第6回 新聞は、言葉を切り替えていく。 ひたすら、怒られて育ちます。
糸井 紙面のレイアウトは型が決まっていて、
現場で記事をはめこむように
組んでおられました。
しかし、もっと全体的な
新聞のデザインの方向性については、
どう考えていらっしゃるでしょうか。

北元 社内にはデザイナーがたくさんいて、
「ワッペン」と呼ばれる、見出しに入る模様も
デザインしますし、
記事中の図版や表もデザイナーの仕事です。
毎年、紙面改革として
いろんな企画をしているのですが‥‥
その場合は、その企画そのものを中心として
考える傾向があります。
「10年後にトータルイメージをどうしていくか」
ということを日常的に考えている部署は、
うーん‥‥、いまのところはないと思います。
糸井 以前、新聞全体に、
活字が大きくなった時期がありましたね。
あれはきっと大改革だったと思います。
北元 そうですね。
あのくらいの改革を
考えなくてはいけないですね。

ほぼ日 記者の方々が記事を書く技術は
どのようにして学ばれるのでしょうか。
これだけトーンの揃った記事が
書けるようになるには
そうとうな訓練が要ると思うのですが。
木村 本社の記者になるまでには
平均してふたつほどの支局を回ることになります。
1か所目はたいてい、夕刊のない場所です。
私は盛岡支局が初任地でした。
そこで3年間、記者として働いて、
次に神奈川に行きました。
1年のうちに起こる出来事というのは、
ある部分は決まっているので、
「新人1年生はこの時期に何を取材する」
ということが、実はわりとわかっています。
最初は10行程度の記事からはじまって、
30行ほどの写真入りの記事を経て、
夏は高校野球。
その中でデスクや先輩の記者から
ひたすら怒られながら、
何度も書き直させられながら動いていくと‥‥
みんな同じような記事になれるというか、
‥‥なってしまうと言ったらいいのか(笑)。
ほぼ日 ひたすら怒られるんですか。
奥山 怒られます。
取材の視点や用語について
ガイドラインとしてまとめた本があって、
新人の頃はそれを何度も紐解きます。
言葉づかい、使える漢字、使えない漢字、
特定商品の扱い、そういうことを
4、5年ぐらいかけて、
本を開かなくてもいいところまで覚えます。
そういった道を
怒鳴られながら通っていけば
ある程度、記事を作れるようにはなります。
ほぼ日 今日見学した限りだと、
怒鳴り声はあまり聞こえなかったのですが。
奥山 ご見学いただいたのは、
夕刊を作っている時間帯だったんですよ。
夕刊は怒鳴ってる暇もないと思います。
ほぼ日 暇も。
木村 朝刊ですと、
けっこうバトルになることがあります。
ほぼ日 怒鳴ってる時間がないんですか。
朝刊のピークというのは
何時ぐらいなんでしょうか。
奥山 朝刊って、何回か締め切りがあるんです。
原稿は、だいたい夜の8時ぐらいから
編集の現場に集まりはじめます。
最終版に向けて、そこから何回かの
ピークがある、という感じです。
ほぼ日 何回かのピーク。聞くだけできつそうな‥‥。
奥山 はい。
ニュースにとっては、
その「ピークの流れ」というのが
けっこう肝なんですよ。
「asahi.com」に掲載される内容も
その「ピークの流れ」に左右されています。
ピークの時間帯に出るニュースが、
実はもっとも層が厚かったりします。
ほぼ日 では、夜8時くらいの「asahi.com」に
注目しているといいですね。
奥山 はい。

糸井 「asahi.com」の読者の
ピークの時間はどうでしょうか?
ニュースのピークの時間と同じですか?
奥山 それが、やっぱりずれていて、
アクセスのピークは、昼間です。
12時台に読んでくださる方がいちばん多くて、
あとは、朝の7時、
夕方の5時です。
その3回の山がはっきりとあります。
ほぼ日 お昼休みに読者が多くなるのは
「ほぼ日」と似ています。
だけど、夕方にも
ピークがあるんですね。
奥山 はい。
まず会社に行って
営業開始時間までに
ネットでニュースを見る。
次に、お昼休みになったら見る。
そして、仕事が終わるころに見る。
そんなリズムなのではないかな、と思います。
ですから、土日にはその「山」がなくて、
人の増減はなだらかになります。
ほぼ日 夜はいかがですか?
奥山 そこが、いわゆる一般の
インターネットサイトと
うちがちがうところです。
「asahi.com」は、夜に弱い。
ほぼ日 そうなんですか。意外です。
奥山 携帯サイトのほうは、スポーツの結果を
ごらんになる方がいるので
すこしは夜が強いんですけれども‥‥。
ほぼ日 読む人の流れが、やっぱり違いますね。
うちは夜にも読む方が多くなりますし、
夜は、もしかしたら土日のほうが
多いかもしれません。
奥山 「asahi.com」のほうは、
昼でもとくに
正午から12時20分の
20分間が圧倒的に多いです。
ほぼ日 ごはんを食べながら、
ということでしょうか。
糸井 最近は、会社で
ネットが規制されていたりしますから。
北元 そうなんです。
ニュースなどの情報はよくても、
芸能ニュース、スポーツニュースを
見られない場合があります。
それをどうやって
見ていただけるようにできるのか、
我々も苦心しているところです。
糸井 いろんなことが厳しくなっていますが、
社会の風潮が
ガラッと変わることもありますからね。
最近の10年20年、いろんな意味で、
その移り変わりを
我々は経験していると思います。
木村 はい。我々新聞は、
言葉づかいについては、特に
それを経験しています。
糸井 そういった、変化する情報を
社内で共有するしくみはあるんですか?
木村 はい。
例えば、裁判員制度がはじまったとき、
見出しの用語の選び方について
全社的に集まって話し合いました。
具体的にいうと、
警察の取り調べであった発言などを
我々はそのまま記事に入れていたのですが、
今後は「◯◯署への取材で」という言葉を
入れようとか、そういうことです。
糸井 新聞の用語のようなものを
変えていくわけですね。
それは、常識と呼ばれるものと
大きく関わっていく部分ですね。
木村 はい。校閲部門が主体となって、
朝日新聞の記者が
どういう言葉を使うべきかのガイドラインを
毎週のようにメールで伝えてきます。
記者は、それに沿って
言葉を切り替えていきます。
去年はインフルエンザの名前が
一斉に書き換わったこともありました。
大きな事件が起きたときに
その略称をどうするのか、など
難しい場面がたくさんあります。
最初の数日はたいてい、二転三転します。
ほぼ日 そうなんですか。
木村 はい。やがて数日経つと、
「これで行きましょう」というふうに
アナウンスが流れます。
あとはみんな、それに従ってやります。
ところが、インターネットでは
そういうやりかたでは困る、
というようなケースが出てきました。
宇宙部 それは、どういう場合でしょう?

木村 代表的な新聞の用語に
「五輪」というものがあります。
みなさん、ご存知かと思いますが、
オリンピックのことを
新聞では五輪と書くのです。
けれども、インターネットで検索するとき、
みなさんは「五輪」とは書きません。
「オリンピック」と書き込みます。
そうすると、「五輪」のみの表記の記事は、
検索に引っかかりません。
ですから、五輪と書くのはいいけれども、
オリンピックという言葉も併記してほしいと
記者のみなさんにお願いしました。
これは、北京オリンピックあたりから
はじまった動きです。
宇宙部 なるほどなぁ。
奥山 せっかくオリンピックという言葉を
五輪といういい言葉に縮めたのに、
もう一回開いたんですよ(笑)。
新聞とインターネットの言葉の使い方って
ずいぶん違います。
しかし、そこからまた、今度は
新聞のほうが変わっていくということも
あるのかもしれません。

(つづきます! 次回は最終回)


2011-01-18-TUE
イラスト:イリアヒム・カッソー