――ガチャ。

伊藤修子選手との凄絶な戦いが、終わった。
予想外の初戦敗退という事実に呆然とし、
洞(うろ)のような目で
つけっ放しのモニターを見つめる我らのもとへ
満身創痍の「和田選手」が、帰ってきた。




 
江口 ‥‥おつかれ、ラヂヲ。
ラヂヲ もうしわけない。
── 先生‥‥。
ラヂヲ みなさんも、おつかれさんです。
江口 ナイス・ファイト。
── ナイス・ファイト!
(しばし鳴り止まぬ拍手)
江口 ‥‥調整ミスや。
── というと‥‥?
ラヂヲ 昨晩寝違えたんが、案外響いたわ。

江口 首‥‥か。
── 数ある調整ミスのなかでも珍しい、
「就寝ミス」‥‥。
ラヂヲ ま、言いわけにすぎないけどな。
── はっ!
ま、まさか、ホテルのベッドが
テンピュールじゃなかったせいで…!?

※ラヂヲ先生は、三越で買ったテンピュールベッドを
 日ごろより愛用している。
 その愛用っぷりは
 わざわざ公式プロフィールに掲載しているほどだ。

ラヂヲ たしかにテンピュールではなかったけど、
それは、言いわけにすぎない。
伊藤選手が強くて、ちから及ばず敗れた。
ただ、それだけのことです。
江口 1問目から、かなり考え込んでた。
ラヂヲ いちど、言葉が出てこなくなって。
── 緊張で?
ラヂヲ いや、そうじゃない。
── 第一問のお題って
「月に着陸した人が、
 いちばん驚いたこととは?」
でしたよね、たしか。
ラヂヲ そう、真っ先に思い浮かんだのが、
「コンビニが濫立(らんりつ)」という答え。
── 月面に「コンビニが濫立」‥‥。
江口 ‥‥おもしろいじゃない。
ラヂヲ ローソンだとかファミリーマートだとか
コンビニの絵まで描いたんだけど、

濫立という言葉が、
出てこなくて。
── そ、それで固まってたんですか!

「濫立」という言葉を必死に思い出そうとするラヂヲ先生。
江口 「コンビニがいっぱい」じゃ、
 ダメだったのか!?
ラヂヲ いま思えば、そうやね。
ははは‥‥(力なく笑う)。
── ホラ、でも最後、
伊藤選手と回答の応酬になって
「続行」が続いたとき、
もうハラハラして、
すっごくスリリングでしたよ!

ねぇ、みなさん!?

江口 ほんと、手に汗にぎるって、
ああいう感じで‥‥。
ラヂヲ ステージの上で手に汗をにぎったら
どうなるか、
知ってますか、みなさん。
── ‥‥いえ、知りません。
ラヂヲ マッキーのフタが
取れなくなるんですよ。
── こ、こわい‥‥!
ラヂヲ 汗ですべって。
江口 ラヂヲ‥‥。
ラヂヲ それで、いっそう気があせるんです。
はは、はははははは‥‥。
江口 いや、わかる。わかるよ。

オレがラヂヲの「あせり」を感じたのは、
最後のほうの答えで
おっさんが窓から顔を出してるやつ‥‥。

ラヂヲ ああ‥‥。
江口 顔が窓ワクの線に重なってた。
ラヂヲ さすがは江口さん、ぜんぶお見通しだ。
はは、ははははは‥‥。



そのころ、メイン会場では
ラヂヲ先生を打ち破った伊藤修子選手が
準決勝でロバートの秋山竜次選手を撃破、
決勝にコマを進めていた。

思わぬ敗戦に気が動転していたわれわれも
徐々に落ち着きを取り戻しはじめていた。





ラヂヲ ポォーリ、ポォーリ、ポォーリ‥‥
このせんべい、うまいやん。
── 亀田(製菓)なんで。
江口 米がいいんだよね。新潟だから。
ラヂヲ ‥‥伊藤さん、優勝すんちゃうかな。
ポォーリ、ポォーリ、ポォーリ‥‥。
── 決勝はオードリーの若林選手とですけど、
この勢いが続けば‥‥あるいは。
ラヂヲ ねぇ。ポォーリ、ポォーリ、ポォーリ‥‥。
江口 うん。おまえ、せんべい食いすぎてない?
ラヂヲ で、なんで陰毛が落ちてんの、ここに。

(一同、ラヂヲ先生の指さす方向に目をやる)
江口 ‥‥それ、陰毛か?
── ちょっと微妙っぽくないスか?
ラヂヲ 陰毛でしょう、これ。



── 陰毛にしちゃ細くないですかね。
江口 ま、細いのもあるけど‥‥。
ラヂヲ いちばん近いの、江口さんですよ。
江口 オレかぁ‥‥。オレじゃないよ!
── 「近い」とかじゃないと思うんですけど。
ラヂヲ 細いから、若者のじゃないな。
江口 細いんならオレのじゃない。
ラヂヲ いま細いのもあるって
言ったじゃないですか。
江口 いやいや、一般論でね。
ラヂヲ ノアの選手の‥‥。
江口 プロレスラーのはもっと太いでしょう。
司会 「うらめしやに飽きた
 幽霊が編み出した、
 恐ろしいセリフとは?
 うらめしやに飽きた
 幽霊が編み出した、
 恐ろしいセリフとは?」

お考えください、どうぞ。
カァーーーーン‥‥。
── あ、決勝戦、はじまってましたね。
ラヂヲ ほんまや。
司会 伊藤選手、まいります。

「うらめしやに飽きた幽霊が編み出した、
 恐ろしいセリフとは?」

伊藤 「認知してやー」
ジャッジ 白虎、マイナス。
実況 若林選手、マイナス1ポイントです。
── 伊藤選手、もしかするとホントに‥‥。
ラヂヲ いくかも知れんよ、これ。
司会 つづきまして若林選手、まいります。

「うらめしやに飽きた幽霊が編み出した、
 恐ろしいセリフとは?」

若林 「ダルメシヤーン」
江口 わはははは、ダジャレかい。

決勝戦は、最終的に「1ー1」までもつれこんだ。

お題 「次回作の映画版『ドラえもん』で
    のび太が見せるかっこいい姿とは?」
回答 「眼鏡を舞台に置いて
    ドラえもん卒業宣言」(伊藤選手)

お題 「たらこ唇に大根足みたいな
    体のパーツの悪口を考えてください」
回答 「ヘリポート乳首」
   「パーティグッズ顔」(ともに若林選手)


など、随所にファインプレーの飛び出した熱戦は、
オードリー若林正恭選手が、辛くも勝利。

「誰がいちばんおもろいか」の戦いにおいて
お笑い芸人のプライドを、守り通したのであった。


司会 ‥‥若林正恭選手、優勝です!
会場 ワァァァァァ‥‥。
江口 ‥‥終わったな。

── ‥‥終わりましたね。
ラヂヲ 終わった‥‥。みなさん、
今日はありがとうございました。
(パラパラと拍手)
司会 それでは、表彰式をはじめます。
江口 ‥‥あれ? ラヂヲこれ出なくていいの?
── みなさんステージに集合してますよ。

ラヂヲ え? うわっ! ほんまや!

(猛ダッシュでステージへ向かう)
── ‥‥。
江口 司会が一人づつ感想を聞きはじめたぞ。
── 間に合いますかね。

江口 けっこう距離あるもんね、ここから。
‥‥あ、いた。

こっそり列に並んだラヂヲ先生。
── あはははは、そ知らぬ顔してる!
江口 危うく「出場してない」ことに
なるところだったな。
── ‥‥でも本当に残念でしたね、今日は。
江口 まぁ、大阪へ向けての
ウォーミングアップだと思えばさ。
── ‥‥大阪?
江口 うん、7月の大阪。
── ‥‥7月の大阪?
江口 うん。‥‥あれ、聞いてない?

マンガ家のおおひなたごうが主催している
「ギャグ漫画家大喜利バトル」が
7月くらいに、大阪で開催されるんだけど
それに出るんだよ、あいつ。

── ラヂヲ先生が? ホントですか!?
江口 うん。
── なんでそんな大喜利バトルばっかり‥‥。
江口 ねぇ。
── 本業は大丈夫なんですか!?
江口 いや、それはオレに聞かれても。
── 先日「締切りが遠くで笑っている」と
ナゾかけのようにつぶやいていたのは、
このことだったのか‥‥。
江口 まぁまぁ、また取材に行ったら?

次は漫画家だけの大喜利大会だから、
ダイナマイト関西とは別モノだと思うし。

── そうですね、ぜひ、そうします。
江口 ‥‥ラヂヲの手の内も、
なんとなく見えたしな。
── え?
江口 いやいや、こっちの話。
── ラヂヲ先生の手の内がどうとか‥‥。
江口 いやぁ、オレも出るからさ。
── はい?
江口 オレも出るんですよ、その大会。
 






<つづく>

2010-10-19-TUE