白い犬。梅佳代さんちの「あのこ」のこと。白い犬。梅佳代さんちの「あのこ」のこと。

曇りガラスの向こうから、こっちを見てる。
雪にまみれて、雪と一体化してる。
みちばたでプリッとウ◯チをしている‥‥。
梅佳代さんの写真集に、
ときどき出てくるあの「白い犬」が
一冊の写真集になりました。
タイトルもズバリの『白い犬』です。
梅佳代さんにとっては、
一緒に暮らしたことのない実家の犬のこと。
最初は怖くて触れなかったけど、
いつしか友だちになっていた、白い犬のこと。
梅佳代さんが、いつものように、
ユーモアたっぷりに、話してくれました。
担当は「ほぼ日」奥野です。


第1回
犬が怖かった。

──:
これまでの梅佳代さんの写真集を見てると、
ちょいちょい登場してきますよね。
梅:
うん。「あの白い犬、いいですねー」って、
けっこう褒められるんだよ。
──:
覚えてるのは、頭の上にリードがこう‥‥
たしか『うめめ』だったかな。
梅:
そう、あれは実家の玄関。

梅佳代『うめめ』(リトルモア刊)より

──:
あと、曇りガラスの向こうから見てるやつ。
梅:
あったあった。『のと』だね。

梅佳代『のと』(新潮社刊)より

──:
さらには、散歩の途中かなんかの道端で、
今にもウ◯チしそうな‥‥いや、
今まさにしてる真っ最中のような作品も。
梅:
それも『のと』だったと思う。
いいやつ、けっこう『のと』に出したから。
──:
いいやつ(笑)。
梅:
うん、『うめめ』と『のと』ね。
いいやつは。
──:
なので『白い犬』という写真集が出るって
聞いたときには、
名前も知らないままに、
「わー、あのこの写真集が出るんだー」と。

そういうファンの人、多いと思いますけど。
梅:
はい。名前がね、あるんです。ちゃんと。
──:
ですよね。それが今、明かされる。
梅:
なんだか人間みたいな名前なんで、
ちょっと人前で言うの恥ずかしいんだけど。
──:
お願いします。
梅:
リョウ、っていいます。

みんなに「名前は、何ていうんですか?」
とか聞かれるたびに、
「なんか、別に」みたいにごまかしつつ、
「名前は、リョウです」
って言うと「ふーん」みたいな、
盛り上がるでもなく盛り下がるでもなく、
何とも言えん空気になるんや。
──:
梅リョウ君。
梅:
あ、メスね。

男みたいな名前だから、
そこで、相手はさらに「え?」となって、
中途半端な感じで話は終わります。
──:
どうして、その名前にしたんですか?
梅:
弟が野球部の寮から拾ってきたから‥‥
って理由で、わたしもビックリ。
──:
出身地の名前がついたんですね。
梅:
だってね、あるとき実家に帰ったらね、
突然、白い犬がおって。

みんなで「リョウ」とか呼んどってね。
その知らん犬のことを。
──:
出会ったときには、
すでに家族の一員だったわけですね。
梅:
だから、はじめは
「おまえ、誰なん」って感じだった。
──:
ようするにリョウが拾われてきたのは
梅佳代さんが
イチロー選手と結婚するために、
能登の実家を出たあとだった‥‥と。
梅:
そう、大阪の写真学校におったとき。

わたしがふるさとを捨てたら、
わたしの代わりにリョウがきたんや。
──:
第一印象は。
梅:
「え?」って。「なんでおるん?」って。

だって、わたしが犬が怖いこと、
家族みんな知ってるのに、ひどいやろ。
しかも、ほぼ放し飼いで、リョウ。
──:
犬、怖いんですか。
梅:
何の心の準備もなく帰ったら、
白い犬がダーッってこっち突進してきて、
「いやー!」ってなった。

家族全員にシラーってされたけど。
──:
それが、何年前のできごとですか。
梅:
わたしが18歳やから‥‥え、17年も前。

あれから、え、え、え、
わたし、もう1回18歳になるんや!
──:
2度目の18歳おめでとうございます(笑)。

つまり、帰省のたびに顔を合わせる仲‥‥、
ということですか。
梅:
そう、帰ったときに会う犬ってことです。
──:
写真も撮って。
梅:
うん。写真も‥‥そう、おるから撮るし。

実家はヒマやし、撮る。
じいちゃんとか妹とかと同じ感覚だよね。
じいちゃんと妹と犬はヒマつぶしに撮る。
──:
その三人は同じ立ち位置なんですね(笑)。
梅:
そうだね。あと、ばあちゃんとね。

でも、じいちゃんの場合は
「いつか死ぬな」っていうのがあったんで、
気持ちはちょっと、ちがうかも。
──:
梅勝二さん。
98歳で亡くなられたんですよね、たしか。

梅佳代『じいちゃんさま』(リトルモア刊)より

梅:
うん。でも、妹と犬に関しては、
いつか死ぬなとかは、思ってなかったんで。

結局、いちばんはじめに死んじゃったのは、
まさかのばあちゃんだったけど、
そのころリョウもヨボヨボになってて、
じいちゃんとばあちゃんとリョウ、
誰がいちばん先に死ぬかで家族で話してた。
──:
で、おばあさまがいなくなり‥‥。
梅:
そう、おばあちゃん先やったねーみたいな。

みんな葬式ではあんなに泣いとったのに、
ちょっと経ったら
「結局、
ばあちゃんがいちばんに死んだね」とか、
そういうふつうの会話ってすごいよね。
──:
3人と1匹は、仲良しだったんですか?
梅:
まあ、ね。でも、ばあちゃんは、
リョウにいちばんバカにされとったね。
あれは完全に舐められとってん。

なにしろリョウに噛まれたことあるの、
ばあちゃんだけやし。
──:
あら。
梅:
で、じいちゃんにとっては、
もう、犬は犬でしかないっていうか、
戦争に行ってきた時代の人やから、
リョウがわるさしたら、
棒きれもって追い回したりしてたよ。
──:
え、あの勝二さんが。
お会いしたことはないですけど、何だか意外。
梅:
そうそう! じいちゃんそんなにキレるっけ?
みたいな感じで、
リョウが台所でナベの中身漁ってたりしたら、
ふつうにべカーンて叩いたりしとった。

あるときは酒粕漁って酔っぱらっとってんて。
で、フラフラになっちゃったらしい。
──:
リョウが。あらら。
梅:
想像してごらん、かわいいでしょ?

それなのに、じいちゃんは、
「こんなもんな!」ってブチ切れたらしくて。
──:
こんな‥‥何です?
梅:
「こんなもんな!」
──:
こんなもんな。
梅:
え、何、その「何ですか」って顔して。
こんなもんな‥‥
何やろな、たしかに。どういう意味や。

今、言いながら、思ってしまったけど。
──:
言葉の勢いからして、
この野郎みたいなニュアンスですかね。
梅:
あー、そうそう。そんな感じ、そんな感じ。

そうなんだけど、わー、めっちゃイモいわ。
「何です、それ?」とか思われて‥‥。
──:
とにかく、梅佳代さんは犬が怖かったと。
梅:
そう。
──:
でも、さっきも「かわいいでしょ?」って、
今では、そう思ってるわけですよね。
梅:
うん。
──:
そのあたりの、
梅佳代さんの心のうつりかわりの物語を、
ちょっと、うかがいたいのですが。
梅:
はい、わたしの心のうつりかわり。はい。

<つづきます>

2017-01-20-FRI
取材協力:ダンデライオンチョコレート

写真集『白い犬』、発売中。
写真展「白い犬」も開催中。

梅佳代ファンならきっとご存知、
これまでの梅佳代さんの写真集のなかに
ちょくちょく登場する
梅家の愛犬・リョウが本になりました!

タイトルはズバリの『白い犬』です。
表紙からして、もう「いい!」です。
すでに全国書店等で絶賛発売中です。

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で、この本の発売を記念して、
現在、南青山の「TOBICHI②」では
写真展を開催しています。
会期は、2月5日(日)までです。
梅佳代さんの過去の著作をズラリならべる
特設ショップもオープンしてます。
ぜひぜひ、みんなで見に来てくださいね!

開催概要

梅佳代さん写真展@TOBICHI② 白い犬。

会期:
2017年1月20日(金)~2月5日(日)
時間:
11時~19時 ※会期中無休、1月22日(日)は17時クローズ
会場:
南青山 TOBICHI②
住所:
東京都港区南青山4­28­26
MAP:
https://www.1101.com/tobichi/access.html
入場料:
無料

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