第2回「説明できることと、説明できないこと」

物事を研究するつんくさんの目線が
あくまで「一般の日本人」っていうのは
どうしてなんでしょうか。
いや、やっぱりぼくは
自分のことをすごいと思ってないですから。
誰にでもできると思ってますから。
そこがおもしろいんですよね。
分析自体もおもしろいんだけど、
分析する目線のほうがもっと興味深い。
つんく♂さんって、子どものころから、
そういう感じだったんですか。
あの、たとえばぼくは、足が速かったんですね。
ただ、「人よりは速い」というレベルだったんです。
学校で一番っていうレベルで、
国体でトップ、っていうことでは──。
そんな次元ではないんです。
大阪府で十何番ぐらいの。
ああ、でも、すごいですね。
ま、速いんですけど、
それでプロになれるか、生活していけるか、
っていったらそうじゃない。
うん。
そんな中でもやっぱり、
十何番からひとつでも上に上がるためには、
あのカール・ルイスがどうやって走るかとか、
気になるわけですよ。
おもしろいなあ(笑)。
ベン・ジョンソンのバネはどうなってるのかとか、
いろんなことを考えるんですね。
で、ここから先はあの人らの感覚なんや
っていうところはもちろんわからないんですけど、
「あの選手はこうやって走ってるな」っていう、
見た目で理解できる範囲はあるから、
それは徹底して盗むべきやな、
ぐらいのことは思うんですよ。
で、その範囲のことは、人にも説明できる。
教えられると思うんです。
そうかもしれないけど、
実際にそういうふうに説明してる人は
ほとんど、いないですよね。
まあ、あんまりいないですけど、
説明できないわけじゃないと思うんです。
あの、最近になってよくぼくは思うんですけど、
やっぱり、表現活動をする人って、
当然ですけど自分のことが大好きで
自分の作法や論法みたいなものって
「オレにしかできねぇな」と思ってるんです。
ああ、なるほど。
やろうと思ったらほんとは説明できるのに、
「オレにしかできねぇな」
ということで説明しない。
うん、そうですね。
で、それが意外と「七ならべ」でいうところの、
六とか八を持ってるのに出さへん
トランプをしてるような‥‥。
あーーー、すごく、おもしろい(笑)。
それが、つまらんなあって思うこともある。
そこ、八、出せへんかったら
九も十も行かへんやん。
うん(笑)。
「なんでそこ止めんの?」っていう。
うん、うん(笑)。
いや、それ、ぼくは両方の気持ちがわかりますね。
というのは、いつもぼくは
「半分までは教えられるぞ」
って思っているんですよ。
ああ、はい、はい。
で、残りの半分は、やっぱり説明できない。
なんとか、ことばにすることは
できるのかもしれないけど、
説明しきった瞬間に、なにか、
違ったものになっちゃうと思ってて。
それは、たとえばどういうことですか?
たとえば、歌詞を書くにしても、
Aっていう歌詞とBという歌詞に
同じような条件がほとんどそろってるのに
なにか、魅力が違う。
うん、うん、うん。
とか、こいつの話は、
ほかの人と同じ話してるはずなのに
どうも、惹きつけるなとか。
けっこうなところまで言えると思うんだけど、
言える部分が全部かというと、違う。
説明できる部分を完全にコピーできれば
同じようになるかっていうと、
たぶんそんなことないと思う。
あ、なるほど。えっと、そうです。
そのとおりだと思います。
うん。
ていうことは、えー。
さっきのリズムの話の
「ネイティブ」に当たる部分でしょう?
そうですね。
その人の持ってる本質の部分ですよね。
そこは教えられない。
教えられないし、
その人のもつ本質の部分、
その人なりの「ネイティブ」の部分は、
変えたり削ったりしちゃだめだと思うんです。
うん。それはまさに、
つんく♂さんがモーニング娘。を
プロデュースしているやり方ですね。
そうですね。
たとえば、仙台かどこかの
オーディションに合格して、
今日からモーニング娘。です、
っていう女の子がいたとして、
「じゃあ、マイクスタンドの高さ合わせて」
って言ったら、
「どうやるんですか?」ってなるんですね。
で、「あ、そうか、そっからやな」
って思うんですけど、
それは、できなくて当たり前なんですね。
うん。
ぼくなんかはもう、シャ乱Qのころ、
年間100本ぐらいのライブを
こなしてからプロになったから、
マイクの高さの変え方から、
1曲目が終わったときのMCでなに言うかまで
わかってるんですけど、
はじめてマイクスタンドの前に立つ子には
そんなんわからなくて当たり前なんです。
というか、その部分こそが
その女の子が新鮮でいられる理由でもある。
だから、さっきの「ネイティブ」なところですね。
そうですね。
クセとか、なまりとかに近いもの。
そうです。
それはいつまでも、かわいらしい部分。
だからそこを削る必要はないなと。
そこまでわかったうえで、
説明しようとしてるんですね。
なるほどね。
ものすごい運動神経を持った
スポーツ選手のような輝き方もあるけど、
限りなく素人の輝き方ってあるじゃないですか。
それはもうぼくら、ある種、
汚れてしまった人間にはもうできへん。
だから、その輝きは残したまま、
説明できる部分をきちんと鍛えていく。
そうなんですよ。
たとえば、ひとりの女の子がいたときに、
その子が「お母さんっぽい」っていうことが
取り柄になるんだなんてことは、
本人には絶対にわからないんですよね。
はい、はい、はい。
で、みんな、
そこのところを直しちゃって
つまんない子になっちゃったりする。
そうですね。
それをつんく♂さんは、
ひとつ高いところから見ていて、
「それは誰にも真似できないから
 そのままにしとけよ」
って教えてあげるのと同時に、
違う部分に対しては
「こっちはきちんと練習しなさい」
っていって、足し算していくんですね。
そうです、そうです。
(続きます)

2006-12-15-FRI

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