ほぼ日刊イトイ新聞

この旅も、ことしで4年目。
「ほぼ日」と伊勢丹のみなさん、
シャツメーカーのHITOYOSHIのみなさん、
そして、白いシャツをつくっている
いろいろなブランドのかたがたといっしょに、
「いま、着たいシャツ」を探します。
ことしの取材を通して、
「いいシャツを買うってどういうことだろう」
「ながく着るってどんな意味があるんだろう」
そんなテーマにも、
すこしだけ触れられたような気がします。
また「なんとなく似合わないな」を解決する、
いいヒントも教わってきましたよ。
10回の連載、たっぷりおたのしみください!

その4
6型のシャツからスタートした、
MADISONBLUE。

2年前、「白いシャツをめぐる旅。」の回で、
このMADISONBLUE(マディソンブルー)の
シャツを勧められたことがありました。

かっこよかったのです、とても。
でも「かっこよすぎるかな?」とも。
「ちがう自分になったみたい」と、
試着をしたものは言いましたっけ。
このシャツは、じぶんたちには、
まだ、背伸びをしているようだね、と、
「ほぼ日」で扱うのは見送ったのでした。

でもずっと気になるブランドでした。
どんな来歴のブランドなのかも知らずにいたのですが、
ショップ&アトリエにお邪魔したとき、
ルック(そのシーズンのアイテムを
モデルさんに着てもらった着用写真)が
飾ってあったのを見て、なるほど! と。
それはいわゆるモデルさんが闊歩する
「ランウェイ」的なものではなく、
じぶんのライフスタイルを大切にするふつうの女性が
自由に服を着ている。そんな印象でした。

▲モデルをつとめたのはミュージシャンのMonday満ちるさん。

▲そしてこちらは、フリーランスのライターさんなのだそう!

そっか、MADISONBLUEが提案したいのは
こういうスタイルなんだなあと思ったのでした。

MADISONBLUEをつくったのは、
中山まりこさんという、
本職はスタイリストの女性です。
スタイリングという仕事は、
雑誌などのメディアからオファーをうけ、
そのイメージに合う服やアクセサリーを集め、
着せるという仕事。
中山さんは人気のスタイリストでしたが、
じっさいにその作品を目にする人、
たとえば雑誌の愛読者のかたと、
直接仕事をするわけではありません。

「20年以上、その仕事を続けてきて、
最終的には自分が打ったサーブが直接届く、
そんな仕事をしてみたいと考えたんです」

中山さんはブランドを立ち上げたときのことを
そんなふうにふりかえります。
2014年のことでした。

「私は1964年生まれで、当時の子供服は
ちょうちん袖のブラウスと
吊りが付いたスカートでした。
そんな私から見ると、シャツを着ている女性は
とてもカッコいい、大人の存在でした。
服に対するあこがれ、原点がシャツなんです」

ブランドを立ち上げた頃は、
ファストファッションが
勢いを伸ばしていた時期でもありました。

「それを見ていて、ワンシーズンで捨てられてしまう、
すぐに飽きられてしまうアイテムではなく、
自分の物語のなかにきちんと落とし込める服、
長く愛用していただける服をつくりたいと思いました。
ファストファッションは、自分が着てきた
洋服の文化とは違うものだったんです。
私にとって洋服は長く着るものです。
だからまず、自分が着たいものを
きちんとつくろうと思いました」

中山さんは、あつらえの子供服から、
アメリカの古着文化、デザイナーズブランド、
アイビーやプレッピー、モードやハイファッション、
民族衣裳のようなものを着ることまで、
ほんとうにいろんな経験をしてきました。

「でもね、40代後半にもなると、
古着屋さんには合うサイズが見つからないし、
それをちょっと自分でリメイクしても、
ちょっと違うと思うようになるんです。
オックスフォードボタンダウンシャツだって、
大好きですけれど、
全部をアイビールックにしたいわけではなく、
モードと合わせてもいい。
いっそウエストをシェイプしたり、
袖を七分にしたり、バランスを変えてもいい。
そんなふうに自分の経験をもとにしてつくることができる
いちばん強い商品はなんだろうと考えると、
やっぱり『シャツ』だったんですよ。
自分が持っている経験を洋服に落とし込んで、
それをお客さまと共有できたら、
人生、すごく楽しいなって思ったんです」

その後、スタイリストならではの感覚で、
「このシャツにはこういうデニム」
「こんなGジャン」
「冬ならニットが着たいよね」と、
スタイリングを軸にしてアイテムを増やし、
いまは1シーズン150から200の型を展開する
大きなブランドに成長しました。

今回「白いシャツをめぐる旅。」であつかうのは、
MADISONBLUEではデビューのときから
定番になっているシャツです。
名前を「ハンプトンシャツ」と言います。
ニューヨークに3年ほど暮らしたことがある中山さんは、
マディソン・アヴェニューという地名からブランド名を、
ニューヨーカーが行く避暑地で
別荘地にもなっている静かな海岸地域の名前を
このシャツにつけました。

▲MADISONBLUE ハンプトンシャツ。

このかたち、いわゆる「ワークシャツ」が原型です。

「さきほどお話しした、
大人の女性の着るシャツへのあこがれとともに、
私たちは古着文化を経ています。
アメリカンワークシャツにリーバイスの501、
そんなスタイルに慣れ親しんできました」

ハンプトンシャツは、
中山さんが大好きなワークシャツを
いまつくったらどうなるだろうという
解釈のひとつなんですね。

シャツを着たことがない、という人たち。

「ブランドを立ち上げると、バイヤーのかたがたが
買い付けにきてくださるでしょう?
おどろいたんです、だって、30代くらいでも
『シャツを着たことがない』というかたが
いらっしゃったんですから」

カジュアル文化で育った世代のなかには、
服はらくちんなカットソーが主流で、
布帛のものはきゅうくつに感じるから着ない、
という人がいるのだそうです。

「よし、シャツを着てシャキッとする、
あの感覚を、伝えなくちゃ! って。
自分が10代の当時、
パリジェンヌも好きだったけど
アメリカンガールも大好きでした。
そのときは501と合わせて
ボーイッシュに着ていたんですけど、
今は、あえてワークシャツを
レディライクに着てほしいなというのが
私の願いなんです。
マニッシュなアイテムですけれど、
洗っていくとふんわりと、
でも表面はザラザラっていうあの感じは、
女性が着たときに色っぽく見えます。
シルクのシャツを着ている女性より、
私はこういうシャツを
ガンガンに洗って着ることをおすすめしたいな。
もちろんデニムを合わせてもらってもいいし、
ざっと羽織ってもらってもいいんですけれどね。
あとは、袖を折って手首の細い線を出すと、
ワークシャツの大きい感じとの対比で、
女性的な部分が強調されますね。
大きめの男性用の時計をつけてもいいですよね。
つくった当初は、ボタンを外して
衿を抜いて着る提案だったんですけど、
最近、私、もう全部留めて、衿を立てて着ています。
衿を立てたとき、パールのピアスをつけると、
もうすっごい素敵だなって思うんです。
色っぽいでしょう?
それが私の提案する女性像なんです」

中山さんのつくる服は、
世代を超えて、とても多くのかたに愛されています。
「白いシャツをめぐる旅。」で
中山さんの世界がちょっとだけでも紹介できること、
とても光栄です。

次回は「SCYE」のご紹介です。

2018-05-15-TUE