「あなた」のためのデザイン。 醤油と味噌とインテリア・ファブリック。 【対談】脇阪克二さん × 福田利之さん  20代で渡欧、フィンランドのマリメッコ社、 ニューヨークのラーセン社で ながくテキスタイル・デザイナーをつとめた脇阪克二さん。 現在は京都を拠点に絵を描きつづけている脇阪さんを、 イラストレーターの福田利之さんがたずねました。 ひとりの後輩として、 また、同じ土俵で仕事をする仲間としての、 福田さんによるインタビュー、 全3回で、お届けします。

 
第3回 京都だから生まれるもの。
福田 脇阪さん、じつは僕が
いちばん困る質問というのがあって。
それをあえて脇阪さんにしてもいいでしょうか。
脇阪 どうぞどうぞ、してみてください。
福田 「何にインスピレーションを受けますか」
という質問です。
脇阪 ああ。ああ。
それ、難しい質問ですよね。
よく訊かれますものね(笑)。
福田 じつはさっき、それを考えて
旅行をなさるのかなという質問をしたんです。
けれどもそういうわけではなさそうなので。
脇阪 やっぱりこの京都の町とか、京都の歴史とか、
あるいはそのいっしょに組んでいる
SOU・SOUのデザイナーの若林くんであるとか、
そういうもの、人から
刺激を受けてるんだと思います。
福田 京都の町もやっぱり、昔と比べて
どんどん変わってきてるとは思うんですが。
脇阪 確かに変わってきてはいますけれども、
でも、やっぱり、飽きないですね。
普通の仕舞た屋が並んでるような道を歩いてても、
新しい発見があったり、
何か感じるものがあるんですよ。
町の佇まいとか、あるいは、人のあり方なのかなぁ、
たぶん歴史とかそういうものがずっと積み重なってきてる。
そして、その新しさみたいなのもその中にある。
そういうことがひじょうに、
心地よい刺激になってるというかね。
いまも知らないことがいっぱいありますしね。
いただいたお菓子ひとつにしても、
全然知らないようなものがいまだにあります。
それがいろんな分野で、隠れるようにしてある。
あんまりあからさまにないんですよね。
福田 それは何かひじょうに京都っぽいですね。
脇阪 それと、自分独自の何かをやろうとしてる人が
結構京都には多いですね。
誰に言われたわけじゃないですけど、
京都の町の中の擦り込みみたいなことで、
「人のマネするのは
 ひじょうにこうかっこ悪いことだ」と。
あれは二番煎じやないかっていうようなことは、
すごくバカにされることだっていう意識が擦り込まれてて、
自分は自分独自でありたいみたいな風土がある。
お菓子屋さんでも自分とこはこのお菓子をやるんやって、
どんだけ小さくてもつぶれそうでも構わない、
自分とこはこれでいくんだみたいなね。
だからこんだけお菓子屋さんがいっぱいあっても、
同じような店は少ないわけです。
そういうおもしろさがあるんですよ。
京都には、独自のものをやろうっていう気風がある。
福田 日本はどちらかというと、
アメリカだったりフィンランドだったり、
摸倣というとあれですけど、
影響を受けてるものが多いと思うんですけど。
脇阪 京都人ももちろん日本人ですから、
摸倣をすることもあるでしょう。
けれど、日本の中では
かなりそういう独自のものやろうっていう
意識が強いんじゃないかと思いますよ。
福田 僕は1年だけ、京都に住んだことがあるんです。
五条の、六波羅蜜寺のちょっと上がったあたりに。
大阪人なんですけども、
京都に対する憧れがありまして、
僕の人生の中でその1年間が
いちばん楽しかったんですよ。
脇阪 そうですか。どういうところが楽しかったですか?
福田 お寺が好きなので、その雰囲気を味わってるだけでも
ほんとに身震いしました。
銭湯に行ったら、芸妓さんとか舞妓さんのかごが
きれいに整然と並んでいて、
わりと光も暗めで、その美しさだけで、
何かもうゾクゾクゾクっとしたり。
ずっと住みたいなと思っていたんですけれど、
お金がなくて、大阪に帰り、今は東京に住んでいます。
けれどもあのときの1年間ていうのは
ほんとに今でも、ずっと心に残ってます。
だから京都は奥が深いっていう話は、
1年ぐらいの経験しかないんですけど、
すごく納得するところです。
脇阪さん、10年くらい住むと
次のところに移りたくなると
おっしゃっていましたけれど、
京都を離れることってあるんでしょうか。
脇阪 もう10年になりますからね(笑)。
けれども今回は、ここに住み続けようと思っています。
動かないから、今度は部屋の空気を
変えようとしてますよ。
京都にもどるときに、じつは、
パリという選択肢もあったんですよ。
けれども50歳を過ぎていましたので、
いまさらその年齢でパリもないだろうと、
じゃあ京都に帰ろうと決めたんですね。
福田 パリ! 脇阪さんがパリに住んだら、
どんなデザインをなさったのだろうと
想像しちゃいます。
その土地の空気を、
吸い込んで形になさるじゃないですか。
僕、脇阪さんのニューヨーク時代の作品も
とても好きなんですよ。
脇阪 アメリカのラーセンという会社にいたときの。

▲ソファなどの生地として使われた、脇阪さんデザインのファブリック。
福田 手描きのストライプですよね。
繊細で、とてもきれいです。
きっと、これを作られたときの
ニューヨークの空気感って
こんな感じだったんじゃないかなって気がします。
脇阪 そうですか。ニューヨークって、
何かものすごく派手な感じがしますけども、
かなり色なんかは重いんですね。
車の色なんかも結構わりと重い色が多い。
福田 イエローキャブや、
ブロードウェイの派手なネオンのイメージがありますが、
確かに古い建物がずっと残っていますし。
脇阪 そうですね。そういう意味では
北欧の方が、色使いにしても派手ですね。
福田 ところで、
脇阪家は食器がすごくいっぱいありますね。
脇阪 そうですね、
この人(奥さま)の趣味です。
ほとんど骨董品ですよ。
福田 そうなんですか!
脇阪 京都は安くていいものがあるんですよ。
使い勝手のよいものというんですかね。
福田 じゃあ、お二人でよく出歩いたりもなさるんですか?
脇阪 散歩をしますよ。
町も近いですから歩いて行ったり。
けれども、そんなにあっちこちに
行くわけでもないですね。
むしろ家にいることが多い。
僕はどちらかといえば
何かをつくってるのが好きだし、
この人は家で料理つくったり、
植栽の手入れをしたりするのが好きだし。
ふたりとも家ん中でごそごそしてるのが好きなんですよ。
だから今、いちばん困るのは、
夢中になってやってるときはいいですけど、
何か詰まってきたときですね。
何となく表現も詰まってるし、気分も詰まってるし、
てなったときに、さぁどうする? って。
やることがないというか、
もうそれがひじょうに困りますね。
福田 そうなってももう、
外には行かないという感じですか?
脇阪 食事に行ったりしますよ。
でも、そやけど、それって、
ちょこっとした気分転換で。
もうちょっと大胆に
気分転換をしたくなるときがあります。
福田 毎日、奥様に出されているハガキですが、
見返したときに、
これを描いたときにどういう気分だったとか
覚えてらっしゃいますか?
脇阪 いや、あんまり覚えてないですね。
朝一番に描くんですけれど。
福田 脇阪さんのハガキは、
そのままテキスタイルになりそうなものが
とても多いんですね。
脇阪 そうですね。もうね、なってしまうんですよ。
どうしてもテキスタイルに。
これを繰り返していったら、と、
無意識のうちにつくってしまうというか。
福田 お描きになるものの最終形が、
テキスタイルとして見えているという
ことなんだと思います。
とてもすばらしいことだと思います。
僕は──、個展で、
原画を誉めてもらうことがあるのですけれど、
じつは複雑な気持ちになるんです。
というのは、イラストレーターという職業を
自分が好きでやってる以上は、
最終形は印刷物だと考えているものですから。

▲福田さんの描くものは、書籍やCDジャケットなど、
いろいろな印刷物に使われている。
脇阪 ああ、なるほど。
福田 印刷されたときに、
原画を超える何か、
輝くものを出さないと、と。
それが、永遠のテーマなんです。
脇阪 福田さんが、依頼された仕事としての
イラストレーションではなく、
個展のために描かれるときというのは、
どういう気持ちで描かれますか?
福田 まず自分にとって気持ちのいい絵を描きます。
個展は見本市というイメージで、
それを展示することで、
あ、この絵はおもしろいね、
じゃあこんな感じで今度仕事を
依頼できませんかっていうような意味合いで
僕は展覧会をやっているんです。
脇阪さんは、
イラストレーションのお仕事を
なさることはありますか?
脇阪 いや、イラストレーションの仕事は
いままで、一度もしたことがありません。
でも僕は、たぶんね、
テキスタイルデザインへいきましたけれども、
もともとはね、たぶん、
イラストレーションみたいなものが
やりたかったんだと思いますよ。
けれども僕はそこにあるものを描くのは下手です。
たまに植物を描くくらいかな。
けれども、何かを見て描くと、
引きずられてしまって、
すごくおもしろくない絵ができる。
福田 そうなんですか!
でもちょっとわかる気がします(笑)。
脇阪 おりこうさんの部分があってね、
すごくおりこうさんに
うまく描こうという意識が働いてしまうんですね。
逆に、時間がなくて、
たとえば1分しかないときも、
1分で描きます。
そうするとそれなりの何か、
また新しい何かが、
出てくることあるんですよね。
福田 なるほど‥‥!
たくさん、よいお話をうかがいました。
こうしていつまでもお話を
お聞きしていたいほどなのですけれど、
そろそろおいとませねばなりません。
あの、脇阪さん、また、あらためて、
寄らせていただいてもいいですか?
脇阪 どうぞ、どうぞ。
こちらに戻っていらしたら
またお寄りください。
福田 ありがとうございます!
脇阪 こちらこそありがとうございました。
こんなんで大丈夫?
たのしいお話だったけれど。
福田 すみません、すごく緊張してしまって!
  (おわり)

 

2012-12-21-FRI

福田さんのやさしいタオル