その6 オーダーメイドは、一生のつきあい?

西本が挑戦している、
シャツのオーダーメイド。
「こうします」と自分で決めなければいけないことが
ひじょうに多く、
もちろん担当の松井さんが丁寧に相談に
のってくださっているとはいうものの、
一同、その細かさに、驚いております。

「身頃の前立てをどうするか」問題は、
つまり、シャツの身頃を左右であわせて
ボタンで留める部分がありますよね。
あの列をどうするかということです。
わかりにくいかな。図解しますとこうです。

「ラウンドの襟ですから、
 表の前立てのほうがいいのかもしれないですね」

もうこのあたりになると、西本も、
自分で判断をするというよりは、
松井さんのアドバイスを素直に受け入れる体制に。
そうですよねえ、なかなか自分で決められないよねえ。
これって、すべてを理解していれば、
とんでもなく楽しい「買い物イベント」だろうなあ。
しかし、ぼくらはなにせ「しろうと」。
オーダーメイド売り場の客としては、
ドしろうと、超新人ですから、
しかたのないことですよね。

ああ、ものすごいこまやかさ!

「さて、背中です。サンプルがなくて申し訳ないですが、
 表の前立てにするお客さまは、
 アメリカンのシャツ的に、
 真ん中にひだを付けるタイプをお選びになりますね。
 それから多少細く見せるのに、中へ縫い込んであげる、
 ダーツという方法もあります。
 後ろ側のところにダーツを入れると、
 全体的に細く見えます。
 逆に、ひだっていうの、
 パンツのタックみたいなイメージですから、
 動作に対して少しゆとりがある。楽になります。
 当然、寸法をお計りしますので、
 窮屈にはならないんですけど、
 よりゆったりという印象ですね。
 もちろんひだがなかったり、
 ダーツなかったりっていう、
 真っさらな状態もできます。
 フォーマルなシャツはそうですね」

「ダーツがあったほうがラインがきれいに見える!
 ではそのようにしてください」

「ポケットはどうなさいますか。
 ラウンド襟で表の前立てであれば‥‥」

これはぼく(武井)が口をはさみました。

「ラウンドのコットンシャツで、
 縫い目が出る前立てだったら、
 ポケットがあったほうが、
 カジュアルでかわいいと思うなー」

さらに(またもや省略しますが)
袖のボタン穴のことやボタンの種類、厚さ
(いいものはオプション料金がかかります)、
イニシアルを入れるかどうか(これもオプション)、
入れるならどこに何色の糸にするか、
その書体はどうするか。
さらにネーム(伊勢丹の)タグのところに
イニシアルを入れるかどうか。
ああ、やっぱりこまかいですねえ。

「さあ、基本的な形が決まりましたから、
 寸法採りをしていきましょう」

ここから、寸法を採り、それをメモしながら、
伊勢丹の松井さんと西本が、決めてゆきます。
「実寸はこうだけれど、
 どういうふうに着たいかによって
 つくるシャツのかたちが変わる」からです。
たとえば西本の首まわりの実寸は37.5センチ。
一般的には3センチくらいのゆとりをつけるので
40.5センチになります。
しかしネクタイはしないわけだから、
第一ボタンを留めずに着ることを考えて、
39センチにしましょうか。
と、そういうことを決めてゆくのです。

「前胸38、胸囲92、ウエスト77、
 裾廻り94、背幅40、肩幅48、背丈45、
 総丈72‥‥
 袖はぴったり目で80ですが、長めになさるなら
 80.5でもよろしいかと」

「長めにしておいてください」

「手首は右が23‥‥利き手、右利きですよね。
 左は時計をなさいますか?」

うわ、そんなことまで訊ねられるんですね。

「たまに、薄いのをしますかね」

「でしたらば左右とも23でよろしいかと。
 袖付けいきます。袖付け38、上腕29、
 剣ボロ25」

剣ボロというのは、長袖の先の、割れ目の部分ですね。
そんなことも、ここで決めていくんだ‥‥。

「いま採ったのは実寸ですから、
 そのままシャツにすると、着ることができません。
 ですからゆとりをつけていくわけですが、
 それをどのくらいにするかを相談します。
 西本さまは、フィットするシャツがよろしいと
 おっしゃっておられましたよね」

「そうです! 細身で!」

「かしこまりました。細身ですね。
 けれども極端に細身にしてしまうと、
 『きつい』という印象がうまれ、
 結局、次にまたいらしていただく可能性を
 減らしてしまいますから、
 動きやすい細身にしておきましょう。
 すこし身体を触らせていただきますね、
 失礼いたします」

そう言って松井さんは、
まるでお医者さんや整体師さんのように
西本の身体をチェックしはじめました。
あのう、それは‥‥?

「少しイカリ肩であるとか、鎖骨が大きいとか、
 そういう違いを伝えるために、
 身体を触れさせていただくんです。
 こういう過程を『補足』といいまして、
 これがなくてもシャツはできますが、
 あったほうが、よりよいと言われています」

うわあ、すごい。
そこまでやるんだ!

「けれども‥‥、これはあらかじめ
 お伝えしなければ成りませんが、
 初めてのオーダーでは、
 ご自分が思い描く完璧なシャツは、
 おそらくできないだろうということです。
 ちょっとずつ修正して、
 2着目、3着目で、
 だんだん理想に近づいていきます。
 オーダーメイドのシャツというものは、
 そういうものだということを
 どうかご理解ください」

なるほど‥‥!!
つくってみなければ、そして着てみなければ、
わからないことが、やっぱりあるんですね。
たとえば肩まわりだけは
もっとたっぷりしていてほしいとか、
ウエストはもっと絞ってよかったなとか、
そういう細かな好みは、
着てみないと、わからないですものね。
でも、それがわかれば、次は、それが解決できると。
だから「2着目、3着目」というふうに、
理想をもとめてつくっていくものなんでしょうね。
こりゃあ、一生のつきあいをする覚悟の買い物だなあ。

じっさい、4週間後に西本が受け取った
オーダーメイドのシャツは、
「とてもいい感じ」に仕上がっていました。

そして、言われたとおり
「ここをこうすればよかったかな」という
ごくこまかな点も発見できたそうです。
彼が二度目にオーダーメイドをつくるときは、
きっとその点が改善されていくんだと思います。

ぼくらは、
男子にとって白いシャツを着るって
どういうことなんだろうな、と考えていました。
20代の田路、40代の西本、武井、50代の廣瀬、
それぞれ体型も年齢もちがうメンバーでしたが
みんな似合うシャツがわかると
「いい感じの人」に見えました。
それは「信頼感」ということばに
置き換えてもいいのかもしれません。
オシャレとか、格好いいとか、そういうことのベースに
人としての信頼感が足される感じというか。
廣瀬だと、ストリート系から芸術家みたいになったし、
田路だと、若い経理マンから、ビジネスマン風に。
西本は、まったくもって無頓着な感じから、
「身だしなみに気をつかっている人」になりましたし、
ぼく(武井)はどうなんだろう、
これをお読みのみなさまからは、
「見違えた!」「男っぽさが出た!」
というメールをいただきましたから、
やはりそれなりに変わったんだと思います。

3割増し、と言っていいんじゃないか。
すごい効果があるんじゃないか。

最初、ぼくらは男子も女子もおなじように
気にいるユニセックスなデザインの白いシャツを探す、
ということをテーマにしていたのですが、
ここまで男子編をやってみてわかったのは、
そこは分けたほうがよさそうだな、ということ。
そして「自分にフィットする白いシャツ」は
「その人をより魅力的」に見せるのだということでした。
体型を隠すのではなく、
体型をいかして、魅力的に見せるという方向ですよね。
もちろん「ほぼ日」だけでは、
あらゆる体型の人をカバーするものは
つくれないかもしれないけれど、
そういう方向なんじゃないかな、ということです。

さて、次回から「女子編」です。
これがもう、録音テープからして、
かなりとっちらかっておりまして、
女性って買い物すること自体を
ほんとうに楽しめるんだなあ、
というのがよくわかった反面、
書き手としてまとめるのに
やや不安をいだいております。
では!

2015-06-04-THU