笑い飛ばせば、いい思い出。
- ──
- お聞きしていると、ヴァレリアさん、
本当に、歌が好きで、舞台が好きで。
- ヴァレリア
- わたしは、歌と舞台を最優先にして、
今日まで生きてきました。
歌と舞台が第一にあって、
他のすべてのことは、後に続くだけ。
- ──
- 見ず知らずの街に‥‥
それも言葉も通じないような街に
ひとりで乗り込んで歌を歌うって、
並大抵のことじゃないです。
- TOBI
- ただ「旅が好き」というくらいじゃ、
できないことですよね。
- ヴァレリア
- もちろん、旅は大好き。
でも、わたしは、ただの旅人じゃない。
舞台で歌うために、ひとりで旅してる。
プロデューサーもいないければ、
マネージャーだっていない。
いつも、たったひとりでやってきたわ。
- TOBI
- 旅をしながら歌う‥‥というか、
歌いながら旅しているというか。
- ──
- ヴァレリアさんとレ・ロマネスクは、
いろいろ似てると思います。
このふたりも、
でっかいスーツケースを持っていて、
そこには「一式」入っていて、
プロデューサーも
マネージャーもおらず、
自分たちでライブ会場を探して‥‥。
- ヴァレリア
- 本物のアーティストね。
- ──
- 今では、世界何カ国で‥‥。
- TOBI
- 12カ国・50以上の都市で、
パフォーマンスをやってきました。
- ヴァレリア
- 本物のアーティストだと思います。
プロデューサーやマネージャーや
スタッフに支えられて、
すべて「お膳立て」してもらえる、
そんなアーティストもいますけど。
- ──
- ええ。
- ヴァレリア
- 何不自由なく歌えるアーティストも、
わたしも、
あなたたちのようなアーティストも、
本当は、みんな対等なんです。
すべてを脱ぎ捨てたときに、
舞台の上で何ができるか‥‥だから。
- ──
- 丸裸になったときが、
同じスタートラインに立ったとき。
- ヴァレリア
- そのときに試されるのが、
真のアーティスト性だと思います。
その点、あなたたちふたりは、
はじめから、
自分たち以外に何もないところで
パフォーマンスをし、
喝采を浴び続けているんでしょう?
- TOBI
- ええ。流れ流れて‥‥ですけど。
- ヴァレリア
- その姿こそが、本物のアーティストです。
わたしは、そう思います。
- TOBI
- でも‥‥ぼくらもマネージャーもなしで
ライブをしていると、
ステージが予想以上にちっちゃかったり、
とんでもない場所で着替えさせられたり、
思いもよらないハプニングが起きたり、
ひどい扱いを受けたり‥‥
そういう経験が無駄に溜まっていったり。
- ──
- キメ顔の場面で、パッと照明が消えたり。
- TOBI
- お客が「0人」だったり。
- ヴァレリア
- わたしにだって、もちろん、
絶対思い出したくないような経験なんか、
山ほどあります。
もちろん、照明も音響も整った状態で、
歌を歌えることは、素晴らしいことです。
- TOBI
- そうですよね。
- ヴァレリア
- でも、自分に与えられた環境が、
そこまで素晴らしいものでなくたって、
誰かの心に届く歌は歌えるって、
わたしには、もう、わかっているから。
- ──
- その自信が、あるんですね。
- ヴァレリア
- 天から与えていただいた自分の才能を、
信じているんです。
だから、どのような状況に置かれても、
絶対に届けられるものはあるって、
確信を持って、舞台に上がっています。
- TOBI
- でも、まだ若いころに、
心が折れてしまいそうな瞬間とか‥‥。
- ヴァレリア
- 数え切れないほどたくさん経験してる。
でも、
諦めようと思ったことは、一度もない。
- TOBI
- ヴァレリアさんたちの
ドキュメンタリーに出てくる人たちも、
みなさん、そういう感じですよね。
それぞれの人生の歩みの中で、
さまざまに苦労されてきているけれど、
ステージに立って、客席に、
ハッピーを伝えてくれているというか。
- ヴァレリア
- あの映画に出てくるドラァグクイーン、
わたしを含め8人、全員同期なの。
みんな同じ経験をしていると思います。
軍事独裁政権の圧力があったし、
一般社会にもまだまだ偏見があったし。
- ──
- そうですよね。
- ヴァレリア
- とにかく厳しい時代で、
いろんなことが、禁止されていました。
困難は、数え切れないほどあった。
でも、誰も屈することなく、
それぞれの道を、切り拓いてきました。
そのことは、8人、みんな同じ。
- TOBI
- ご苦労されて‥‥。
- ヴァレリア
- でもね。
- TOBI
- ええ。
- ヴァレリア
- 今では、ぜーんぶ、笑い飛ばせるの。
笑い飛ばすことさえできたら、
辛かったことも、悔しかったことも、
警察に逮捕されたことだって、
「苦い思い出」じゃなくなるんです。
- ──
- そうなんですか。
- ヴァレリア
- ええ。笑い飛ばせたら、いい思い出。
もうずいぶん長く生きてきたけれど、
誰に対しても、何に対しても、
うらみつらみは、ひとつもないから。
- ──
- 笑うって、すごいことなんですね。
どんな逆境にあっても、
状況が過酷でもユーモアを忘れない、
そのことのパワーというか‥‥。
- TOBI
- 本当に人間らしい、尊いことですよ。
「笑って、忘れちゃう」って。
たしか、フランスには、
「笑えば治る」という格言もあるし。
- ──
- 困難を乗り越えて、
笑って生きている人の姿を見ると、
勇気が出てきます。
- ヴァレリア
- そうね。そう思います、本当に。
わたしたちは、みんな、
辛かったことも、悔しかったことも、
警察に逮捕されたことさえも、
ぜんぶ笑い飛ばして生きてきたから。

(写真:岡村直昭)
<つづきます>
2018-09-27-THU


