自分であり続けた50年。
- ──
- じつはTOBIさんも、
いろいろ「ひどい目」に見舞われていて、
そのことを語った連載を、
ほぼ日刊イトイ新聞でやっていたんです。
- ヴァレリア
- そうなんですか。
- ──
- たしかにものすごい「ひどい目」なのに
ユーモラスな語り口や、
TOBIさんのキャラクターもあって、
「笑っちゃわるいと思いながら、
どうしても笑ってしまう」
「生きる勇気が湧いて出ました」
という感想が、たくさん届く連載でした。
- ヴァレリア
- たとえば、どういう「ひどい目」?
- TOBI
- そうですね、まずフランスに渡ってすぐ、
昼下がりの銀行のロビーで、
武装した銀行強盗2人組とぼくと3人で、
ロビーに閉じ込められたんです。
そして、フランスに来たばかりで
フランス語を一言もしゃべれない状態で、
その強盗犯に、
お腹に二丁の拳銃を突きつけられました。
- 通訳さん
- え、人質みたいになっちゃったの?
- TOBI
- そう。「わたしはフランス語が話せません」
としか話せない人質。
- 通訳さん
- あははは(笑)。
- ──
- 通訳さんにウケた(笑)。
- TOBI
- 今では笑えるんですけどね。
- ヴァレリア
- 強盗犯て、外見はどんな感じだった?
- ──
- え、見た目の話?(笑)
- TOBI
- そういえば、若くて、引き締まってて、
ふたりとも、
ちょっとイイ男だったかも‥‥って、
いやいや、そんなのわからない(笑)。
- ヴァレリア
- わたしは、銀行強盗がイイ男だったら、
人質になったってかまわないわ。
- TOBI
- 拳銃を突きつけられてるんですよ!?
- ヴァレリア
- マッチョ~!(とポーズをとる)
- TOBI
- 何それ、勝てるって意味?(笑)
- ──
- ‥‥と(笑)、まあ、
そういう「ひどい目」をくぐり抜けて、
TOBIさんは、
いま、こうして生きているんです。
- TOBI
- そうそう、笑ってね、生きてます。
ぼくの「ひどい目」も、
いまではぜんぶ、笑って話せるから。
- ヴァレリア
- 素敵なことね。そして、大切なこと。
- ──
- 先ほど8人の仲間の話が出ましたが、
あらためて、おうかがいしても?
- ヴァレリア
- わたしたちは、デビューする前から、
親しい友だちだったんです。
そして、プロになってからはずっと
同じ舞台に立っていました。
だから仲間意識を強く感じています。
50年以上に及ぶ長い友人なんです。
- ──
- ヴァレリアさんたちの人生を知ると、
どうしても、
戦友、という言葉が思い浮かびます。
- ヴァレリア
- そうね、つらいことも楽しいことも、
いつだっていっしょだったから。
でも‥‥8人のうち、
3人はもう、亡くなってしまったの。
- TOBI
- そうなんですよね。
- ヴァレリア
- ようやく映画が完成したと思ったら、
それから1年足らずの間に、
3人の仲間が、亡くなってしまった。
- TOBI
- 映画を撮影している間も、
体調がよくなかったりしたんですか。
- ヴァレリア
- そう。とくに、マルケザだけは‥‥
彼女だけは、
映画の完成に間に合わなかった。
あの映画を、観られなかったんです。
撮影には何年もかかってるんだけど、
その間、少しずつ体が弱って‥‥
完成する前に亡くなってしまったの。
- ──
- マルケザにささぐ‥‥と、
エンドロールのときに出てきました。
- ヴァレリア
- うん、だから‥‥ごめんなさいね。
わたし、彼女たちのことを思うと、
涙が出てきちゃうの。
(と、しばしの沈黙)
- ──
- すごく、大切な仲間だということが、
画面からも伝わってきました。
仲がいいだけじゃなくって、
ケンカしている場面も出てくるけど、
そういったところも含めて。
- TOBI
- うん。ほんとうに。
- ──
- ヴァレリアさんにとって、
50年という年月は、
長かったですか、短かったですか。
- ヴァレリア
- あっという間ね。
- ──
- そうですか。
- ヴァレリア
- 50年だなんて、実感も湧かない。
- TOBI
- 案外、そんなものなのかも。
- ヴァレリア
- 50年前、
今のこの道を歩みはじめたころは、
この先、自分がどこまで行くのか、
どうやって生きていくのか、
そんなイメージなんか、
ぜんぜん持っていなかったんです。
- ──
- ええ。
- ヴァレリア
- でも、50年の時が経ってみたら、
自分たちの人生が、
こうして映画や本になって、
少なからず、
記録として残されることになった。
- TOBI
- はい。
- ヴァレリア
- ただ、わたしたちは、そのために
何かをしてきたわけじゃない。
いつかレジェンドになるんだとか、
歴史に残る人物になろうと思って、
やってきたわけでは、ないんです。
- ──
- じゃあ、どういう‥‥。
- ヴァレリア
- わたしたちはただ、
自分であり続けてきたというだけ。
- TOBI
- ああ‥‥。
- ヴァレリア
- 自分の道を信じて、
その道を、ただ、歩いてきただけ。
- TOBI
- そうなんでしょうね、きっと。
- ヴァレリア
- だから今夜も、飛び入りで歌うの。
昨日までと同じように。
サラヴァ東京というところで2曲。
- ──
- え、サラヴァ東京?
- TOBI
- ピエール・バルーさんがやっていた
ライブハウスですよ、そこ。
- ヴァレリア
- え、そうなの? 知らなかった。
- TOBI
- 最後の奥さまは日本の方なんですが、
その方とピエールで、共同で。
- ヴァレリア
- それは、とてもうれしいです。
わたしも、彼を、尊敬しているから。
- TOBI
- 何だか、つながるんですね。
- ──
- ほんとに。
- ヴァレリア
- ふしぎね、人生って。いつでも。

<終わります>
2018-09-28-FRI


