笑福亭鶴瓶の落語魂。
その世界のすべてを愛するということ。




糸井 鶴瓶さんが、ジョギング中に
修学旅行生に会ったときに、
ついつい、帽子を取って
気づかせようと思う気持ち、あるよね。

昔、木村拓哉くんが、
表参道であんまり人に見られないと、
運転している
クルマの窓を開けたっていうんだよ。
鶴瓶 (笑)ははははは。
糸井 ある意味、特殊な習性だと思うんだけど、
「キムタク」
を光線として出したくなるのかなぁと。
鶴瓶 いや、それは芸能人はみんなありますよ。
キムタクだったら、
ちょっと騒ぎになるかもわからへんけど。

誰かも言うてたな。
たぶんマッチやったと思うけど、
ニューヨークかどっか行って、
あまりにもマッチとして
知られへんのでさびしかったと……。

で、誰かマッチの知ってる
日本人のとこへ寄っていったいうてね。
なんや、そういうの、あるんですよ。
糸井 ヤクザの人が
ヤクザどうしで酒を飲んでれば
誰もこわがらないはずなのに、
必ず、カタギのいるところに来て
「俺はヤクザだ」とばかりに飲むじゃないすか。

あれもきっと、そういうことですね。
ヤクザだけの集団では、つまんないんだよね。
要するに、関係の中に自分がいるというか……。
鶴瓶 ぼく、前に、飛行機の中で会うた人で
「感じのええ人やねんけど、絶対ヤクザや」
とわかってる人がおって。

ものすごい、感じがいいんです。
ごっついしね、男前やし。

男前なヤクザやなぁと思て、その人が
「清水湯て、ありますなぁ」と言うてはったんや。
「あ、そうですかぁ」いうて挨拶して、
そのことは忘れて、
実際にたまたまその銭湯に行ったんですが、
裸のときは、最初はわかれへんかったんです。

ものすごい紋々を入れてはる人が
たくさんおんねんけど、
ポッと入ったらその人がおって、
ものすごい丁寧やし、敬語で……
たぶん、いちばんトップなんやろね。

その人が丁寧やと、
他の子分の人たちも、みんな丁寧で。
そこでわーっとしゃべってはったんや。

で、こちらが帰るときは、トップやから
「お先、失礼します」
て言わないと悪いなと思って
「あ、お先です」言うたら、
まわり、全員入れ墨で。

ふつうやったら
コワイやろんなという人らが
バッと立って
「失礼します!」
「ございます!」て……
ちょっと、気持ちよかった。

入れ墨がおじぎしてくれるいうのは、
気持ちいいわ、これは。

糸井 格闘技の連中って、
ヤクザとのつながりが多いじゃないですか。

そういうことにくわしい知りあいに
「ヤクザって、格闘技が好きなんですね」
って言ったら
「ちがうんです」と言うんです。

「逆なんです。
 格闘技の連中のほうが、
 ヤクザを好きなんです」と。

格闘技の選手のほうが、
ヤクザにあこがれているところがある……
あれは、格闘技の人のほうが、
呼びこんでいるんですね。
鶴瓶 ぼくもヤクザが好きなんかなぁ。
よぉ呼びこみますよ。
糸井 それは、
やっぱり呼びこんでるんですよ。
やっぱりこう、まん中の道じゃないところを
歩いてる人どうし、なんでしょうね……。
鶴瓶 オセロがまだ売れる前に、
新幹線で東京駅を降りたぼくを
取材するという収録をやっていて……。

だけど、ぼくが遠くにいたときに、
ヤーさんたちが集まってきた。

「おまえらこんなところで
 なに遊んどるんや、アホンダラ!
 邪魔になるがな、ボケェ!」
ってなったんです。

うわぁ、思てたんだけど、
出ていったら、その団体がフッと俺を見て、

「アンタかいな……アンタやったらええわ」

それで、去っていった。
あれ、なんやってんな?
「アンタかいな……アンタやったらええわ」
て……。
糸井 不思議なものだねぇ。
鶴瓶 なんか、
ちょっと好かれんのよね。ヤクザに。
糸井 落語の中では、ヤクザも侍も、
みんなゴチャゴチャですからね。
その空気を持った人としては、
おかしくないですよね。
鶴瓶 ヤクザの人って、やっぱり、
ひとことひとことがハッキリしてて。

昔は一緒に、
入れ墨と一緒に風呂入ってたから。
公衆浴場、行ってたでしょう?
糸井 うん。当時はいっぱいいましたよね。
鶴瓶 子どもにシャンプーしてる
ヤクザがいてたのよ。
子どものアタマを洗ろてるけど、
子ども、ガーッて泣いてんですよ。

もう「ウワー!」て……。
そのときにヤクザが言ったのが、

「もう、あとは自分でリンスしぃや」

……。
糸井 (笑)
鶴瓶 これはいまでも忘れられない。
笑ろたらあかん思たけど、
「あとは自分でリンスしぃや」と。

ふつうのおばちゃんや
おっちゃんやったらおもろない。
「リンスしぃや」て……。
糸井 ヤーさんがリンスのことまで。
鶴瓶 だからやっぱり、
ヤクザっておもしろいんですよ。
糸井 要するに、
天皇家とかヤクザとか、
ふだんよく見ちゃいけないものが、
おもしろいんですよね。
鶴瓶 おもしろいから言うて、
バカにしたらあかんし……。
糸井 はい。

ただ、お笑いのなかには、
そのへんでヘンな勇気を
見せるみたいな近づきかたをして、
台無しにしちゃう人もいますよね。

鶴瓶さんの場合は、そういうときに、
だいたい「触るだけ」っていうのが、
多いじゃないですか。
鶴瓶 うん。
糸井 もちろん、
触るだけでもけっこう温度があるし、
ドキドキしてたりもするし……
そういう関わりかたを、
もっと認めたいですよね。

「リンスしぃや」っていうのは、
それこそ触るだけですから。
鶴瓶 「リンスしぃや」って、
めっちゃおもろいやん。

  (明日に、つづきます)


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2004-08-10-TUE

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