第1回 毛の生えた場所。
宮坂 今日はお忙しいところ、
お越しいただいて、ありがとうございます。
糸井 こちらこそ、ありがとうございます。
宮坂 いきなりこういう場所(社員食堂)に来ていただいて
すみません。
糸井 いえ、うれしいです。
こんな場所を作っている会社が
あるということがうれしいし、
今日、スタッフのみなさんが
よろこんでいるのもよくわかります。
会社って、こうなればいいなと思います。
宮坂 ありがとうございます。
ぼくは1986年に大学に入った世代なんですが、
ちょうど広告が盛りあがっている時代でした。
糸井さんが大活躍されていて、
だから今日、お会いできるのが
うれしくてうれしくて。
糸井 いえいえ、こちらこそ。
Yahoo! JAPANですからね、なんたって、
5000人社員がいるというだけでビビります。
5000人に、いっせいに走って押しかけられたら、
からだがつぶれちゃいますよ?
うちは60人ですから。
宮坂 いや‥‥こうして大人数になってくると、
集まれる場所がなくなってきちゃうんです。
ふつう、集まる場所といえば会議室ですが、
それじゃちょっと雰囲気が違います。
「会議室ではない場所」で、
いろんな人が偶然に集まったり
出会ったりするような場所を
ぜひ作ってみたいなと思って、
今回、ここを開設してみたんです。
糸井 ここは社員食堂なのでしょうか。
宮坂 ひらたくいえばそうなります。
でも、社員の招待があれば
社外の方も、夜に利用いただけますし、
いろんなコミュニケーションを通じて
新しい仕事を生み出せる場所だと考えています。
糸井 なるほど。
宮坂 通常の仕事をする
「オフィス(OFFICE)」以外の場所を
ぼくたちは「ベース(BASE)」と
呼んでいるのですが、
ここはそのひとつです。
糸井 ベースというのは、
石巻も、そういう言い方ですね。
宮坂 そうです。
石巻にあるのは「ヤフー石巻復興ベース」です。
ここも「BASE6」と呼びます。
そういう拠点を日本にいくつか作っています。
そこは「人と人が出会って、ダベる」というような
場です。
糸井 昔は、窓際族という言葉がありましたよね。
そういう場所が実際にあったのかどうかは
まぁ、わからないのですが、
いまで言うリストラに近いイメージが
漫画的に「ある」というように伝えられていました。
何もしないで窓際の日なたのところで
新聞読んでる人がいる‥‥そんな漠然とした
イメージがありましたが、
いま、窓際族は、いませんよね?
宮坂 そうですね、窓際はわりといい席ですね。
糸井 そうですよね(笑)。
外資の会社に行くと、だいたい窓際に偉い人がいます。
じゃあ、あの窓際にあたる
「見ないことにしよう」とみんなが思ってた場所は
どこに行ったんでしょうか。
結局、いまの会社は
全部のスペースを追放してしまって、
それはもしかしたら、
トイレになってるんじゃないかな?
宮坂 そうかもしれませんね。
糸井 ヤフーはどうなっているか知りませんが、
「厳しい会社にいる、眠くてしょうがない人」は、
ずっとトイレに入ってるふりをしてるんじゃないかな?
宮坂 弊社でも、たまにやっている者がおります。
会場 (笑)
糸井 そうなっていると思うんです(笑)。
一方で、仮眠所がある会社もありますね。
「仮眠所があっていいね、豊かだね」
と思ったらそれは間違いで、
どうやらあまりいいことではないようです。
「ブラック企業」といわれそうな
労働条件のところのほうが、
仮眠所があったりするんでしょうね。
そうだとすると、働いている人にとって
「どうでもいい場所」はどこなんだろう?
つまり、
「あいつがサボってんのはみえみえなんだけど、
 ま、しょうがないか」
という場所です。

魚を飼っててもそうですけど、
水草や岩を、水槽の中に置きますよね。
何もない水槽だと、
魚はストレスを感じてしまうらしいです。
人間もやっぱり同じだと思う。
「俺が何してるか、おまえら、知らないでくれ」
という、隠れ場所が必要です。
それをヤフーのような、新しい考えをもった、
外から見たらひじょうに合理的な会社が
作ったというのは、とても重要だと思うんです。
つまり、このBASE6のことなんですけど。
宮坂 なるほど、ここが‥‥。
糸井 宮坂さんは、こういう場所を
会社に作ったということで、
つるつるした部分と
毛の生えた部分を
両立させようとしていると思うんです。
宮坂 ここは、毛の生えた空間。
糸井 そう。
宮坂 それ、いいですね。
糸井 うん。いわば、
すね毛とかわき毛みたいな感じかな。
宮坂 わははは。
「なんのためにあるかよくわかんないんだけど、
 ある」
糸井 そうですね。
宮坂 深いです。たしかにそうでしょうね。
そうか、毛かぁ‥‥。
糸井さん、すごいですね。
糸井 いや‥‥あの‥‥ちょっと昔話をするんですけれども、
昔、友だちが「こんな夢を見た」って
言ってきたんです。

それは未来社会の夢でした。
人びとは、モジモジ君みたいなつるつるの
銀色の服を着ていたそうです。
でも、よく見たら、
つるつるのモジモジスーツを着たやつと、
毛の生えたモジモジスーツのやつに
分かれていたらしいんです。
「糸井さんも銀のスーツだったんですけど、
 毛のほうを着てました」
と、そいつは言ってました。
その話を聞いたとき、妙に納得した感がありました。
俺はずっと毛の側でやってきている。
この場所も、そういう「毛」の感じがします。
宮坂 そうですね。毛です。
‥‥ぼくらの会社は外から見ると
つるつるに思われてるんですね。
糸井 ミッドタウンにある本社の
エレベーターに乗ると、
みんな、仕事ができそうな顔をしているでしょう。
会場 (笑)
糸井 誰もそんなことけしかけちゃいないのに、
「おまえには負けない」なんて
思っちゃっているでしょう。
だけど、ここに来ると、逆で、
いっしょに泣いちゃったりすると思う。
宮坂 なるほど。
そういうことを望んで作った、ということもあります。
糸井 会社というものに「毛」のほうの面積が
多くなっちゃったときがゴールというか、
それが、ほんとうのはじまりのような気がします。
(つづきます)
2014-03-25-TUE
はじめから見る 次へ