちへ帰って
「ハーッハーッ」って息するような。
宮藤 それでなんか、批判めいたことを
わーって言われたら
ぼくなんてダメになるし、
嫌われたくないですもん、やっぱり。

(つづきます)


※この連載は、TBS『NEWS23』、
 TBSラジオ『ザ・チャノミバ』でのトークと
 「ほぼ日」での座談会をまとめたものです。



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今日の宿(映画の紹介):歌の宿(吉原)
『真夜中の弥次さん喜多さん』って、どんな映画?
弥次さんと喜多さんは、ペラペラな江戸を離れ、
お伊勢さまを目指す旅にでます。
このコーナーでは、2人の旅のようすを
毎回ちょっとずつお伝えしますね。
富士山が一望できる茶屋には、
激しく歌いながらお茶を配る
オカマの店主が。
おちん(山口智充)
「♪さーさお茶だよ、
 静岡のお茶ずらよホワホワ」


その娘お幸(清水ゆみ)は歌がドヘタ。
見かねた弥次さん喜多さんは
歌のコーチを買ってでるが、
お幸の存在が2人の絆に危機をもたらす。

(C)2005YAJI×KITA

2005-04-19-TUE

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