笑福亭鶴瓶の落語魂。
その世界のすべてを愛するということ。

第17回 それは、芸です。

鶴瓶 会うたときになんべんもいいますけど、
糸井さんと言うといつも思い出すねん。

昔に、番組で一緒にまわったときに
エレベーターの中で糸井さんが
頑固なおっさんにキレて。
あれ、おかしかったわぁ。

「いいじゃないか!
 あんたには迷惑かけてないだろ!
 なにをしたんだ!」って。

むこうもまた頑固で……
人が怒っているのって、おもしろいね。
自分が沸点に達していないから、先にキレて。

俺のほうが先にキレそうなタイプなのに、
糸井さんのほうが先にキレるね。

エレベーターで番組撮ってるのに、
本気でケンカするねんもん。
こんな人、ないよ?
そんなん、黙ってたらええやんか。

あの時、エレベーターにふたりで、
クツ脱いで正座して乗ったんです。
そしたら、おっちゃんがえらい怒り出した。
やってるおれらが悪いやん。
糸井 (笑)
鶴瓶 でも糸井さんが本気で怒りよって、
むこうのおっさんも怒りよって……
俺はもう気まずいヘンな汗を出して。
糸井 そういうことを言うんだったら、
そのいたずらの番組のロケ中に、
もうひとつ、女湯に入ってまちがえました、
みたいなとき、鶴瓶さん、
ちょっと前をふくらましたんだよね?
鶴瓶 (笑)でもね、ちょっと待ってください。

それ、前をふくらますいうのは、芸ですよ。
むずかしいですよー、そんなもん。

テレビという仕事の最中に、
前をふくらます、ぬくうする……
ちょっとぬくうなってる、
そういうのは、ふつうの神経ではできないですよ。
糸井 ぬくい!(笑)

明らかに、
番組サイドから雇われた女の人たちが
女湯にいる番組なんだから、
ふくらましてるヒマなんてないんだよね。

なのに、鶴瓶さん、ひとりだけ、
「熱くなってきた」とかいって……。
鶴瓶 そういう人生を、
ずーっと過ごしてるから、
楽しい五十歳が迎えられたんですよ。
糸井 あの番組は、つまりおたがいに、
「わたくし」を入れてたっていうことですよね。
鶴瓶 入れてはいけない「わたくし」を入れながら。

……ただ、
あなたのわたくしの入れ方と、おれの入れ方は違う。
糸井 (笑)
鶴瓶 ぼくは、あの日に糸井さんに会えて、
ほんまにうれしかった。
この人はおもろい人やなぁと思って。

あれは、怒る糸井さんもおもろいけど、
怒ってるおっさんもおもろいし……
たぶん、もしも糸井さんが一般人やったら、
あの怒っていた頑固なおっさんが、糸井さんですよ。
言うたら、鏡どうしが喧嘩してる、みたいな。
糸井 そうなんだろうね。
カチンとくるっていうのは、
似てる部分なんですよね、きっと。
鶴瓶 あれ、二十年ぐらい前でしょう?
糸井 もっと前ですよ。
鶴瓶 そうやね。
ほんとに長いつきあいやもん。

なんか別に
あぶらっこいつきあいやないねんけども、
ときどき、濃くなる。
ふしぎなつきあいやなと思いますねぇ。
  (つづきます)


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2004-12-27-MON

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