Hobo Nikkan Itoi Shinbun
ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン ゼネラルマネージャー塚越隆行さん✕糸井重里 対談
第3回 これが、広告の仕事?
糸井 『ピノキオ』のDVDのプロモーションのときは
塚越さんとコピーライターのぼくのふたりで
また営業に行って、購入特典に金平糖をつけました。
塚越さんとの仕事は、そんなことばっかり。
お金がすべての目的というわけじゃ
もちろんないけど、
「売れなかったらガッカリする度合い」が
ほかの仕事と全然違いました。
なんといっても塚越さんといっしょに
神社に祈願に行ったくらいですから。
塚越 築地の波除神社に、
糸井さんと一緒に行きましたね。
糸井 塚越さんは、社内で企画を通したり、
金平糖屋さん相手に
コスト面でねばりにねばったりしてた。
そこでも「成立させたい」と思う気持ちと、
「やっぱ当たってくんなきゃね」
という気持ちがある。
塚越 それに加えて、
『ピノキオ』の最後のしあげは
「星に願いを」を矢沢永吉さんに
ディズニーシーで歌ってもらうことでした

いまじゃこれは、もう伝説のように言われていますが。

糸井 そうだった。あのイベントはすごかったね。
塚越 映画『ピノキオ』で流れる「星に願いを」という歌を、
ぼくらがもういちど
本格的に再市場をつくるための武器にしたわけです。
糸井 「さて、日本であれを誰が歌いましょうか?」
という話になって、
ぼくらには永ちゃんしか考えられませんでした。
ロスに録音に行って、
永ちゃんが英語で歌ってくれました。
塚越 それを『ピノキオ』のDVDに
特典映像として収録しましたね。
糸井 永ちゃんにとってみれば、
他人の歌を英語で歌うだけのことです。
だけど「やるよ」って言ってくれました。
その仕事の大きな締めが
伝説のように言われる東京ディズニーシ―でした。

ミッキーマウスが夜のショーの途中でとつぜん
「ぼくの友だちを紹介するよ」といって
矢沢永吉さんを紹介しました。
そして、永ちゃんが登場。
東京ディズニーシーをお掃除してる人も
ホントにビックリしてた。
塚越 あの日に矢沢さんが来ることを知ってる人は、
ほんの数人でした。
なぜシークレットだったかというと、
安全を確保しなきゃいけなかったからです。
サプライズゲストの
サプライズイベントっていうのかな。
糸井 そこに金平糖屋さんもひそかにお呼びして、
たった1曲の、永ちゃんの「星に願いを」。
というのが、広告の仕事‥‥?

一同 (笑)
塚越 でもね、次の日のワイドショーは
すごかったんですよ。
各局で前夜のディズニーシーのようすと
ピノキオのステージを放映していました。
パブリシティの効果としては
大きいことでした。
糸井 シークレットだったから、
マスコミの人たちも呼べなかったんですよね。
だから、塚越さんたちが用意した
映像しかない状態でした。
塚越 うちのチームが
各局に時間枠だけ押さえてもらってて
夜中、懸命に映像を編集してました。
事前に詳細は言えないから、
「夜の11時すぎに
 何があったかあきらかにします、
 とにかくあした、枠を空けといてください」
糸井 スポーツ新聞も書いてくれましたね。
塚越 オフィシャルの写真、持ち込みでね。
そういうことをやりながら、
ぼくらだって、すごく楽しみました。
糸井 うん。そして、あれは
ただ「ピノキオ」をDVDで再発売する、という
広告を作ったのとは
違う売上になりましたね。
塚越 なりました。
糸井 そういうようなことを塚越さんと
何度かくり返している中で、
ぼくはだんだん広告の仕事自体を
まったくしない状態になりまして、
結局、ごはんを食べるだけの関係に
なってしまいました(笑)。
塚越 仕事をしてないくせに、会う。
糸井 うちの社員たちも
ただ「なかよしの人たち」という
イメージでいた。
塚越 「食べトモ」ね(笑)。
糸井 それがずうっと続いてたけど、
「機会があると
 また塚越さんと、一緒にできるかもしれないな」
と思っていました。
塚越 「おもしろい話があればねぇ」
という状態でした。

糸井 それはお互いに思ってました。
塚越 そして、ぼくが
MovieNEXという
あたらしいことを抱えて、
糸井さんに会いにやってくる日が来たのです。
糸井 まぁ、最初は昼ごはんのカレーを食いながら
ふむふむ、って聞いてたんだけどね。

ぼくはぼくで、このところずっと心にあって
いずれ塚越さんにも話そうと思ってたのが
ツリーハウスの計画でした。
なぜ塚越さんに話したかったかというと、
「ツリーハウスはメディアだ」と思っていたからです。

たとえば、ひとりの人が誰かにプロポーズをするために
彼女の名前をつけたツリーハウスをつくって
「きみを迎えようと思って建てた」
というのもアリでしょう。
「一緒に気仙沼へ行ってくれる?」ととつぜん言って、
山をのぼって「ハァ、ハァ」って、息が荒くなると、
好きなんじゃないかと思うじゃない(笑)?
塚越 ドキドキするね(笑)。
糸井 あるいは、何だろうな?
自分たちのグループの特別な
秘密基地にしようといって
ツリーハウスをつくるのもいい。
「焚き火の会」だとかさ。
いつもは違う場所で活動していても
「私たちの本部はあそこなんですよ」
というやり方もある。
大きい会社が「優勝おめでとうツリーハウス」といって
つくるのもいいし、
何か宣伝したいことがあれば
そこをチラシを撒く場所にしてもいい。

家族がひとつ持ったり、会社がひとつ持ったり、
そういうようなことをだんだんと
やっていきたいなと思っていて、
「ああ、ここにディズニーがいてくれたら
 きっとおもしろいだろうなぁ」
という思いはありました。
でも、まだ目も鼻もついてない状態だったんで、
塚越さんに言うには早いと思ってました。

もうちょっとしたら、
いろんな会社を順番に訪ねようかなと思ってたところ、
塚越さんのほうからやってきてくれた。
だけど、カレーを食べてる時点で、
ツリーハウスの話をするつもりは、
俺、なかったんだよ。
塚越 ぼくはまったく別の用件で来ました。
しかも昼飯、食べてきちゃってたし。
糸井 「ちょっと悪いけど、塚越さん、
 俺食うから、コーヒーを飲んでて」
塚越 「アイスコーヒーでいいですか。
 お昼、食べてきたんで」
糸井 カレーを食べながら
「塚越さん、何?」
って訊いたら、こう口を開いた。
「実はね、糸井さん、時代は
 ミッキーのDVDをつくったときと、
 まただいぶ、違うんですよ」

(つづきます)
2014-02-21-FRI
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