山本忠臣さんと、白い空間。
 その4


その2 ひとつの空間につどう、いろいろな白。
山本 ここ伊賀も隣の信楽も焼き物の町ですから、
いろんな作家さんを訪ねました。
もちろん、土楽のおっちゃん(福森雅武さん)の
所も行ったし、この辺の作家っていわれる人は、
ほとんど行ったんじゃないかな。
「見せてください」って。
東京の目利きのひとに教えていただいたり、
いろんな伝手をたどって、
すこしずつ人脈をひろげていきました。
伊藤 徐々に、ここにあるものが集まったんですね。
そしてお兄さんが家業の製陶所を継いで、
山本さんはギャラリーをオープンした。
建築のお仕事は?
山本 建築の仕事も並行してやろうと思っていたんですけど、
どんどん、いろんな人に会ってのめり込んでいき、
建築は、自分が作れる範囲でいいと
思えるふうになっていったんです。
伊藤 「建築心」が薄れていった?
山本 そうなんです。ところがある時、
「自分の焼き物工房を建ててほしい」っていう人が来て。
宣伝もしていないのに、不思議ですよね。
1年くらい待っていただいて考えました。
建築って、とても責任の大きな仕事ですから、
生半可に両立を考えていいのだろうかと。
結局、やることにしたんですが、
そのあとも、カフェをつくってほしい、
美容室をつくってほしい、というふうに。
すこしずつ仕事がふえていったんです。
伊藤 なるほど。
ギャラリーを本格的にスタートさせたのが‥‥。
山本 正式には2001年ですね。
伊藤 やっと、私たちの知っている
山本さんのすがたにたどりつきましたね(笑)。
山本さんは、展示替えのたびに、
空間をつくりかえているんですよね。
オーナーでもあり、建築家でもあるから、
大胆なことができる。
山本 はい、建物の中に「家」や
「小屋」を作ったこともあります。
石膏ボードを敷いて、
床まで真っ白にしたこともありますし。
同じ白でも、ペンキを使ったり、
漆喰を使ってみたり。
伊藤 わたしは漆喰が好きなんですけれど、
どういうふうに使っていますか?
山本 たとえばこの展示台は漆喰で塗っています。
そうすると展示台っていう感じじゃなくて、
まるで大きな石の上にものが置いてあるかのような、
重厚なイメージが出るんです。
同じ白でも、全然違うんですよ。
伊藤 基本を「白」にしている理由はありますか?
山本 ギャラリーというのは
展示する作品が変わるわけなので、
空間全体をその人の作品と、
その人の空気感で満たしたい。
そのためには白という色が
いちばん馴染むと思うからです。
もちろん、ツルッツルの壁だったら、
反射的なイメージになるけれど、
こういうマットな白って、
光を吸収して、フワッとした印象があるでしょう。
伊藤 そのマットな印象にするために
建築家として工夫なさっていることも
きっとあるのでしょうね。
山本 たとえば、この壁の漆喰には、
ひと粒が1ミリくらいの
珪砂っていう細かい砂を、
混ぜて塗ってるんですよ。
伊藤 本当だ。ザラザラしてる!
山本 で、こっちは、
寒水(かんすい)っていう、
白い石を混ぜているんです。
伊藤 光の具合が、たしかに違いますね。
山本 寒水のほうが、珪砂よりちょっと白い。
そしてより光る感じのものなんです。
伊藤 なぜ変えているんでしょう。
山本 窓から入る光が
まっすぐ差すところは、
より明るくなりますよね。
でも陰になる、逆光の部分は暗くなる。
そこはすこし明るくしたいと思ったんです。
ちょっとだけそうすれば、
バランスいいかなって。
白い色と、こういう素材を組み合わせることで、
空気をうまく内包してくれるっていうか、
包み込んでくれる感じがします。
伊藤 「ギャラリーやまほん」には
敷地内に隣接してカフェがありますね。
「カフェ・ノカ」。
あそこもとても気持ちのいい空間です。
山本 カフェは2005年からなんですけれど、
そのすこし前、2003〜2004年あたりから
神戸や京都からいらっしゃるお客さまが
徐々に増えてきたんです。
長いドライブのあとで、
休憩するスペースが必要だと思って。
伊藤 あたりには、あまりありませんものね。
コンビニさえもない。
山本 そうなんです。
そして、車で来るお客さんが休めるように、
カフェだけは靴を脱ぐようにしているんです。
伊藤 なるほど!
そしてカフェの壁は、
ブロック塀を白く塗っている。
山本 そうですね。
もともと、廃墟みたいな感じの
ブロックでつくられた建物だったんです。
床と天井は、全部自分で修理して、
スチールの扉だけは、
廃校になった小学校から貰ってきてつけました。
もともと窓のまったくない倉庫だったので、
窓をつくるためにブロックを切り崩したりもしています。
ギャラリーにもトイレがなかったので、
カフェと兼用で、
外に別棟でトイレを作りました。
だからトイレだけ新築なんですよ。
伊藤 トイレも、ご自分で?
山本 基礎工事と骨組みは依頼しましたが、
外壁を貼ったり、
中の壁を塗ったりは自分で。
伊藤 あのトイレも、壁が漆喰でいいですよね。
山本 そうです。
伊藤 こうして話している間にも、
ギャラリーの空間の光が、
刻々と変化しています。
時間によってとか、季節によって、
光の入り方とか色とか雰囲気が、全然変わって。
山本 本当にそうなんです。
白だから、これだけ陰影がはっきり出る。
伊藤 そのよさ、よくわかります。

2013-11-20-WED 

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写真:有賀傑