2023年1月 第122号~126号
ほぼ日のメールマガジン「ほぼ日通信WEEKLY」が2023年1月にお届けし、反響が高かったマガジンハウスの西田善太さんのインタビューを特別にWeb版で全公開いたします。
「全公開」ですので、長い記事です。ずずーっと、スクロールしてお読みください。(インタビュアー:ほぼ日通信WEEKLY担当 菅野)
ここだけのお話
ほぼ日通信WEEKLYオリジナルの読みものです。
~真実のクイズにチャレンジ!
西田善太さんの

vol.1
マガジンハウスの雑誌「BRUTUS」の前編集長、西田善太さんの登場です。



西田善太(にしだ ぜんた)
1963年生まれ。株式会社マガジンハウス取締役。早稲田大学卒業後、広告会社を経て1991年にマガジンハウス入社。2007年12月に「BRUTUS」編集長に就任。その後14年間編集長を務め、ヒット、名作号を連発。発行した「BRUTUS」は322冊。現在はブランドビジネス領域を幅広く担当。10雑誌ブランドのビジネスを、見たり見なかったり、している。


──:

西田さんはマガジンハウスの雑誌「BRUTUS」の前編集長で、これまでほぼ日は「BRUTUS」とたくさん仕事しました。現在もとてもお世話になっています。編集長を勇退されて、いま西田さんはどのような活動をなさっているのでしょうか。

西田:
「BRUTUS」を離れて、いまは駐車違反取締役をしています。それはウソですね。取締役として、ブランドビジネス領域ディレクターという肩書もついています。

──:
ブランドビジネス‥‥領域?


西田:
「領域」ってのが挟まってるのが、よくわからないですよね。たとえばです、社内外のDXも推進するし、他社のマガジンを出したりWEBをつくったり、イベントをやったりもします。ほぼ日から「社内報を出したいんだけど手伝って」なんて言われたらそれを手掛けたり、自社の雑誌に限らず、さまざまなメディアをつくっていくこともやります。

──:
他社のメディアも、なんですね。


西田:
ぼくの活動のメインとしては、マガジンハウスの雑誌のデジタル部門を統轄しています。WEBやSNSの状況を細かくチェックして計画を立て、成功に導く。これがいちばん大事なとこ。

──:
まさに各社メディアが次のステップに移ろうとするところの中核へ。


西田:
マガジンハウスって、デジタルに参入するのが実は遅かったんです。そのかわり急成長してて、いまいる部署はほんとに優秀な人たちぞろいなんですよ。

──:
いまいちばん動きのあるところですから、どのメディアも力を入れているところではないかと思います。肩書に「ブランドビジネス」が含まれているということは、デジタル化するうえでもマガジンハウスのブランドを大切にしていくところに考えの根本があるのですね。


西田:
ブランドビジネスは、なかなか難しいんです。マガジンハウスにはこんなにたくさんの雑誌があるんですが、それぞれの雑誌のブランドは宝物として大事にしていきつつ、印刷された媒体以外でも成功させていかなくちゃいけない。
ぼくは去年の3月15日まで雑誌「BRUTUS」を出してました。なにせ14年もやっていたもんだからね。

──:
うわぁ、長かったですね。


西田:
長かった‥‥322冊です。

──:
編集長として322回発行! ちょっとゾッとします。でも編集長が急にDXの推進部署に行くって、戸惑いますね。


西田:
いや、もと編集だったからこそ、ほかの編集部とも話がしやすいんです。編集部はそれぞれのプライドがある部署だし、独自のやり方で進んできた「編集長至上主義」的なところがある。それが強みでもあり、弱みでもあり、強みでもある会社なんです。

──:
「強み」が2回(笑)。


西田:
はい、完全に強みだったんです。ところが「編集部という狭い世界でしか通用しない手法で動いている」というマイナス面があったことは事実です。これからはデジタルの分野でもそれぞれのブランドを高めていかなきゃいけないから、いちど会社全体が同じ言葉でしゃべるようになる必要がありました。DXを推進する部署って、社内のバックヤード的な役割が主でしょう。急に首突っ込んでも「お前らわかってないよ」って言われがちなんだけど、「BRUTUS」にいたぼくが各雑誌に行くもんだから、とりあえず話は聞いてもらえます。一方、編集部を一歩出るとたくさんわかることがあってね。例えば、数字を見てわかることって確実にあるんですよ。

──:
数字を見るのはいつも怖いです。


西田:
だよね。曲線が下がってきたら、それは、下がっていくわけです。ほかの業界についても調べると「4年後の予想」なんてことも、残酷にもはっきりわかります。そこからが問題。大事なのは届いてるか、ってことなんですよ。

──:
届いているかどうか‥‥それがまず数字でわかるんですね。


西田:
そう、数字はあからさまです。みんながこっちを見てくれたかどうかがわかります。ぼくらの雑誌を置く書店が次々になくなっていく悲惨な情報が毎日入ってきます。どんな優れたコンテンツでも、届かないと「ないに等しい」です。「売れなかったけどいい本つくったよ」なんて、言ってられなくなっちゃってる。「いいものをつくっているんだから、ちゃんと届けようよ」、つくった人もそういう意識をもたなくちゃいけないんです。

──:
いいものをつくることだけをめざしがちですが‥‥。


西田:
いまからね、ものすごくいいことを言うので、ショックで倒れないようにね。

──:
えっ。はい、わかりました。


西田:
ちょっと待ってくださいね。いまここに書きますから。
(カバンの中からノートパッドとペンを取り出す)

──:
その言葉を見て、ショックで倒れないようにしないと‥‥。


西田:
はい。英語なんですけどね。

──:
みなさん、最初のクイズです(「実話クイズ」はクイズを出しながらインタビューをしていきます)。西田さんがこのとき教えてくださった言葉は、次のうちどれでしょう。


A
Management is doing things right; leadership is doing the right things.
マネジメントとは「ものごとを正しく行うこと」であり、リーダーシップとは「正しいことを行うこと」である。

B
Content is KING Distribution is QUEEN.
「コンテンツ」は王様、「届けること」は女王様。

C
The only thing we know about the future is that it is going to be different.
未来についてわかっている唯一のことは、いまとは違うということだ。

D
What helps people, helps business.
人を助けるものは、事業を成功させる。

(みなさん、答えを考えてくださいね。
下につづきます

~真実のクイズにチャレンジ!
西田善太さんの

vol.2
──:
これからのメディアの行く末を考えるにあたり、ショックで倒れないようにしないといけないような、いい言葉とはなんでしょう。

西田:
「Content is KING Distribution is QUEEN」です。これ、コンデナストの壁に貼ってあったって噂の言葉です。


▲手書きで教えてくださいました。

──:
へぇぇ‥‥! これ、コンデナストの編集部にあったらすごいですね。

西田:
でしょ。

──:
いいものを制作することと「ちゃんと届ける」ということ、両輪をやっていくのが大事なんですね。王様と女王様。


西田:
KINGと表現してるから「コンテンツがいちばんなのかな」って思いがちだけど、そうじゃないんです。編集がつくったものは、もちろんKINGとして扱われることでしょう。でもDistribution(配布:届ける)というQUEENがいなければ、国は成り立たず、たちゆかなくなります。いいコンテンツをひとつつくることができたとしても、継続していくのはそうとうむずかしい。むしろQUEENのほうが強いんじゃないかと、ぼくは部署を異動してやっとわかりました。女王は王と同じ権限を持って、人々に届けてくれなきゃダメなんです。以前は、取次さんにお願いして本屋さんに置けば、お客さんがぼくらの雑誌を買ってくれるという状態でした。でもいまはちがうから。

──:
それがデジタルの世界ならなおさらですね。


西田:
そう、いろんな方法が必要ですし、テクニックも日々変わっていきます。状況を見極めて舵取りを変えなくちゃいけません。『「BRUTUS」は「BRUTUS」のやり方があるわい、俺らは流行りには乗らないで、こんなふうに厚手の紙で作ります、ほら、ちゃんと売れるでしょう』なんてやってた時代は去りました。デジタルの世界では、なにかあたらしい動きがあったら、その知見をすぐ仲間全員に知らせないと。

──:
いまはスピードがちがいますね。


西田:
もたもたしていると乗り遅れちゃうよね。いろんなことの前後をつないで「これがあった、あれがあった、あれはどうなった、質問あるか」って、毎日やりとりをしながら進めていく感じです。ほぼ日はストアをずいぶん前から開いてるからわかってたと思うけど、「POPEYE」が去年の春先に、はじめてショップをやったんですよ。あまり宣伝しなかったけど、ロゴのフーディやTシャツを売りました。海外からもアクセスが殺到して、売り上げがすごくよくてね。その売上データって、どの国の人たちがどんなふうに買っているのか、リアルタイムで見ることができたんです。ぼくらが本を売っているときは「書店で雑誌を買っている人を見て、後ろから抱きしめたくなった」みたいなことは‥‥何回かはあるけど。

──:
ほぼ日手帳を使っている人とたまたまカフェで隣同士になって、声をかけたくなったり、そんな奇跡が。


西田:
そうそう。だけどデジタルの世界では「いままさに誰かがクリックして、フーディーを買ってるんだ」とわかるんですね。人の気持ちが動いて、お金が動いて、データを示す光の点が、だんだんと日本地図の形になっていくわけ。日本の形から、こんどは世界の地形となってつながっていく。それを感じられたとき、ぼくは善太2.0になったんですよ。

──:
善太さん、バージョンアップ。


西田:
まだ2.0なのか(笑)って気もしますけど、「あ、こういうことか」とわかったんです。雑誌の編集って、何十年もかけてつくられたシステムでしょう。再現性があるし安定していて暴れてもよれない、よくできたルーティンです。でも、なにか別の展開をしようとすると、古い業界はね、臆しちゃうんだ。一方デジタルは、その「光るデータ」を見るだけで、届き方が見えてくる。いつのタイミングでどういうタイトルでなんの商品を出したらいいか、日々変えていくこともできるわけです。

──:
でもそれも、肌感覚が重要ですよね。そもそものカルチャーがないと、すごくフラフラしそうです。


西田:
そこでコアバリュー(中核となる価値観)が重要になってくるのね。

──:
コアバリュー? コンセプトみたいなことでしょうか。


西田:
たとえばぼくが消費者として「ほぼ日」に関わるとします。その関係性のなかで「ほぼ日は、ぼくにどんなことをしてくれるのか」がいっぺんにわかる言葉が、コアバリューです。マガジンハウスは各雑誌にコアバリューがあって、このたびすべて決め直しました。
スターバックス コーヒーなら、家でも職場でもない「サードプレイス」という概念を提唱してます。そんな言葉がひとつあると、お客さんも働くスタッフも「そういうふうに」振舞えるようになるんです。これ、大事。

──:
えーっと、キャッチコピーみたいなことですか?


西田:
キャッチコピーってのは商品の説明ですね。コアバリューは「我々がめざすもので、あなたたちに与えられること」って感じ。マガジンハウスでいうと、たとえば「&Premium」は「The guide to a better Life」です。

──:
toというと、方向性や過程を感じられますね。


西田:
そうそう、ofとかじゃなくて、toね。しかもbestではなくbetter。このコアバリューがあれば、記事をつくるときにも「これってbetter lifeじゃないよね」とたちもどることができます。突き抜けたsuper bestを見せて売るのが雑誌の役目だった時代もあるけど、「&Premium」はそうじゃないところをめざす。toでありbetterをつきつめたものだけを提供していくんだと、いったん決めるんです。

──:
ほぼ日には、「やさしく、つよく、おもしろく。」と「夢に手足を。」というのがあります。


西田:
ああ、すごくいいですね。「やさしく、つよく、おもしろく」の順番ってことは「やさしく」が大事なんだね。それ、糸井さんが?

──:
そうなんです。やっぱり言葉なのかぁ。


西田:
言葉ってめちゃくちゃ大事ですよ。ほぼ日はやっぱり糸井さんの会社だけあって、きちんとコアバリューがあるじゃないですか。この「ほぼ日通信WEEKLY」はどうですか? つくったほうがいいよね。もうちょっとだけ、インナーの言葉ではなく、多くの人に溶け込むものがいいと思う。

──:
「夢に手足を。」くらいのやつですね。


西田:
そうそう。ね、すばらしいですね、「夢に手足を。」はもう、糸井さんの表現になっているんだけど、コアバリューって「何をしたいのか」を自分たちで話し合うプロセスが、また大事なんですよ。

──:
カッコいい言葉じゃなくてもいいんでしょうか。


西田:
そうそう、カッコよくなくていい‥‥いやちがう、カッコいいに越したことはないです(笑)。あとね、コアバリューは英語にしたほうがいいんだって。日本語だと意味込めすぎちゃうでしょ。糸井さんほどの表現があればいいけど、そうじゃなきゃ、日本語でぜんぶを説明しようとしてしまうからね。ぼくらは言葉によって規定されるのではなく、その言葉をもとにつくったコンテンツで規定されていくわけですから。

──:
‥‥ようはそれ、やっぱりブランドってことですよね。


西田:
そうです、そうです。

──:
何が「ほぼ日」で、何が「ほぼ日通信WEEKLY」かというのは、私たちがずっと話し合っていくべきで。


西田:
そのとおりだよね。「ほぼ日っぽい」ということは、ほんとうは日々、変わっていくものだから。

──:
少なくとも、この「ほぼ日通信WEEKLY」のコアバリューは決めたいです。編集チームは、ほぼ菅野ひとりなので、自分内で話し合って決めます。このメルマガを、どういう気持ちで読み終えてもらいたいか。


西田:
菅野さんがKOL(Key Opinion Leader)ということであれば、菅野さんを好きな人は読んでくれると思う。でも、もっと遠くに届けたいでしょ。

──:
はい、遠く、広く、薄くてもいいから。

西田:
だんだん見えてきたね。

──:
西田さんご本人についてはいかがでしょう。西田さんに会った人がどんな気持ちで帰るのがいいですか? 


西田:
ふふふ、えっとね、いつもぼくはこう思ってるの。

──:
みなさま、第2回のクイズは「西田善太さんのコアバリュー」です。西田さんは、会う人にどういう気持ちになって帰ってほしいと思っているでしょうか。


A
ときどきうまいこと言うな。


しびれるほどかっこよくふるまうな。


いつまでもいっしょにいたいくらいにホッとできるな。


いやぁ、ずるいなぁ。

前回の正解は、B「Content is KING distribution is QUEEN.」「コンテンツ」は王様、「届けること」は女王様。でした。 下につづきます

~真実のクイズにチャレンジ!
西田善太さんの

vol.3
──:
西田善太さんご本人のコアバリューは、なんでしょう。

西田:
ぼくは人にいつも「ああ、うまいこと言ったなぁ」と思ってほしいんです。

──:
えええ?!


西田:
それ、悪い意味だと思ってないんです。「わ、こいついま、うまいこと言ったぞ!」と、その場にいた人に思ってもらえることがすごくうれしい。ま、「あとでジワジワわかってくる」というパターンでもいいんでしょうけど、やりとりしている瞬間に「スゲェうまいこと出す」って、ちょっとほかとはちがう力が必要でしょ。その瞬間に自分の中から出てきた言葉が場にうまくハマることって、まずは爽快だし、その場で検索するのとはわけが違います。なんて言ったらいいのかな‥‥つまり勝負に勝った感じがするんだなぁ。

──:
勝ち負けなんですか!


西田:
勝ち負けです!

──:
現場でいきいきしたやりとりができることは、ごいっしょしてて、格別にたのしくなります。西田さんが多くの方々に好かれる理由がいま実感できた気がします。編集長をお辞めになるときに有志のみなさんがつくった「BRUTUS 西田善太最終案内」もその「うまいことやる」の精神があふれている気がします。



▲西田さんが編集長を退任するときに、有志のみなさんがサプライズで発行した特別「BRUTUS」。非売品です。ふたりの息子さんの対談も載っていて、おもしろい。糸井重里も「特別寄稿」しています。

──:
私も西田さんに「うまいこと言うな」と思われたいですが、やすやすと真似できないです。

西田:
「ハッとして直後に納得する」そんな言葉をくり出す。これ、瞬間芸ですからね。

──:
‥‥ということは、西田さんはほかの人に対しても「あ、うまいこと言ったな、こいつ!」と感じやすいのでしょうか。


西田:
あ、それはもう、いつも(笑)。「うまいこと言いやがってチクショー」「クソー」っと思ってます。

──:
西田さんのコアバリューはすごい瞬間芸であっても、胆力ある持久走もお得意です。なにせ322号も編集長として「BRUTUS」を出し続けられたのですから。しかし、コロナで緊急事態宣言が出たときはどこへも取材にいけない状況でしたよね。各社がんばっておられたと思いますが、ほぼ日も更新するものがなくて大変でした。そんななか「BRUTUS」はすごかったです。 結局、休刊がなかったですよね。


西田:
もちろん、もちろん。それは命がけ。

──:
どうやって乗り切ったんですか?


西田:
どうやって‥‥乗り切ったんだろう(笑)? ロケも撮影もできないから、イラストだけでページをつくったりしたことは憶えてるけど‥‥でもね、こういうことははじめてじゃなかったんです。2011年の震災が大きな経験でした。製紙工場が東北にありましたからね。

──:
そうか、石巻の日本製紙の工場に、大きな被害がありました。

西田:
あのとき、各雑誌が発刊の危機でした。ぼくらマガジンハウスは「雑誌が命」の会社でしたから、出し続けることに関してはすぐ決まりました。けっこうにべもない「出しましょう」という決定です。編集部のぼくらも「出せるものは出す」という覚悟でした。コロナのときも同じ。「取材できないなら前の号のアッセンブルでもいい」という考え方でした。ほんとうにつらくて‥‥おもしろかったですけどね。あの半年は、やっぱり思ったとおりにはできていない。ほぼ日もそうだったでしょう。

──:
はい、しかし、このメールマガジンが生まれるきっかけにもなりました。


西田:
経験としてはほんとうに大きいよね。これからの時代、プリントにこだわり続けることが正しいかどうかわからないけど、あのときの「出す根性」はすごかったと、自分たちでも思います。あのあたりに出た号は、のちにムックにして編集し直して出したりしてますけどね。

──:
当時は家から出ない状態だったので、ネットでチェックして「BRUTUS、最新号出てる!」と驚いていました。


西田:
当時は対応策も混乱していて、ひとりでも感染すると数日間、編集部は立入禁止になったりしてたから、内容をチェックするぼくらは会議室を別に借りて校正したりしてましたよ。そこからリモートもうまくできるようになって、全員が出社しなくても進行できるようになりました。とはいえ、がんばりました。不満は残る1年でしたよ。だって、どんなに慣れてもZoom取材って話が飛ばないもんね。会議もそうです。当たり前のことを決めたり合意をとるのはできるんだけど、「ここにいま割って入りたい! 割って入ったら絶対おもしろいのに!」なんてやりとりができない。あのもどかしさはこれからも避けたいです。

──:
「うまいこと言う」ができないですね。

西田:
そうそう(笑)。

──:
そういうもどかしさを経て、西田さんの変化はありましたか?


西田:
いまの自分の仕事はデジタルの比重が大きくなっているわけですが、そもそも「BRUTUS」なら「BRUTUS」が、プリントの雑誌を2週に1回出しているからこそコンテンツがたくさんできているのだ、ということを忘れてはいません。紙の編集で鍛えられる部分は大きいのです。雑誌はトレーニング場としてもすごい場所です。

──:
2週に1回を322回、何度言ってもクラクラします。


西田:
雑誌を2週に1回出すってことはね、「生乾きのままで出せる」という意味もあるんですよ。完全に仕上げていなくとも「おもしろいでしょ?」つってサッとさし出せるんです。そして2週間するとまた次の号が出る。生乾きでいるせいでコンテンツが成功するって、おおいにありえるんですよね。

──:
なんとなくわかります。生乾きの魅力。


西田:
「調べあげて、仕上げて」よりも、ちょっと不完全だけどもくり出す、スピード感。そんなふうに14年続けていた「2週間に1回の締め切り」がなくなったのは、自分の人生においてはすごい変化でした。

──:
ああ、それは大変化です。


西田:
編集長を退いて「あ、これでいいんだ、あ~」って、まずは力が抜けました。編集長になる前からぼくは20年近く「BRUTUS」に関わってきたんです。雑誌を出すことに全てがかかっている生活でした。逆に言えば、便利だったんです。だってね、いい本出しゃあいいんですよ。スゲェシンプル、気持ちは自由。いまは締め切りがなくなって別モードだけどこれがまた、すごく大きい相手だった。
 
──:
そんな別モード「善太2.0」になった西田さんが、最近ハマっていることは何ですか?


西田:
ハマっていることね、これは編集時代にはやらなかったことですねぇ。みなさんがきっと「ああ、それか」って思うことなんだけどね。

──:
これが次の実話クイズです。西田さんが最近ハマったのは次のうちどれでしょう。



カラオケ

囲碁

野球

ゴルフ

前回の選択肢は、 Aときどきうまいこと言うな。/しびれるほどかっこよくふるまうな。/いつまでもいっしょにいたいくらいにホッとできるな。/いやぁ、ずるいなぁ。で、正解はAでした。 下につづきます

~真実のクイズにチャレンジ!
西田善太さんの

vol.4
──:
西田さんが、最近ハマっていることはなんでしょうか。

西田:
みなさんに「ああ、それか」って言われると思うんだけど、去年の10月からゴルフをやってます。「次のマガジンハウスのゴルフ会は幹事をやれ」と言われて、まぁ、業務命令ではじめたんですけど。

──:
西田さんがゴルフ‥‥。


西田:
ほぼ日の人たちはあまりゴルフしないでしょ。ぼくのまわりって、親族は全員やるんです。でもぼく自身はこれまでかたくなに拒否してきました。菅野さんはゴルフやる?

──:
やったことないです。


西田:
ぼくもそうだったんだけど、いま必死に学んでいるところです。正直「ゴルフはじめたんですって(笑)」「善太がゴルフ? へぇえ~」みたいな反応ばかりです。でも世の中、これだけたくさんの人たちがやっていて、番組も数多あり、日々のニュースにも取りあげられるスポーツです。想像以上の人数が、長いあいだ培ってきたメソッドなんですね。おもしろくないはずがない。これまでいたずらに歳を重ねてきましたが「ここでこんなにも、はじめてのことがあるんだ!」と驚いています。ホント、学ぶことばっかり。いまからはじめてみるといいよ。

──:
そうですよね、たしかにあれだけの多くの人が好きなんだから、おもしろそうな気がしてきました。ゴルフ、やっていて何かいいことがあるんでしょうか。


西田:
ゴルフね、旅行みたいな感じですよ。

──:
旅行?


西田:
ほら、みんなでそろって出かけるでしょ。現地で同じ体験をしてさ。あの感じ。いっしょに旅に行ったらなかよくなる。ゴルフやったらなかよくなる。

──:
うわぁ、そうなんですね。

西田:
なんとかして朝早く起きて、眠い目をこすりながら車や電車に乗る。遠いところ、知らない空の下、はじめて会う人たちもいて、おそるおそるコースに出て、帰ってくる頃には「こんど飲みに行きましょうよ」なんて仲になってます。

──:
そうかぁ、なかよくなるのかぁ。


西田:
なかよくしようと思って集まるんですよ。ぼくは去年まで知らなかったけど、たとえば出版関係者のゴルフ会も、クライアントとの親睦ゴルフ会もこれまで連綿とあったわけです。いろいろな会社から50人ほど集まったりして。ね、知らないでしょ? 名前は知っていても話すのははじめて、なんて人ばかり。そんなみなさんと、思いもよらぬ話ができて、帰りに声かけられたりね。



──:
おしゃべりがちょっと苦手でも、ふだんはつながれない人たちでも、そうかぁ、ゴルフをしながらであれば。


西田:
いま思い出した話なんだけどね、その昔、ある音楽家がCMタイアップをとってビジネスを安定させたいと考えました。プロデューサーにその相談をしたところ、アドバイスが「ゴルフやれば?」でした。その1年後、みごと4つのCMが決まったそうです。どう? ゴルフはじめますか?

──:
ひえぇえ、やるべきかも。

西田:
ゴルフというスポーツ自体が、そうとうおもしろいんですよ。止まったボールを打つということはつまり、毎回同じ動きをしなきゃいけないからね。寸分の狂いもなく同じ動きをするってすごく難しいんです。あれは「型」なんですよねぇ。一方、「反応」のスポーツは、上・下・斜め、相手に合わせて反射神経で打つでしょう。

──:
相手のスピードや方向にあわせてどう反応するかが「反応」のスポーツの技術なんですね。私はそっちのほうが得意かも。


西田:
ゴルフは「型」なんです。だから駅のホームで素振りを練習するんです。

──:
相手を負かす競技ではなく、自分自身との勝負ですね。だから自分で練習できる。


西田:
はい、つねに平常心でいる練習です。そんなふうにゴルフから得る経験からもいろいろ開けてきますよ。性格がまっすぐな人はボールもまっすぐ飛ぶらしいから、ぼくらもあんがいうまいんじゃない?

──:
ボウリングと似てるのかな‥‥。


西田:
ああ、それはちょっと新しい説すぎるな(笑)、ボウリングは手で投げるでしょう。でもゴルフはあいだに棒が入ってるからね。棒はメディアなんですよ。棒を通してどうやってボールに思いを伝えるかというテクニックが必要なんです。

──:
西田さんはゴルフを、もっと早くやればよかったですか?


西田:
忌み嫌っていたことは反省しません、ほかのことに時間を割けたから。でも、これからはやってもいいと思ってます。

──:
会社の経営陣の方々はみなさん、ゴルフはされるんでしょうか。


西田:
全員ではないと思いますが、やると思います。そういうつきあいが必要な世界がありますから。でもね、いまは若い人もやります。うちの息子は20代だけど、やってます。バブル期みたいに会員権云々じゃない、安くできるコースもありますから。

──:
やってみると楽しそうだなぁ。

西田:
やってみると楽しいことって「必ずしもやる必要のないこと」だったりしますからね。だけど、ひとつ覚えておいてほしい。いたずらに歳を重ねると「楽しそうだけど自分には関係ないな」と思っていたことをいざ実行に移すことが、すごく難しくなるんです。だからもし機会があったら、なくてもね、かじっておいたほうがいい。ほら、編集者は「森羅万象に多情多恨たれ」っていうでしょ。

──:
あっ、開高健さんの。


西田:
そうそう、「編集者マグナ・カルタ九章」に書いてあるやつ。ぼくはきっと、編集者としてゴルフをやっておくべきだったんでしょうね。やっぱりいろんなことに、とりあえず最初のツバだけつけておくのがいいんです。何回かやってみて関係ないと思ったら、やめてもいいんじゃないかな。「食わず嫌い」って、ほんとうにつまんないとぼくは思う。ほぼ日のゴルフ連載を楽しみにしてますよ。

──:
がんばります。


西田:
やるとおもしろいのは間違いない。釣りもテニスも将棋もやるとおもしろい。なぜかやらない人には忌避される。「やるとだいたいのものはおもしろい」の最大のお城がゴルフです。

──:
ゴルフを最近はじめられたということは、初心者でもあるわけですよね。


西田:
そうですよ。

──:
西田さんと初心者というイメージがあまりつながらないです。なんだか最初から場馴れしてそうな‥‥。


西田:
初心者ですよ、ヘマばっかりです。でも今年は幹事として仕切らないといけないから、その幹事がズタズタじゃ話にならないからね。

──:
ゴルフに限らず、失敗ってありますか?


西田:
失敗はめちゃくちゃありますよ。まずはものをなくします。いつも何かを探している人生です。SASの隊員みたいにね。

──:
SAS?


西田:
サスというイギリスの特殊部隊があるんです。たとえば紛争地帯にこっそり入って人を助けたりする。彼らはヘリコプターで闇に紛れて入国するわけですよ。ある時間、ある地点を目指して、バラバラになって行動します。そして夜の砂漠だけを歩く。彼らが1時間に1回やっていることがある。なんだと思います? 荷物のチェックですよ。どこに何がいくつ入ってるかを、毎時間チェックする。ぼく、それです。SASの隊員と同じ。1時間ごとに「あれ? あれ?」ってチェックしてる。



──:
そんなに、カバンにいろんなものが‥‥?


西田:
絆創膏まで持ち歩いてますんで。「ああ、あってよかった」と、3ヶ月に1回思うなら持ち歩きます。

──:
みなさま、ここで西田さんから4つめの実話クイズです。荷物のチェックにつねに余念のない西田さんがした、最近の失敗は次のうちどれでしょう。

A
電車にカバンを置き忘れた
B
他人のコートを間違えて着て出た
C
自分の名前を書き間違えた
D
子どものパスポートで海外に行こうとした

前回の選択肢は、 Aカラオケ囲碁野球ゴルフ で、正解はDでした。 下につづきます

~真実のクイズにチャレンジ!
西田善太さんの

vol.5
──:
つねにカバンの中身をチェックするほど注意深い西田さんの最近の失敗とは‥‥?

西田:
ええ、そんなぼくがある日、大切なエグゼクティブと食事する機会がありまして。「ごちそうしたいんで、ぜひ」と言われてね。もちろんよろこんで行きました。
ところがいま、ぼくは会社で3つの部署を行き来してて、約束の時間ギリギリに出ることになっちゃったんです。

──:
社内で携わっておられる部署が3つ。フロアも違うんですか?

西田:
そうそう、フロアが別なんです。行き来するのはたいへんだけど、ま、居場所をごまかせるという利点もあるんですよ。例えば、朝ゆっくり出社してもバレません。「いま上にいるんだな」とか、みんな思ってくれるわけ。だけどもね、フロアを行き来しているうちに、自分のコートをどこで脱いだのか、置き場所がわかんなくなっちゃうの。

──:
あ‥‥。


西田:
で、その大事な食事会のときに、出がけにあわててコートを手にして、タクシーに飛び乗りました。お店に着いて、コートを預けて、食事して、帰るときに出てきたコートが自分のものではなかったのです。
周りの人からあとになって「かなり怒ってましたよ」と言われたくらい、そのときのぼく、プンプンしちゃったんだよね。

──:
それはつまり、お店がコートを取り違えたわけではなく‥‥?


西田:
はい、違います。しかしぼくは、その時点でまさか自分が間違えているとは思ってないのです。

──:
西田さんが会社を出るときに、別のフロアのどなたかのコートを持っていってしまい、お店に預けた、と。店に向かう道中で気づかなかったんですか?


西田:
いや、着てないからわからなかったんです、慌てて手に持ったままタクシーに乗ったから。で、預けて、大事な食事をして、帰りにコートが違いますよって話になっちゃったわけ。

──:
はあぁぁぁ、なるほど。


西田:
お店がほかの人にぼくのコートを渡しちゃったんだと、完全に思い込んだので「こんないいコートじゃないです、ぼくのは」「ツギハギになってるデザインなんで」「どなたかわからないけどお困りじゃないですか?」って、いろいろやっちゃって。「とりあえずこのコートは置いていきます」といって帰りました。そのあとお店から「必ず探し出しますので」というメールも来ました。「おいしくいただきました。しかし、お預けしたものは、返していただくまでがお店の責任だと思います」「わかりました」というやりとりをしました。

──:
ひぃぃぃぇぇぇ。

西田:
ぼくはふだん、社内メールは携帯に通知が来ないように設定してるんですね。あまりにも連絡が多いから。で、時間ができたところでまとめてメールチェックしたら「コートがない、コートがない、盗難届出したい」という人のメッセージが見つかりました。「あ、それオレだ」‥‥翌日、すっげぇ量の揚げ最中を持って、お店にあやまりに行きました。

──:
お‥‥おつかれさまです。間違えただけでなく、謝罪までが西田さんです。


西田:
ぼくの思い込みって、ホントにひどいんだ。反省してます。で、お店から後輩のコートを返してもらって、帰ってきました。

──:
よかったですね。


西田:
だからね、ここから得た教訓は、間違えないように注意深くすること、ではありません。

──:
はいぃぃ。

西田:
怒っちゃダメだね、人は。何があろうとね。

──:
はい。


西田:
何か思い込んでいる場合、一時的にかなりうろたえちゃうだろうけど、そこで怒らないように気をつけたいと思います。

──:
怒ったあとって、後悔する確率がひじょうに高いですよね。


西田:
怒ったりすることあるんですか?

──:
はい。でも、振り返ればだいたいのことは自分のせいなんです。


西田:
ああ、そういえば昨日もね、こんなことがありました。
ある通販でぼくは食べものを買ったのですが、あんまりおいしくなかった。継続的に送ってもらうのをやめようと思って、ホームページを見たところ、解約の方法が書いてなかったのです。規約みたいなページまで追っていって、やっと、すごく見づらい感じで「電話で解約」と書いてありました。でも、電話番号の記載がない。だからメールで連絡して電話番号を返してもらって、電話しました。「つながりにくい可能性もあります」って、15分待たされました。やっとオペレーターの人が出て、応対はちゃんとしてたんですよ、しかしぼくは半笑いで「電話番号が書いてないウェブなんて信じられませんよ」と、パーッとそこのウェブページを見ながら言って、よく見たら書いてあったりするわけです。

──:
わははははは。


西田:
だから、ホントに気をつけないとね。

──:
はい、気をつけます。


西田:
いやもちろん、わかりにくく書いてあったんですよ、ずるいんだけど、でもたしかに書いてあった。だから文句を言ったこと、後悔はしてます。あのコートの店にはもう行けないし。

──:
きっと許してくれますよ。

西田:
いや、なぜ怒ったか振り返ると、その日はそこに至るまでいろんなことがあったんだなぁ。昼間にいろんな相談ごとに応えてくたくたになって、会食のリズムと自分のリズムがうまく合ってなかった。ご馳走になる会食なのに、高そうなワインの値段が気になったりして。イライラが出ちゃったんですね、最後に。自分が間違えたくせにね(涙)。

──:
ええっ、西田さんでも「高そうなワインの値段」が気になったりするんですね‥‥意外です。そんなのぜんぜん気にしないタイプと思ってました。なんだか私にはずっと「西田さんはめちゃくちゃ強い編集長」という印象があるんです。


西田:
それはありがたいことだけど、いろんなことを気にするタイプではありますよ。ずっと強い感じでもない。

──:
自信満々タイプかと。


西田:
ぼくが自信満々に見えますか? とんでもない。特に若い頃、20代なんてどん底でしたよ。若いときって自分の能力が通用するかなんてわからないから、しかたないんだけどね。「お前がいちばんエラそうに見えたあの会議はいったい何だったんだ?」と、周囲から言われるようになったのは、30代になってからね。

──:
30代‥‥それでもずいぶん若手ですね。

西田:
まぁ、よくしゃべったからでしょうね。昔から反応は早かったので、相手にものを言わせないでしゃべっちゃうところがあったんだと思う。周りはそこに圧倒されちゃうかもしれないけど、自信満々とは別ですよ。

──:
そうか‥‥、自信満々というより、西田さんは発言にいつも迷いがないんですね。そこにはなにかコツがありますか?



▲ほぼ日オフィスのフロアで眠り込んでしまった乗組員に、やさしく声をかける西田さん。

西田:
ぼくはAVANTIというラジオ番組を27歳から20年近くやってました。あそこで鍛えられた部分は大きいです。
おしゃべりの訓練をするにはまず、いい聞き手になることが大事。聞く技術を高めたほうが、いざ自分がしゃべるときにも強くなります。聞く人は話す人で、話す人は書ける人です。あくまで「聞く」が最初です。
いい聞き手になるには、いい質問をすることよりも、相手に興味を持つことが大切です。持ってなくても、とにかく興味持つんです。興味があって、質問の答えにがぶり寄りして広げていけば、例えばその2時間、場がたのしげに湧き立つんです。そうすると相手から思ってもみない話が出ます。その話をどんどん引き出していく。相手も自分もノッて、グイグイいく。とにかく「喜んでしゃべってくれる」ほうに持っていくのです。

──:
いま、インタビューの、とても大事なアドバイスをお聞かせいただいています。


西田:
大事なところです。

──:
でも、「聞く」が「話す」に、そして「書く」につながっていく実感があまりないのですが。


西田:
聞き上手って、話し上手なんです。まず、聞き出すのがうまいと、話し下手な人を話し上手に変えられるでしょ? 相手に気持ちよくしゃべらせる訓練は、自分が気持ちよくしゃべるコツをつかむことにつながるんです。だってさ、みんながどうやったら聞いてくれるのかがわかるってことじゃない?
次に、話がうまくなるということは、話し言葉で伝わりやすいロジックをつくんなきゃいけないということなんです。それが上手にできる人は、書くのもうまい。全部一緒です。

──:
第一歩は聞き上手。書く力がつけば、編集者としての能力もついていきますか?


西田:
編集者にとって最も大事なものは、好奇心です。好奇心を人まかせにしない。これは欠かせない。あともうひとつ、編集者としてとても重要なことがあります。これはね、長いことぼくも気づかなかったの。でも、息の長い編集者にはみんな、これがあります。

──:
西田善太さんから最後の実話クイズです。編集を生業とする人に、できれば持っておいてほしい、大事な要素とは次のうちどれでしょう。



チャーム

ユーモア

ねばり腰

開きなおり



前回の選択肢は、 A電車にカバンを置き忘れた他人のコートを間違えて着て出た自分の名前を書き間違えた子どものパスポートで海外に行こうとした で、正解はBでした。下につづきます)

~真実のクイズにチャレンジ!
西田善太さんの

vol.6
──:
まず、編集者の第一歩は聞く力があること、なんですね。そしてもっとも重要なのは好奇心があるかどうか。

西田:
ぼくはつねづね、編集者の重要な条件は「その場にいたい」「この目で見たい」「だれかれかまわず話したい」そして「ウケたい」この4つだと、よく言ってきました。とにかく、伝聞ではなくその場に行ってこの目で見ること。「好奇心を人まかせにしない」のが、いちばん大事なのです。

──:
たしかに、好奇心からすべてのコンテンツがはじまりますね。


西田:
例えば、おもしろそうな映画も、人まかせにしちゃうとダメでしょう。「あれはウケてるけど、いろいろ批判もされてるみたい」「そうらしいね」なぁんてのんびり言ってたら、上映期間が終わるよ、行ってこいよ、その目で見ろよ、おもしろいんだから!インド映画の『RRR』なんて夢にまで見るぐらいおもしろいんだから!
好奇心を人まかせにして、世の中わかった気になってると、あとで足腰が弱くなっちゃう。人の好奇心に相乗りするだけじゃ、観察だけで終わるからね。それってただ「流行りがわかってる」というだけ。なるたけ、自分の目で行ってきました、買いました、持ってます、というほうがいい。「あのときのライブ、ぼく行きましたよ」「みなさんのブランドの最初のシーズンのコート、ぼく、まだ持ってます」というのと、ウィキペディアで調べて本1冊読んだのとは、まったく違う。編集者は、なるべくあちこち見て、誘われたら飛んでくぐらいでないとね。お金が続くかぎり、なんでもやっておいたほうがいいと思います。

──:
出かけていって見たものは、誰にも渡せない、自分の感動の種になりますね。


西田:
そうなんだよね。
本って、つくってる人に似ちゃうんです。ほんとは能力なんてそんなに大差なくて「どれだけお前がおもしろいか」だとつくづく思います。人がおもしろくなかったら、本がおもしろくならない。だからそういう意味でも、編集者としてできれば持っておいてほしい、重要な要素があるんです。

──:
それは好奇心とは別の、もっと深いところの‥‥


西田:
オスカー・ワイルドが戯曲のなかでこんなことを書いています。「人間を善人と悪人で分けるなんてバカげています、人間はチャーミングか退屈かのどちらかです」ってね。いろんな業界に突然現れるよくわかんない才能の人たちって、謎すぎるからときどき直に会いに行くんです。会うとわかる、だんぜんわかるんですよ。「ああ、すっげぇチャームがある!」ってね。

──:
チャーミングって、なろうとしてなれるものでしょうか。


西田:
みんな、芸を磨くんですよ。チャーミングであるべく、ね。ウケたいなら、魅力的にならなくちゃ。

──:
「聞く力、好奇心、チャーム」はぜんぶがつながっている気がします。どれも欠けないようにしたいですが、やはりチャームがいちばんハードル高いですね。


西田:
菅野さんはチャームをぼくにくれたじゃないですか。ほら、これですよ。(カバンから1冊の雑誌を取り出す)最近、香港の雑誌「Milk X」からインタビューを受けてね、今日ちょうど、できあがった雑誌が届いたんです。

──:
ん? 香港の雑誌ですか?


西田:
ファッション誌なんですけどね。「知っておくべき日本のエディター」というコーナーの‥‥これがさ、このページ(笑)。見てよ。


▲届いたばかりの「Milk X」を開く西田さん。



▲どどーーーん。

──:
ひぃええええ。


西田:
これ、もちろんぼくがレイアウトしたんじゃないよ、先方のデザイナーがやったんだよ。でも、ぼくのほうでも携帯電話の待ち受け画面がずっとこれよ。


▲携帯電話もこれです、どどーん。

──:
うううう(涙)、これほどまでに「顔アイコン」を愛用してくださっているのは、西田さんだけです。西田さんはチャームがあふれている。



でしょ?


はい。
最後におうかがいしたいのですが、西田さんは、これからの世の中、どんなふうになっていくのがいいと思っていらっしゃいますか?



どうなってたらいいかなぁ‥‥そうだ、菅野さんは、いま目の前に宇宙人が来たら、何を聞きたいですか?


えーーーーっと、「何が楽しくて生きてますか?」


宇宙人に(笑)? すごくおもしろいですね。
ぼくの好きなポッドキャストにテック系の人がいるんだけど、「犬とか猫いる? って聞きたい」と言ってたよ。ペットがいるかどうか宇宙人に尋ねたいんだって。もうひとつは「SNSをどうやって禁止したの?」らしい。


宇宙人の国に、SNSがあるでしょうか?


だって、地球まで飛んでこられるんだよ? 


そうかぁ、あるだろうなぁ。


いまはね、いやなことを言い続ける時代がすこし続きすぎているのかもしれないね。ぼくはSNSはなるべく見ないようにしちゃってます。
ぼくは正直これまで、世の中をおもしろがらせようとはしてたけど、世の中をどうするかなんてことは考えてなかった。でも、少なくとも、いまの10代~20代が、ぼくらとは別のやり方でたくさんの経験を積んでほしい。そして仕事を通してでもいいから「ああ、おもしろい」と自分が思える環境をつくっていってほしい。そしてやっぱり、さっきの話に戻るけど、編集の人たちだけじゃない、世の中全体が「好奇心を人まかせにしない社会」になればいいと思う。集合知とか、もう、信じなくていいからさ。


集合知を信じずに‥‥、



自分の感想を信じろ。自分の感想で生きろ。そして、自分の人生を生きろ。
これを肝に銘じておけば、絶対に人生は退屈なものにはならないと思います。やり方は人それぞれでいいから。


自分の感想で生きる、かぁ‥‥。ちょっと今日は興奮して眠れなくなりそうです。
西田さん、実話クイズにおつきあいいただき、ありがとうございました。




(西田善太さんの実話クイズ、これで最終回です。
前回の選択肢は、
Aチャームユーモアねばり腰開きなおり で、正解はAでした。
ありがとうございました

西田善太さんは、姿も大きいし声も通って大きくて、存在感がすごいのです。そして、いつもいろんなことを効果的に教えてくださいます。メディアが向かう先は、いま激流のように変化しています。迷えるメルマガ担当、菅野がお届けする「実話クイズ」を、このとき数週にわたり、みなさまにお届けいたしました。原稿を作成している段階から、自分でもおもしろかったです。西田さんのまわりにはメルマガを読んでくださっている方々がいらっしゃって、反響を教えてくださったことも、私の大きなエンジンになりました。
ほぼ日通信WEEKLYでは、さまざまな方のインタビューやエッセイを連載しています。無料で申し込めて解除もかんたんにできますので、もしよかったら、登録してみてください。またいつか、西田さんにお話を伺いたいと思っています。西田さん、ありがとうございました。(ほぼ日 菅野綾子)


感想を送る

シェアする
ほぼ日通信WEEKLYについて
「ほぼ日通信WEEKLY」は、ほぼ日が毎週水曜日に発行している無料のメールマガジンです。ここでしか読めない記事や、抽選で当たるプレゼントも毎週掲載しています。
メールアドレスを登録すれば無料で受信できます。配信解除をする場合は、メルマガ冒頭のリンク先から手続きすることができます。配信情報が反映されるまで1週間程度の時間をいただく場合があります。ご希望号の配信前の、早めの登録をお願いいたします。
https://www.1101.com/n/s/weekly

お寄せいただいたメール、投稿について
ほぼ日通信WEEKLY、ほぼ日刊イトイ新聞にいただいたメールならびに投稿の著作権は、翻案権を含んでほぼ日に譲渡されたもの、著作者人格権を行使しないものとします。いただいた投稿は掲載する際に弊社が編集する場合があります。「投稿する」「感想を送る」ボタンが作動しない場合はpostman@1101.comまでメールでお送りください。
フォローする
*無断転載はご遠慮ください。
© HoboNICHI