(3)勝者に優しく、敗者に厳しい日本人。

石川
「どんな目標達成が得意か」って、
国ごとにずいぶん違いがあると思うんです。
たとえば日本人は自動車を作るのが
すごく得意じゃないですか。
これ、自動車の部品の数というのが
10万点ぐらいなんですね。
糸井
ええ。
石川
で、飛行機の部品の数というのは
20~30万点ぐらいなんですけど、
そのくらいになると、
日本人はやや作るのが苦手になってくるんです。
糸井
あ、そうなんだ。
石川
そうなんですよ
そして、もっと爆発的に部品の多い
ロケットとかになると、
日本人には作るのがほぼ不可能になるんです。
そういうのが得意なのは、
アメリカ人のエンジニアなんですね。
彼らは逆に10万点ぐらいの
自動車を作るのは、
あんまり得意じゃないんですけど。
糸井
おもしろいですね。
石川
アメリカ人って、劇的に高い目標に対して
ものすごく力を発揮するんです。
研究への取り組み方も同じで、
アメリカ人の研究者って、
「100歩先のイノベーション」を考えるんです。
突き抜けた高い目標から
逆算して考えていくんです。
糸井
おおもとの考え方自体が違うのかな。
石川
たぶん、そこが理由なんです。
ぼくは以前ハーバード大学に留学してたのですが、
行ってみてつくづく、彼らの発想法が
自分の肌に合わなかったんですよ。
糸井
合わなかったですか。
石川
彼らって、すぐに「change」って言うんです。
なにかというと「change the world」で、
たとえばある政治家が先生の
政治の授業では、
いつも最初にみんなで
「Change the world!」って言ってから
はじめるんですね。
それを聞きながらぼくはいつも
「change、changeって言いすぎじゃないか。
 変わらない美徳もあるんじゃないか」
と思ってたんです。
糸井
ああ。
石川
その後、ぼくはイギリスに行ったんです。
それで感じたのが、
アメリカって、きっと歴史が短いぶん、
現実を疑うというアプローチがしやすいんです。
逆にイギリスは長い歴史があって、
歴史から考えるのが得意な国。
イギリス人研究者たちは、
歴史からのイノベーションが得意なんですね。
「生物はそもそもどう進化したか」とか
「人類は何を考えてきたのか」とかから
考えるんです。
だから、イギリス人たちが言うには、
「アメリカ人はすぐに伝統や文化を壊す」と。
糸井
まったく発想が異なるんだ。
石川
そうなんですよ。
驚いたのが、ヨーロッパの首脳会議のような場所で
イギリス人の話を聞いていたら
「グーグルやフェイスブックのような会社が
 ヨーロッパから生まれないためには
 どうすればいいか」
について話していたんです。
「あんなのが出てきたら伝統が壊れる」
っていうんですね。
聞いていてびっくりして、
この違い、すごいなと思って。
糸井
いや、そこは当然壊れまくりますよね。
果たしてその姿勢はどうなんだろう、と
思わないでもないですけど。
石川
実際に行って、国ごとの得意な発想の違いは
すごく感じました。
‥‥そして、そこからぼくは
「日本が得意なイノベーションって
 どんなものだろう?」
と思ったんですね。
糸井
興味あります。
石川
人々の研究の仕方を見ると、
日本ってどうも、
「半歩ずつの徹底的なイノベーション」が
すごく得意な国だと思うんですね。
たとえば日本って外国から
「クリーンでヘルスな国」と言われてるんです。
ものすごくきれいで、健康な国。
だけど、戦後直後までの日本って
ものすごく汚かったんですよ。
ハエも、ネズミも、すごく多くて。
糸井
わかります。
ハエ取り紙があちこちにあって。
石川
でも戦後、GHQがDDTを散布して、
あらゆる場所を徹底的に殺菌したんです。
すると、日本はそこからの
半歩ずつのイノベーションがすごかったんです。
たとえば、おしぼりとか紙ナプキンって
あるじゃないですか。
あれは世界にほこる日本の大発明で、
外国人たちも大好きなんですよ。
「こんないいもの、
 どうしてうちの国にないんだ」って
よく言うんです。
そんなふうに、日本人は
自分で新しく枠組みを作るのは苦手だけど、
なにかで枠組みができてしまえば、
半歩ずつ徹底的に突き詰めていく。
そういうのがすごく得意な国だと思うんです。
糸井
仏教もそうですよね。
もともと大陸からきたものだけど、
大仏も作るし、独自の文化に育てあげたわけで。
建築もそうですね。
石川
あと、昔から言われている日本人の特徴に
「オリエンタル・マインド」
というのがあるんです。
糸井
オリエンタル・マインド。
どういったものでしょう、それは。
石川
これはイギリスが発見したんですが、
イギリスという国はもう数百年間にわたって、
世界中の国を統治しているから、
「国を経営するとはどういうことか」を
よくわかってるんですね。
イギリス系企業っていまも世界各国で強くて、
たとえば生活用品を販売する
イギリス系の「ユニリーバ」という会社は
インドで強いんです。
でも、似たようなアメリカ系の「P&G」は
ぜんぜんインドに入り込めてないんですよ。
糸井
へえー。そうなんだ。
石川
そういうこともあって、
GHQが日本を統治するときに
意見を聞いたのがイギリスなんです。
そのときイギリスが言ったのが
「日本はオリエンタル・マインドの国だぞ」と。
どういうことかというと
「日本の人々は、勝っているものは
 すごく評価するけれど、
 勝ってないと思うと見向きもしない。
 だから自分たちが勝者側にいると見せ続けろ」と。
糸井
ああー。
石川
だからマッカーサーは、
アメリカが日本に勝っていることを
示し続けるために、
天皇陛下と総理大臣としか会わなかったんです。
位の低い人と会うこと自体、
ちょっと負けてることを意味しますから。
糸井
マッカーサー自体、背が高くて、
ずいぶん強そうに見えますし。
石川
そこもたぶん、考えられてたかも
しれないですよね。
そんなふうに日本人は
「いま勝ってる枠組み」にすごく敏感なんです。
逆に、負けてる人にはすごく厳しい。
糸井
負けていると思うと
相手に「この場所から消えろ」ってくらい
厳しい態度であたることもありますよね。
石川
そう、日本は歴史上、この
「負けたものは見捨て、
 勝ってるのをパッと見つけて突き詰める」
というのを、ずっとやってきてるんです。
それでぼくはこの姿勢って、
もちろん良し悪しはありますけど、
むしろ、日本の資産じゃないかと思ってて。
糸井
文化資産?
石川
ええ、文化資産かなと。
そういう考え方の特徴を持った国。
人に限らず、商品でも
「これがいける」と思うと
徹底的に突き詰めますから。
糸井
それがおしぼりや紙ナプキンを
生んだわけですもんね。
石川
そうなんです。
だからよく日本のマスコミが、
わっと持ち上げておきながら、
なにかあると簡単に
ポーンと落とすじゃないですか。
あれはもう、いいんだと思うんです。
それが日本人の長所にもなっている部分ですから。
糸井
そういえば芸能でも、AKBについて
みんな、最初はすごく否定的に語ってましたよね。
「あんなものはダメだ」という声が
ずいぶんあった気がします。
でも、露出が増えて
テレビにもどんどん出るようになると、
みんなが一気に認めはじめましたよね。
石川
たしかにそうですよね。
AKBはたしかに。
糸井
だから、日本人相手のマーケティングって
最初の我慢が大事かもしれないですね。
伸び盛りのとき、周りからのあたりは
どうしてもきついものだから、
そのときに「何があっても大丈夫」と
信じるのが大事というか。
石川
勝った瞬間のみんなの
手のひらの返し方ってすごいですもんね。
そこを信じて進んだほうがいい。
糸井
でも、日本人っていちど批判されると
完全に負けてなくても引くことが、
あるじゃないですか。
「いいよ、そんなに言われるなら」って。
だけど、みんなが叩くのは
芽があるからだから、
「叩かれるってことは芽があるんだな」
と思い込んで、進んだほうが
いいのかもしれないですね。
‥‥もちろん、そこに絶対に芽があるとは
言い切れないですけど。
石川
とりあえず日本は
「勝てば官軍、負ければ賊軍」
の国なんですよね。
糸井
あと、日本だと
「これだけ勝ってるということは、
 何かあるんでしょう」
という考え方もよくされますよね。
ぼく自身の中にもあるんですけど。
そして、
「いろんなことがあったかもしれないけど、
 それは並大抵じゃできないからな」
って認め方もありますね。
石川
あ、その考え方、ありますね。
糸井
だから日本人は、
敵側にいる人に対してもわりと
「大したもんなんじゃないの」という
発想がある。
だから日本人は敵の総大将に対しても
わりと評価するというか。
石川
「敵ながらあっぱれ」もありますし。
糸井
そう。あの「敵ながらあっぱれ」って気持ちは、
すごく世の中をおもしろくしている気がします。
石川
そうですね、そこはほんとに。
日本人だけが持ち得る
独特の感性かもしれないと思います。
糸井
アジア以外の国は、だいたい征服したときに、
前の文化を根絶やしにするじゃないですか。
でも、アジア型はあったものを
「活かす」んですよね。
江戸城が皇居だったりとか。
将棋の駒の考え方と同じで、
「自分のものになったらこっち側」みたいな。
石川
そうですね。
「活かす」発想、あると思います。

(つづきます)

2015-08-26-WED

石川善樹さんの本
最後のダイエット

『最後のダイエット』
石川善樹 著
マガジンハウス 1300円+税

石川善樹さんが書いた、
地に足がついたダイエットの本。
ただ痩せて終わりではなく、
「目標体重に達したあと、
 体型を維持するための
 ちいさな習慣がつくこと」
までをダイエットととらえ、
その考え方と方法を紹介しています。
派手な痩せ方のダイエット本では
ありませんが、
石川さんが数学者のかたと
長い計算式を解いて解明した
着実に体重が減る理論
(どうすればどれだけ痩せるのか)
が元になっているため、
着実に、そして健康的に
痩せる方法を知ることができます。