そこはグラムールの世界。
- ──
- レ・ロマネスクさんには、
パリで一躍有名になるきっかけとなった
テレビ番組があるんです。
- ヴァレリア
- ええ。
- ──
- それは、いわゆる「素人発掘番組」の
フランス版で、
この格好で、フランス語で
「ズンドコ節」を歌ったんですけども。
- ヴァレリア
- ズンドコ?
- ──
- ズンズンズンズンズンズンドッコ、
というフレーズで有名な歌です。
- TOBI
- もともとは、戦争に行く兵隊さんを
歌ったものだそうで、
そのリズミカルな曲調に乗せて
「パリの街って、ホントにステキね。
犬のフンは落ちてるし、
鳩がパンくず食ってるしもう最高」
‥‥という皮肉を歌ったんです。
- ──
- パリの異邦人として。
- TOBI
- そしたら、9割以上のお客さんから
大ブーイングを喰らいました。
- ヴァレリア
- オオーウ。
- ──
- でも、そこでめげずに
1番、2番‥‥と歌い続けていたら、
だんだん味方も増えていって。
- ヴァレリア
- オーディエンスも、
あなたたちのパフォーマンスが本物だと
徐々に気づいて、
連帯感を持つようになったんでしょう。
- ──
- レ・ロマネスクのふたりからは、
あんまり、
いわゆる苦労話を聞かないんですけど、
下積み時代からパリでやってきて、
人には言えないような、
辛いことだってあっただろうなあ、と。
- ヴァレリア
- たしかに、わたしたちのような人間が
人前に出て歌を歌う、
知らない世界へ飛び出していく、
それは、とっても素晴らしいことです。
- ──
- ええ。
- ヴァレリア
- でも、わたしたちのパフォーマンスを、
人々の心に本当に届かせるためには、
やはり、時間や経験を
積み重ねていくことが重要だと思うわ。
わたし自身について言えば、
キャリアはもう「50年」にもなるし。
- ──
- 50年‥‥!
- ヴァレリア
- そういう時間のなかで、
くやしいことや辛いこと、悲しいこと、
失敗から学んだことも、たくさんある。
そして、その学びがあったからこそ、
わたしは自分を磨けたし、
歌詞の内容さえわからないような、
初対面のお客さんにも
涙を流してもらえるような歌を、
歌えるようになったと思っています。
- TOBI
- そうですよね。
- ヴァレリア
- 逆に、その時間や経験がなかったら、
今でも簡単に、
わたしは、くじけてしまうでしょう。
- TOBI
- ヴァレリアさんが、
パフォーマーを続けることができた
モチベーションって何ですか?
- ヴァレリア
- やっぱり、歌い終えたあとに、
会場のお客さまに拍手してもらえる、
その拍手こそが、
いちばんのモチベーション。
拍手というのは、
わたしの歌がみなさんの心に届いた、
その証だと思っているから。
- TOBI
- そのとおりだと思います。
見ず知らずのお客さんの拍手こそが、
何よりの証拠ですよね。
- ヴァレリア
- わたしは‥‥まだ若かったころから、
大きなカバンをひとつだけ持って、
まったく見ず知らずの土地へ行って、
歌を歌ってきた。
そうすることが、好きだったんです。
- ──
- すごいことです。
- ヴァレリア
- ドイツ語もできないのに、
ドイツのミュンヘンで歌を歌ったり、
スイス、イタリア、スペイン、
フランス、チリ、アルゼンチン‥‥。
今では、もう、数え切れないほどね。
レバノン、テヘラン、
イスタンブールで歌ったこともある。
- ──
- わあ、イスラム圏でも。
昨晩だって、東京で、飛び入りで。
- ヴァレリア
- ただ、日本は、1971年だったかしら‥‥
2~3ヶ月、ツアーで回ったの。
- TOBI
- え、そうだったんですか。
- ヴァレリア
- まだパリにいたころ、
カルーセル・ド・パリの団員として、
世界各国を回ったんです。
日本へも、そのときにね。
- ──
- 赤坂のニューラテンクォーターという
有名なナイトクラブで、
カルーセル麻紀さんと、
お知り合いになったりされてますよね。
- ヴァレリア
- あのころ、世界は「別物」だった。
- TOBI
- 当時のフランスのショービズって、
世界最高峰でしょう。
- ヴァレリア
- そこは、グラムールの世界だった。
- TOBI
- 映画の『男と女』のあと、くらい?
- ヴァレリア
- そう、あの映画は1966年でしょ。
そのころわたしはウルグアイにいて、
恋をしていたウルグアイ人と
映画館で観たの。今でも覚えてるわ。
- ──
- レ・ロマネスクのふたりは、
その『男と女』に出演している俳優で、
有名な「ダバダバダ」を歌っている
ピエール・バルーさんに気に入られて。
- TOBI
- そう、共同生活してたんです、パリで。
5年間。
- ヴァレリア
- それは、素晴らしいことね!
彼は‥‥ピエール・バルーという人は、
ブラジル音楽も好きだったでしょう。
- TOBI
- そう! バーデン・パウエルとか。
- ヴァレリア
- ヴィニシウス・ヂ・モライスとか。
- ──
- 残念ながら一昨年の暮に亡くなられて。
- ヴァレリア
- ああ、本当?
- TOBI
- はい、歌を歌いながら。
最期、歌を歌いながら、
救急車で運ばれていったんだそうです。
- ヴァレリア
- なんて綺麗な死に方。

<つづきます>
2018-09-26-WED


