ほぼ日刊イトイ新聞
その4 HAND ROOM WOMEN'S 世代の違う3人がつくった、女性のためのトラッドウェア。

板倉直子さんの名前、
「わぁ、知ってますよ!」
というかた、きっと多いと思います。
板倉さんは、島根県松江市で
「Daja(ダジャ)」という
セレクトショップを営んでいます。
ファッション・ディレクター。
ことしで30年(!)になるお店では、
国内外から40ほどのブランドを扱い、
地元のみならず、「Dajaに行くために、松江へ」
というお客様もすくなくありません。
笑顔にあふれ元気いっぱいで、
年を重ねても格好よくありたい大人たちに、
シンプルで気取らず、けれども
「さすが!」と思われるような服を、
板倉さんは提案しています。

今回「白いシャツをめぐる旅。2019」で
紹介する「HAND ROOM WOMEN’S」
(ハンド ルーム ウィメンズ)は、
じつは、もともとメンズの
「HAND ROOM」からうまれたブランドです。
「長年、共に服作りをしてきた
日本各地の優秀な工場と優れた職人の技術を活かし、
厳選した最上質な素材を使って、
洗練されたモダンで着心地の良い
パターンメイキングを駆使し、
最上級の縫製技術を持つ工場で、
丁寧に仕上げたデイリーウエアー」
というのが、コンセプト。
そこにレディスのラインをつくろう!
ということになり、
長年の仕事仲間である板倉さんが
ディレクション担当として招かれたのでした。

板倉さんが入社した30年前のDajaは、
前オーナーの趣味で、
アメリカからのインポートものと
古着が半々、というラインナップだったそう。
それ以前にも、大阪でヴィンテージの
古着のお店で働いたこともある板倉さんは、
その雰囲気にもすんなりとけこむとともに、だんだんと
「じぶんの好きなものも紹介していこう」と、
バイイングにも参加するようになりました。
時代は、アメリカンから、フレンチへ。
雑誌でいえば『Olive』が一世を風靡していた頃でした。

そのころ知りあったのが、
HAND ROOMを立ち上げたひとりである
藤澤緑朗さんでした。
藤澤さんは、ふるくから服づくりをしながら
インポートものを扱っていたこともあり、
当時の板倉さんにとって年長の友人、
良き相談相手でもあり、
また取引先でもあり「師」でもあるという間柄でした。

「じつは、私がはじめて買った
白いボタンダウンシャツは、
藤澤さんのデザインだったんです。
それからです、私がシャツにめざめたのは!」
(板倉さん)

途中、藤澤さんから他のかたに担当が替わり、
十数年のブランクもあったそうですが、
ずっと、ファッション業界のなかでつながっていたふたり。
「自分たちが、あたらしくスタートするブランド
HAND ROOMの展示会をするから見に来て、って、
藤澤さんから連絡があったのが、
いまから3年ほど前のことでした。
Dajaではメンズはそんなに多く発注できないけれど、
ほかならぬ藤澤さんのブランドだから
見に行きますって出かけたんです。
そして服を見て、ああ、やっぱりいいものを
つくられてるなぁ‥‥と思って。
でも悔しいけどメンズ。
Dajaが欲しかったのはやっぱりレディスでしたから」
(板倉さん)

「それでぼくらから、板倉さんに、
じゃあレディスの別注をしてみない? と
誘ってみたんですよ(藤澤さん)

HAND ROOMには、岡田安彦さんという
メンズ畑では手練れの
優秀なパタンナーが参加していました。
彼に、板倉さんのディレクションで、
レディスのシャツのパターンをひいてもらい、製品化。
そうして別注品番がひと型、ふた型と増えていくなかで、
「いっそ、板倉さんのディレクションで、
レディスラインをつくってしまおう!」
と、なったのだそうです。
2017年の秋のことでした。

「ぼくは、ずっとメンズのパタンナーでしたから、
レディスは難しいと思ったんです」と岡田さん。

「でもね、私はここHAND ROOMで、
工場も含めてすべて
メンズの生産背景のところで
Dajaに置く女性に向けての服がつくりたかったんです。
40代の岡田さんの男性の気持ちが入り、
60代の藤澤さんのモノを見る気持ちが入り、
私は50代の女性の視点と30年の店のキャリアから、
『欲しいもの』を提案する。
それがきっと、よかったんだと思います」(板倉さん)

ちょうど10歳ずつ年齢もキャリアもちがう
3人が組んだからこそ、の
あたらしいレディスライン
「HAND ROOM WOMEN'S」が
生まれたのでした。

「ただメンズライクなシャツを提案して、
男っぽくしたいわけでは決してないんですよ。
たとえばシャツの胸元のボタンが美しく開けられたりとか、
ちょっと袖をまくって、手首できれいな女性らしさを
出したりとか、そういうふうにしたかった。
形が最初から女性的だと、
女性らし“すぎて”しまうんですね」(板倉さん)

「私が理想とするシャツの着方は、
メンズっぽい要素が絶対的に必要で、
そんなディテールが入ることによって
若々しさが表現できたりする。
そして白い色は、何といってもレフ板効果のように
顔色をパット明るく見せてくれる。
若々しさと明るさ、そして清潔感。
それが白いシャツの魅力だと思うんです」

クルタシャツをつくりました。

そうして「HAND ROOM WOMEN'S」の3人で
つくったロング丈のクルタシャツ。
まず生地には「落ち感」を求めました。

「藤澤さんが提案してくださった生地が、
着たときにストンと落ちる感じがよかったんです。
サラッとドライな感触、上品な透け感としなやかさで、
きれいなドレープが生まれる。
ゆったりしているのに、着てみるとスラッと見えるのは、
この上質な生地のおかげです」(板倉さん)

藤澤さんがさらに詳しく解説をしてくださいました。

「これはね、さわやかなリネンのようなタッチの、
細番手のローン生地です。
エジプト綿を少し強めに撚り、
いわゆる強撚糸に仕上げ、縦横の密度を変え、
夏に向けてドライタッチになるようにしています。
風が抜けていくような生地なんですよ」

デザインコンセプトについては、板倉さん。

「私、紅茶が好きすぎて、
昨年、インドのダージリンに行ってきたんですけれど、
インドの人たちの洋服がとても素敵で、
旅の途中、街を歩く人の服に。
目が釘づけになったんですよ。
クルタシャツという、
インドの男性が普段着ているものが特に印象に残りました。
暑い日でも涼しそうだし、かっこいいし。
それで、インドから戻ってきてすぐに、
『クルタシャツがつくりたい!』って。
でもそのままじゃなくて、
HAND ROOM WOMEN'Sらしさを出したい。
それで藤澤さんに生地を探してもらい、
この薄いけれどもハリのあるローン地を選びました。
透明感があって上品でしょう?
そして形は、岡田さんに託しました」

岡田さんは、オリジナルのクルタシャツを参考にしながら、
パターンを考えます。

「向こうの製品だと土産的な感覚のものも多く、
縫製はちょっと荒かったりするんですね。
そこをアップデートし、
日常的に着られる丈夫なものを目指しました。
たとえばアームホールは、ステッチを入れていません。
あまりステッチ入れるとパッカリングっていって、
ギザギザしちゃうんで、あえて袋縫いにして、
縫いしろも隠すように仕上げました」

すごいディテール!

「さらにクルタシャツらしい特徴は、
深めのスリットですね。
後ろ身ごろがすこし長く、
脇ポケットを左右につけています。
このポケット、じつは工夫をしていて、
シャツのガゼットみたいにスリットを隠します」 (岡田さん)

なるほど、だから深いスリットでも、
セクシーになりすぎないんだ。
しかも、このポケット、まっすぐ直角についています。

「横向きではなく直角につけたのは、
一般的なクルタシャツの仕様なんです、
直角の向きだと、ほかの人に手を入れられにくい、
つまり、盗難防止になっているんですって」(板倉さん)

わあ、おもしろい!
袖は太めですね。

「袖は、あえてゆったりとさせてあります。
風が抜けやすく、とても涼しい着心地です。
カフスがないデザインで、
このまま着ても素敵ですし。
太めなので、ロールアップもしやすいですよ」
(板倉さん)

ちなみに後ろは、短めのヨークと、
ボックスプリーツの仕様になっています。
これはとてもメンズシャツっぽい仕様です。

透け感はどうですか?

「あえて透け感を楽しんでいただきたいですね。
夏だったらキャミソールじゃなくて
白いタンクトップを着てほしいな。
キャミソールはちょっと色っぽさが出ちゃう。
これ一枚でパンツを合わせたらとても素敵ですし、
サファリジャケットなどのアウターを
合わせてもかっこいいですよ」(板倉さん)

そして今回、白いシャツだけじゃなく、
黒いシャツ(!)もつくりました。
この黒が、あまりピカピカしていない、
濃いグレーにも見えるきれいな黒です。
暑苦しくなく、涼しく見える黒です。
このインタビューの日、板倉さんが着ているのが
まさしくこの黒。
ボタンをふたつ開け、
黒いパンツと合わせるというシンプルな着こなしでした。

「ボタンを全部留めても素敵ですよ。
大ぶりで、個性的なアクセサリーも映えると思います」
(板倉さん)

ふたりのヘップバーン。

HAND ROOM WOMEN'Sからは、もう1枚。
エジプトコーマの160双のブロードを使った、
襟なしのスタンドカラーシャツです。
細い糸で高密度に織りあげられた生地は、
コットン素材なのに、まるでシルクのようななめらかさ。

「このスタンドカラーシャのイメージソースは、
オードリーとキャサリン、
ふたりのヘップバーンです」

と板倉さん。
シャツを清楚に着る、
かわいらしくも凛としたオードリーと、
メンズライクなかっこよさのなかにも、
エレガンスを感じるキャサリン、
ふたりのヘップバーンのどちらもが似合いそうなシャツ、
というコンセプトです。

「台襟のあるスタンドカラーは、
エレガントとカジュアルの両方の良さをあわせ持ちます。
このシャツに合わせるものは、
洗いざらしのチノパンツやジーパン、
きれいなパンツでもいいし、スカートでもいい。
どんなボトムスに合わせても上品に着られるシャツです」
(板倉さん)

パターンの岡田さんが気を配ったのは、
ボタンの位置だそう。
第1ボタンまですべて留めて着ても苦しくありません。
さらに板倉さんが第2ボタンから第3ボタンまで
深めに開けて切るのが好きということで、
ふたつ開けたときの見え方を、ミリ単位で調整。
開けてもセクシーになりすぎない幅になっています。
しかも、第1ボタンを外したときに、
ボタンを留める糸が見えないようになっていますが、
これは開けて着ることを想定して、
わざわざ手つけをしてもらっています。

もちろんボタンは「根巻き」でしっかりと。
穴かがりも、通常のシャツのものではなく、
ほつれにくいように刺繍機で細い糸を使い、
ぐるりと一周縫う仕様に。
合わせは前立てがありますが、
1枚を折り返してつくるという凝りよう。
しっかりとステッチワークが効いて、
よりメンズライクな仕様です。
ああ、なにからなにまで細かく考え抜かれています。

「見えないところまで、ここまで仕様に心を砕いたのは、
日常着として毎日のように着ても、
ストレスが少ない服にしたかったから」(藤澤さん)

「5年、10年、着て欲しいですもんね」(岡田さん)

この考え方は、HAND ROOM、
そしてHAND ROOM WOMEN'S全体に
通底していることなんですって。
3人のプロが集まってつくったブランド、
ディテールがすさまじいです。

「性別も世代も違い、趣味趣向も異なる、
ある意味、まったく噛みあわない3人だから、
面白いのかもしれないですね。
それぞれが主張をきっちりして、
それを全部盛り込んで(笑)」(板倉さん)

「ほぼ日」では初登場となる
HAND ROOM WOMEN'Sのシャツ。
どうぞ、よろしくおねがいします。

(次回は「SCYE(サイ)」のシャツを紹介します。)

2019-03-31-SUN

INFORMATION

「ほぼ日ストア」ページで
ことしのコレクションを紹介するのが4/12(金)、
「ほぼ日ストア」と伊勢丹新宿店、
三越伊勢丹オンラインストアでの販売スタートは
4/24(水)からとなります。

また、ことしはジェイアール京都伊勢丹でも
販売を予定されています。
くわしくは、各店舗にお問い合わせください。

どうぞおたのしみに!

■ほぼ日ストア 「白いシャツをめぐる旅。」
2019年4月24日(水)午前11時より数量限定販売

■三越伊勢丹キャラバン
 「白いシャツをめぐる旅。-見惚れシャツ―」

・2019年4月24日(水)-4月30日(火)
 伊勢丹新宿店本館4階=センターパーク/ザ・ステージ#4

・2019年4月24日(水)-5月21日(火)
 三越伊勢丹オンラインストア

・2019年5月8日(水)-5月21日(火)
 ジェイアール京都伊勢丹 5階=スタンダード&モダン SPOT

■伊勢丹新宿店本館4階=センターパーク/ザ・ステージ#4では、
ほぼ日ストアでのラインナップと合わせて、
さまざまな「白シャツ」をご紹介します。
白シャツと合わせるチノパンや、カットソー、
肌着、バッグ、アクセサリーをはじめ、
「自分だけの特別な一枚」に出会えるシャツの
カスタムオーダー会も実施いたします。

※くわしくは、こちらをごらんください

・BRAND
※一部、お取扱いのない店舗がございます。

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