ほぼ日刊イトイ新聞

この旅も、ことしで4年目。
「ほぼ日」と伊勢丹のみなさん、
シャツメーカーのHITOYOSHIのみなさん、
そして、白いシャツをつくっている
いろいろなブランドのかたがたといっしょに、
「いま、着たいシャツ」を探します。
ことしの取材を通して、
「いいシャツを買うってどういうことだろう」
「ながく着るってどんな意味があるんだろう」
そんなテーマにも、
すこしだけ触れられたような気がします。
また「なんとなく似合わないな」を解決する、
いいヒントも教わってきましたよ。
10回の連載、たっぷりおたのしみください!

その5
後ろ姿までうつくしい、Scye。

鍛錬されたパターン技術と縫製の美しさ。
ことし創立18年となるファッションブランド
「Scye」(サイ)のシャツが、
「白いシャツをめぐる旅。」に登場です。

「Scye」は、デザイナーの日高久代さんと
パタンナーの宮原秀晃さんによるチーム。
ブランド名の由来は袖ぐりや鎌という意味の
テーラー用語からだそうです。

人間の身体の構造や動き方に則し、
独自のパターンやカッティングをほどこし、
吟味された素材を使う「Scye」の服。
感覚的で表層的なデザインを優先させるのではなく
どんな細部のつくりにも
「理由がある」ことを大事にしている服づくりです。
そもそも洋服の基本を学ぶのに、
英国のエドワード王朝時代(20世紀初頭)の裁断書を
研究したこともあるのだという徹底ぶりで、
結果、できあがる「Scye」の服は、
着心地よく、動きやすいのですけれど、
だからといって実用だけに則したような堅苦しさはなく、
むしろ私たちの目にはシンプルに
「うつくしさ」として映えます。
ハンガーにかけているときよりも、
着たときのほうが、さらにうつくしい。
そして鏡にうつして前から見たときだけでなく、
その人が自分では見ることができない
「後ろ姿」までうつくしい服です。

「ほぼ日」のまわりにも「Scye」のファンは多く、
あのひとも、えっ、あのひとも?
と、じつは人気の高いブランドでした。
シンプルなものほど、
きちんと丁寧に美しいものであってほしい、という
いわゆる「洋服好き」なファンが多いようです。

今回、ざんねんながらおふたりにお目にかかる
機会はかないませんでしたが、
仕入れることになった白いシャツ(タックブラウス)と
チノパンを紹介します。

こまやかな手作業がいかされたシャツ。

白いシャツは「Scye」でリリースしてから
なんと10年以上が経過しているという定番のひとつ。
リピーターも多いアイテムです。
高密度に織ったリネンを使い、
キャップショルダーの切り替え位置から
等間隔に取ったタックで、
身頃のボリュームあるシルエットが形づくられています。
なんと手作業でおよそ160本のタックをつまんでいるという、
手間のかかる工程を経てつくられています。
ですから、シャツ1枚で着用しても
じゅうぶんな存在感が。
また、ケアのしやすい点も魅力です。

そして、チノパン。
2タックで、渡り幅が太く、
裾にかけてテーパードしたパンツです。
オリジナルのジャカードマーベルト
(ウエストの裏側部分のパーツ)もポイント。
「Scye」のなかの「SCYEBASICS」という、
ベーシックなアイテムで人気が高いラインの製品です。
「ミリタリーやワークウエア由来の
オーセンティックなアイテムに
インスパイアされることが多い」
という日高さんですが、
それを忠実に再現するということではなく、
その感覚を踏襲しつつ、
「その時々でベストと思える分量やバランスを模索する」
といいます。

イメージする色、テクスチャー、風合いなどを求めて、
しばしば原料から指定して生地つくる「Scye」。
このチノクロスは、
経(たて)糸にサンホアキン綿、
緯(よこ)糸にムラ糸を使って織っています。
サンホアキン綿は、
カリフォルニアのサンホアキン渓谷で採れた
綿花を紡績したもので
肥沃な土地と清冽な空気の中で育った、
米綿の中でも最も品質の高い高級綿のひとつです。
そしてチノクロスの畝感を表情豊かにするために
緯糸に使った「ムラ糸」は、
ナチュラルなアフリカのジンバブエコットン。
そのふたつの糸の組み合わせで、
上質な風合いとラフな表情を併せ持った
面白いバランスのチノパンができあがりました。

次回は成田加世子さんのAtaraxiaのシャツやパンツ、
スカートについておとどけします。

2018-05-16-WED