エピローグ

コズフィッシュ訪問が終わりました。

祖父江慎さんから
たくさんのお話を聞いた我々は、
コズフィッシュを出発し
東京糸井重里事務所に戻ります。

コズフィッシュの玄関を出ると
みんなが口々にこう言いました。
「祖父江さん、やっぱりすごかった」
「あんな話は祖父江さんしか
 してくれない気がする」
「ほんとうに大事なことを、
 憶えておこう! と思うことを、
 あんなに話していただいた」
「とにかく、
 ありがたかった!!」

「ねぇ、コズフィッシュの前で
 記念撮影しましょうよ」
「また?」
「まぁ、いいじゃないですか」
「心に残る一日になりましたもん」

さて、「訪問」した4人のデザイナー、
これから何かが変わっていくのでしょうか。
3日ほど経って、
みんなに話を訊いてみました。
(乗組員スガノに向かって話したので、
 みんなの口調が多少
 フレンドリーになっています)



ハリー

祖父江さんについて、あれから
いろいろ思ったんですけど、
うーん、なんでしょう、
ひと言でいうと、あのたのしさですね。
あのたのしさは、すごいなぁ。

糸井さんもそうなんですが、
仕事をするなかで、
「遊ぶ、たのしむ」ということを
ご自分もあんなにやるし、
周りにもそうするようにおっしゃっています。
それなりにぼくらも
できるようになってきたんだけど、
あれぐらいしなきゃだめなんだな!って
ほんとうに思いました。
ぼくたちが訪れたあの場でも
あれだけ遊ぶ感じは、すごいですよね。

「いいと思えるプランを思いついたら、
 一直線にそこに向かってすすみ、
 そこから外れないように完成させる」
ということをやりがちなんですけど、
寄り道や脱線して転がっていった場所のほうが
ほんとうだということを
おっしゃっていたように思います。
だってそっちのほうがいきいきしてるから。
糸井さんも、いつもそうしてることですが、
祖父江さんは、ふだんいっしょにいないぶん、
新鮮に思えて、そのことが改めて
よくわかりました。

デザインについては、
マーケティングはしちゃだめで、
自分がいいと思うものについても微妙だ、
と、祖父江さんはおっしゃっていました。
それよりも、ものをつくるときに
どれだけわくわくしてるかということのほうが、
裏切りが少ない、嘘が少ない、ということも
よくわかりました。
たしかに、自分の
うまくいったケースを振り返ると、
いいものを作る、ということには
「自分がほんとにわくわくしているかどうか」が
関係していると思います。

あとはね、ほんとにあたりまえの話なんですが、
祖父江さんはとっても目がいいな、と思いました。
それぞれの制作物を出したとき、
瞬時にすべてが見えていらっしゃいました。
デザインしたものというのは、ある意味、
意図したことの集合体ですから
それを意味のかたまりとして
パッととらえられるんです。
まぁ、あたりまえのことだけど、
それにしてもすごいな、と思いました。



やまかわ

すごーく、おもしろかったです。
祖父江さん、占い師みたい。
パラパラって見ただけで
あれだけのことを読み取られちゃう(笑)。
びっくりしました。

あの「訪問」のあと、
祖父江さんは雑誌の「アエラ」の取材を
受けておられたんですけれども、
すごくきちんとした、というか(笑)、
大人の対応をして、
デザインのお話をなさっていました。
ところが、うちに対してはあの
フレンドリーさでしょう?
きっと、それぞれの求めていることが
充分わかっていて、
応えてくれてたんじゃないかなぁと
最後に思いました。
そういう方には見えないだけに、驚きました。

マーケティングは途中で止めなきゃいけない、
「上から目線」になっちゃうから、とか、
祖父江さんのお話は、全体を通して
メモしたい! 憶えておこう!
ということだらけでした。
なるほどなぁ、と腑に落ちることばっかり。

それから、コズフィッシュのスタッフの方について
「ぼくに似ないでほしい」
とおっしゃっていたのが印象的でした。
祖父江さんは、何もかも
自分でやっているのではなくて、
スタッフの方々の力を引き出して
仕事を進めていらっしゃいます。
プレイヤータイプでもあるけど、
けっこう監督タイプなんだなぁと思って、
そこも感動しました。



べっかむ3

あんなにすごい、中味の濃い話を
お忙しい中、お話していただいて
ぼくらにとってすごく充実した時間でした。
糸井さんがふだん言っていることと
共通していることも多くて、
いちいち腑に落ちてくるものがありました。
祖父江さんはああやって、
あの仕事量の中で
質の高いものをあげられていってるんだ、
そのことがよくわかりました。

スタッフの吉岡さんにお話をうかがって、
祖父江さんはほんとうにあまり怒らないんだ、
ということがわかってびっくりしました。
訪問するまでは、あのおもしろい、
独特のご対応は、
とくに、外部の人に向けてサービス精神で
してくださってるのかな、
と思っていたんですが、そうじゃなかった。
びっくりしました。

あと、びっくりしたついでで言うと、
このコンテンツの写真の中の自分が
あまりにも「素」の状態で、びっくりした。
コンテンツの取材として行ってたんですが、
おそらく取材中だと意識するのを
忘れていたんでしょう。
もう、ほんとに(笑)、
ひと言も聞き漏らしてはいけないと思って、
「素」になって、集中してたんだと思います。

祖父江さんが「ほぼ日手帳」を
使ってくださっていたのは
とてもうれしかったです。
あの使い方はほんとうにおもしろいし、
カズンの見開きで1日、なんていう
「中庸をとらない」というヒントや、
いいアイデアをたくさんいただきました。
これから次の「ほぼ日手帳2011」に向けて、
まだまだいろいろやることがあるけれど、
祖父江さんのおっしゃったことを
いちいち思い出して
がんばっていきたいと思います。



なんこ

おもしろかったです。
いろいろすごかったし、もう、
いっぱいありすぎなんですけど──
もちろんすごい人だとは思ってたけど、
いい意味で、とっても
「デザイナー気質」っぽくないなぁと
思いました。

デザイナーさんって、すごいこだわりを
持っていたりするから、
それを人におしつけたりすることも
あると思うんです。
でも、祖父江さんにはそれはなくて、
とってもオープンな感じ。
「自分のことは、
 自分がいちばんわからないでしょ」
とおっしゃっていたし、
そこを入口にして、
興味をどんどん広げていかれるんですよね。

私は、そういうことって、仕事をしていると
どんどん言えなくなっていくような
気がしていました。
つまり、何かを提案するときに、
理由をいっぱいごだごだ
並べなきゃいけないからね。
定義づけしていっちゃうから、
自分が決まっていっちゃうんですよ。

そういうことに呑まれない、
デザイナーがいるんだ! と思って
すごく、すごーく、安心しました。
偉大なデザイナーが、扉を閉めてない。
そういうところ、
糸井さんと似てたなぁって思いました。



第1回目の「訪問」、これにて終了いたします。
祖父江慎さん、コズフィッシュのみなさん、
ありがとうございました。

お読みくださったみなさま、
ありがとうございました。
ご感想などを、どうぞ
postman@1101.comまでお寄せください。

さて次は、誰が、どこに、
行くことになるのでしょう。
次回の「訪問」、
いつになるかわからないですが、
どうぞおたのしみに。
ありがとうございました。



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