笑福亭鶴瓶の落語魂。
その世界のすべてを愛するということ。




鶴瓶 いつもロケ先で
キュー出したみたいなことばかり
起こるのは、
ツイてるいうんもあるけど……。

ただ、いつも絶対スタッフに言うのは、
「そんなオバちゃんが来てもとめるな」
ということなんです。

「わぁ、ダメダメ!」て、とめる人おるやん。
「サインはアカン」とか。

「だけど、その時間は
 もう、なすがままで、
 俺が自由にされてもほっとけ」と言う。
カメラで撮りにきたら、撮らせておく。

そもそも、とめるっていうのは、
おまえらがおかしいと思うんです。

「騒がしてんのに
 騒いだらあかんいうのはおかしいから、
 一切すな」と。

すると、時間がうまく流れる。

もちろん、誰かに迷惑かけたらあかんけど、
さっきの大阪のオバはんと
京都のオバはんがケンカしかけたときも、
そのままにしてんねん。

「アンタも写真撮ったやないか!」
「撮ってやらんからな!」

もう、めちゃめちゃ言いあいしてるけど。
バスタオルで相手の首締めてんねんもん……。

だけどね、
いちばん大事なのは、
「とめないこと」ですよ。


「いちばんの流れ」をとめない。
糸井 はい。
「今あることを信じろ」
っていうことですよね?
鶴瓶 そう。

それを1回でも無理に止めると、
もう「つくり」になる。
だから、その流れを止めない……
そのことには、自分でも確信があるんです。
糸井 ちょうどこのあいだ、そんな話を、
「かつて、欽ちゃんに教わったこと」
としてフジテレビのディレクターの
三宅さんに聞いていました。
それも、おもしろかったんです。

テレビ局の人の都合でやることを、
欽ちゃんがどれだけ嫌ったか、と……
現実を邪魔しないためのマイクの改良とか、
カメラの置き方を、
欽ちゃんがうながしたんだっていうんですよ……。
鶴瓶 まあ、そやろね。

糸井 ただ、テレビのメインの流れは、
どんどん、
「作る側の都合のいいもの」
になっていってますよね。
鶴瓶 そういうときもある。

奄美大島に
『鶴瓶の家族の乾杯』で行ったときも、
スキューバダイビングをやってるっていう
水着の子がふたりおって。

「向こうでやってるんです」と言うから、
「一緒に乗せてもらって行ってもいい?」
って聞いたら、
「どうぞ、乗ってください」と。

ほんで前にディレクターが乗って、
俺とカメラが乗って……
そして、ずーっと行ったら、
そのディレクターが
「ちょっと左寄ってくれ!」と指図した。
そこで俺はブチンとキレたんです。
「おまえが止めるな」と……。

「今、この人たちが
 行くとこに行くねやから、
 おまえが止めることあれへんやないか。
 乗してもぉてんねやからな。
 おまえが止めるな!」

そう言うたら、女の子ふたりが
「あ、ウラ鶴瓶見た」って言うんですよ……

どっちがウラ鶴瓶や。

あなたがたのことを思って言うてんねや。
止めたコイツが悪いのか、
それを戒めている俺が悪いのか、
どっちなんや、と。
糸井 ほんとだね。
鶴瓶 でもね、やっぱりこれは、
テレビに毒されてるんですよ。
止めるディレクターがふつうで、
戒めてしまう俺がウラ鶴瓶で、
権力を使っているように思てるんです。

俺は、この流れを
止めたくないからやってるんであって、
このクルマには、
乗せてもらっているという気があるのに。

しかし、ディレクターは、
自分で作っていこうと思ってしまって……
このディレクターは
あたらしい子やったけど。
ただ、そういう子は何人もいますね。

「俺とカメラマンが乗ってんねやから、
 別にうしろの団体が
 着いてこれなかったって、
 あんなもん関係あれへんやないか。
 向こうで待ち合わしたらいいねやから。
 それで流れを止めてまでも
 待とうという神経がダメなんだ」

って言うたら、こちらが悪者でしょう?
これは、えらい時代になったな思てね。

これはもう、すべてのことに対して
今はそうやと思いますよ。善悪が逆ですね。
糸井 鶴瓶さんの根っこのところにあるのは、
やっぱり、アマチュア性なんですね。
プロになっちゃって安定することよりも、
おもしろいことを探していくっていう
素人の気持ちが原動力なんだ……。
鶴瓶 うん。

たとえば、修学旅行生が、
どっかアルタの近くにおったと。
中学3年生たちが、
パッて見て「あ、鶴瓶」と思た。

ま、他のかた、たとえばタモリさんも
そうせぇとは言いませんけど。
それでバーッて走ってきて
「写真撮らして下さい!」
って言うたら、そんなもん、ええ思い出やん、
撮らしとったらええわ、ですよ。

だから止める子には
「いいやん、撮らしたりぃや」と。

俺で良かったら、なんぼでも撮らすよ。
別に俺が偉いわけでもなく、
その人らに、ええ思い出なるから、
俺はうれしい。

ええことしたな思てうれしいですよね?
糸井 うん、うん。
鶴瓶 だからもう、
修学旅行生が皇居の前歩いとったら、
俺ジョギングしてるんですけど、
帽子取ってわからそうかなと思う……。

  (明日に、つづきます)


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2004-08-09-MON

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