ほぼ日刊イトイ新聞

この旅も、ことしで4年目。
「ほぼ日」と伊勢丹のみなさん、
シャツメーカーのHITOYOSHIのみなさん、
そして、白いシャツをつくっている
いろいろなブランドのかたがたといっしょに、
「いま、着たいシャツ」を探します。
ことしの取材を通して、
「いいシャツを買うってどういうことだろう」
「ながく着るってどんな意味があるんだろう」
そんなテーマにも、
すこしだけ触れられたような気がします。
また「なんとなく似合わないな」を解決する、
いいヒントも教わってきましたよ。
10回の連載、たっぷりおたのしみください!

その1
みんなシャツで悩んでる?

こんにちは、「ほぼ日」武井です。
第4回となるこの「白いシャツをめぐる旅。」の
打ち合わせがはじまったのは、
昨年の秋のことでした。
最初のミーティングで、
ぼくは伊勢丹のみなさんに
こんなことを訊きました。
(このプロジェクトは、「ほぼ日」と、
伊勢丹の婦人服・紳士服のバイヤーのかたがた、
さらに店頭のみなさん、宣伝部のみなさん、
そしてシャツメーカーのHITOYOSHIのみなさんで
おおきめのチームをつくってすすめているんです。)

「白いシャツって、
みんなが似合うアイテムだって思っているんですけれど、
店頭では、いかがですか?
もしかして、似合わない人もいらっしゃるんでしょうか」

「白いシャツが似合わない」
というよりも、
おなじ白いシャツでも、
『わあ、似合う!』という人と、
『なんか思っていたのと違う!』というかたが、
いるんじゃないんかなあ。

もちろん「いますよー、ぜんぜん似合わない人!」
‥‥という答えをちょっと期待していたのですが、
店頭接客経験豊富な伊勢丹のみなさんの
答えはちがいました。

「お客さまが『こうありたい』という理想の姿と、
わたしたちが『お似合いですよ』と感じる姿に、
ギャップを感じることは、もちろん、あります。
わたしたちの仕事は、その理想と現実を近づけること。
ひとつずつボタンを合わせるように、
「あ、ここですね」っていうところまで、
お話のなかでマッチングポイントを探すのが
販売員の仕事なんです。
その服を着て『そうありたい自分』になり、
元気に生活をしていただくことが理想ですから」

わー、かっこいい。
そして、うらやましい。
なにがうらやましいかというと、
「ほぼ日」はネット通販なので、
そういったこまやかなやりとりができないからです。
そのぶんがんばって、いっしょけんめい説明文を書いたり
いい写真を撮ろうとくふうしているわけなのですけれど。

いきなり話がそれますが、
ぼくがよく服を買う、とあるお店の人は、
長年のつきあいゆえか、
そういう接客姿勢なのか、
似合わないものははっきりと
「それ、違いますねーっ!」と言います。
試着だけでもさせてよ~、とお願いしたら、
もちろんいいですよと更衣室に案内してくれたのですが、
出てきたぼくにニッコリと、
「武井さん、満足なさいましたか?」と。
(たしかに、似合わなかった‥‥。)

もとい、白いシャツです。
白いシャツってたしかに、
体型的に「合っていた」としても、
「自分がそうありたいか」というイメージとの間で、
ギャップを感じることもある。
いくら「お似合いですよ」と言われても、
「わたしは好きじゃないなあ」と思うこともある。
「似合うとは思うけれど、
ちょっと背伸びしているみたいだな」と感じることもある。
逆に「背伸びしたい!」という服選びもある。
ああ、店頭での接客って、たぶん、
ちょっとしたプロファイリングみたいなことが、
あるんだろうなあ。

そういえば「白いシャツをめぐる旅。」の初回
(もう4年も前のことになります)で、
「ほぼ日」のゆーないとが、
イタリア製の、とってもかっこいい
シャツを試着したことがありました。

▲4年前の「白いシャツをめぐる旅。」です。

似合うシャツでしたけれど、
彼女は結局、これを選びませんでした。

「デイリーに着たいと思うと、
敷居が高かったんです。
『ちょっとこれだと着なくなっちゃう』って。
寝かせて、何年か後に着る、
みたいな感じになりそうだなと思って」

と。 こんなふうに「似合うけど、選ばない」
ということもあるのですよね。
それについて伊勢丹のかたはこう言います。

「接客をしていると、
ほんとうにいろいろなお客さまがいらっしゃいます。
芯の強さみたいなことが
きっとその人の本質だって思う女性が、
あくまでも可愛らしさを表現したい、
と、そんな服を探して
お店に来られることもありますよ。
それはそのかたの『なりたい姿』ですから、
きちんと応援をします」

そういえばいま「白いシャツをめぐる旅。」の
チームの一員である「ほぼ日」の平野さゆりは、
初年度に伊勢丹新宿店のこのイベントで買い物をしたとき、
2枚のシャツから1枚に絞りきれず悩んでいたところ、
同行してくれた先輩の女性が
こんなふうにアドバイスをしてくれたと言います。

「このシャツは、いつものあなたらしさが出るシャツ。
大人の女性らしいかわいらしさが出ると思う。
でもこれだったら、いつもと違うけれど、
新鮮なあなたの姿が見られるシャツ。
きりっとした、仕事モードの女性の姿になると思う。
どちらを選ぶかは、どうありたいか、
どんなシチュエーションでシャツを着たいか、
あなた自身が決めることだと思う」

(ちなみに平野は、後者を選んだそうです。)

バスト、小柄、肩幅の悩み。

──そんな話を一緒にしていたのは、
婦人服の販売経験が豊富で、
現在はマネジメントやものづくり、
バイヤーなどで活躍している3人の女性スタッフ、
松本さんと古田さん、そして栗田さんです。

▲右が松本さん。販売担当のマネージャーです。
左が古田さん、この春からアシスタントマネージャーに。

▲こちらが栗田さん。ベテランのバイヤーです。

さらに、女性に多い服選びの悩みは、
バストのことなんだそうです。
松本さんが言います。

「バストが豊かなことが気になって、
白いシャツがパツパツになるから、
着たくても着られない、
というお客さまもいらっしゃいます。
たしかにそういう言い方をすると
バストが豊かなことは、デメリット。
けれどもそれはメリットでもあるはずなんですよ。
たとえばアンダー(ボタンを下のほうだけ)で留めて、
衿元をうんと開けると、バストの豊かなかたは、
すごくバランスよく見えるんです。
そんな着こなしは、グラマーなお客さまだけにしか
できない着こなしなんですよ。
わたしはちょっと、羨ましいなって思います」
古田さんもこんなふうに言います。

「わたしは身長が151センチで、ちっちゃいので、
たっぷりした白いシャツだと
『着られちゃう』んですね。
そんなお悩みをお持ちのお客さまに
どういうアドバイスをするのかと言うと、
たとえば『前だけタックインしてみてください』。
小柄な方はとくに
腰の位置が大事だと言われています。
シャツは、ただ着るだけだと腰の位置がわからない。
でも前だけインすることによって『腰を作る』、
腰はここですよと主張するんです。
それだけで、小柄な人でも、
バランスよく見えるんですよ」

なるほど! シャツにはない腰のポイントを
わざと作って、バランスよく見せることができる。

つづいて栗田さんが言います。

「肩幅のあることが悩みのかたには、逆に、
シャツの裾をパンツやスカートに入れると
肩がピンとつれて、目立ってしまいます。
ですから、トレンドでもある『抜く』着方
(衿元のボタンを大きくあけて、
全体的に背中にぐっとひっぱるようにして、
着物の衿のようなかたちにする着方)を
おすすめしています。
あるいは、首もとや上半身に別のポイントをつくる。
くびまきや、カーディガンを羽織るなど、
そうすることで広めの肩幅も気にならないですよ」

この意見につづいて古田さんが言います。

「小柄で、しかもふっくら体型というかたも、
『抜く』着方が効果的なんですよ。
いま、ビッグシルエットが流行っているけれど、
身体がまるいから、膨張色の白を着るとなおさら
ずんぐりと見えるんじゃないかという心配を
なさるかたもいらっしゃいます。
けれどもあえて、うんと大きくて、
身幅もたっぷりある白いシャツを、
抜き衿にして着ると、お似合いになるんです。
ちょうど、着物が似合うみたいな感じで」

ああ‥‥店頭接客ってすごいなあ。

「ところで武井さん、
同じ白でも、人によって似合う白と
似合わない白があるってご存知でしたか?」

ん? 似合う白と似合わない白?
そんなちがいがあるの?

(次回へつづきます)

2018-05-12-SAT